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「鼻印」で歩く

三洋化成ニュース No.516号

「鼻印」で歩く

2019.09.01

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                                                                             (写真=大山雄大)

大きく分けて歩き方には2種類あると思います。一つは目的地を決めてそれに向かって歩く歩き方。もう一つ、ハイキングや健康のために楽しみながらウォーキングをする歩き方もあります。今回は五感を通して入ってくる情報を楽しむ歩き方の新提案。「鼻印」を頼りに歩いてみたいと思います。

 

「珍獣王国」というバンドを率いる山下純一さんという友達がいます。作曲もしながら、ブルースハープ奏者、ボーカルとしても活躍する人です。全盲で、車椅子で移動する純ちゃんは以前待ち合わせする時に「鼻印はラーメン屋さんやでー」と衝撃の一言。周りが見えない純ちゃんにとって町を移動する時は「目印」ではなくて「鼻印」が当たり前なんです。私もすごく刺激を受けたので、今日は匂いや香りを意識しながら高瀬川沿いを二条から七条まで歩いてみましょう。

 

すると早速、一之舟入の辺りに立ち止まると近くの料亭からか、お寺からか、微かにお香の香りを感じます。二条通から三条通までは高瀬川の東側しか歩けないのですが、三条の少し手前に来ると甘い和菓子の香りがしてきます。私の大好きな「鮎」を焼いているのでしょうか。三条の橋のところに佐久間象山の記念碑が立っています。私の家には佐久間象山の書いたといわれる書がありますので、いつもここを通ると手を合わせます。木屋町通は実に匂いの宝庫です。川の横のイタリア料理屋さんからはピザを焼いている匂いがしますね。そして記念碑の横からは食べ物だけでなく、小さな白い花の甘い香りがしてきます。

 

四条からちょっと下がった高瀬川沿いにまさに今、新しい店を作っている最中の場所がありました。ここでは、削った新しい木の香りがします。しかしこの辺りは、私が来た頃と比べても随分と景色が変わりました。

 

五条通の手前に公園があるのをご存じでしょうか? まだ藤の花は咲いていませんが、時期が来ると良い香りがするんです。そんな匂いを考えていると、ふと、日本に来た頃の花の香りを思い出します。私が住んでいた下宿先に金木犀の木がありました。今でも秋の金木犀の香りを嗅ぐと当時のことを思い出します。

 

五条通から七条まで来ると、違った雰囲気になり、古くから変わらない高瀬川の姿もここにはありました。車も少なくて、店もほとんどない。でも、銭湯はまだあって、その前を通るとお風呂屋さん独特の石鹸の香りが漂います。住宅街に入ると、また下宿先のおかみさんと交わした会話を思い出します。「お隣、ボーナス出たんやな」私は「えっ、なんでボーナス出たってわかるの?」するとおかみさんが「すき焼きの匂いがするもん」と教えてくれました。今ではすっかり感じなくなった日本の情景かもしれませんが、この辺りは、まだまだそんな生活の匂いと会話が聞こえてきそうです。

 

世界的に見ても、日本人ほど匂いや香りに敏感な国はないと思います。まして香りで道を究める「香道」などは、日本の文化の象徴といえるでしょう。

 

今日の散歩で、普段の自分の「物の見方」を少し変えることができました。皆さんも周りに不思議がられない程度に「クンクン」と匂いや香りを意識しながら歩いてみてください。

 

「目印」ではなく「鼻印」を意識することで、もっと違った発見があるのではないでしょうか?

 

〈ジェフ・バーグランド〉

京都外国語大学国際貢献学部グローバル観光学科教授。
専門は異文化コミュニケーション。アメリカ・サウスダコタ州生まれ。
江戸時代後期に建てられた京町家に暮らし、執筆・講演・メディア出演多数。
2014年京都国際観光大使に就任。
KBS京都の『JEFF@KYOTO おもてなし京都観光』は、YouTubeでも配信されている。

 

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