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ヨウ素移動重合を利用した高吸水性樹脂の高性能化

三洋化成ニュース No.517号

ヨウ素移動重合を利用した高吸水性樹脂の高性能化

2019.11.09

事業研究第二本部 SAP研究部
ユニットチーフ
宮島 徹 

[お問い合わせ先]
SDPグローバル株式会社 第一営業部

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高吸水性樹脂 (Super absorbent Polymer,以下SAP)1)は水を高度に吸収・保持する機能性ポリマーである。1974年に米国農務省北部研究所から世界で初めて自重の数百倍の吸水力を持つSAPが報告され、その後三洋化成がコスト、安全性を改良することで工業化に適したSAPの開発を行い、1978年に世界で初めて商業生産を開始した。それ以来、SAPは紙おむつなどの衛生材料に不可欠な素材として高成長を遂げ、2018年の世界需要は約300万㌧に到達した。新興国においては、子ども用紙おむつや生理用品の普及はより快適な生活を実現し、さらには女性の社会進出を後押しする。また先進国においては、大人用紙おむつを通じて、まだまだ元気な高齢者の社会での活躍支援や、寝たきりの高齢者の介護負荷軽減が期待される。SAPは人々のQOL向上に貢献する重要素材の一つと言っても過言ではない。近年の紙おむつ業界の潮流としては、コモディティ化に伴う競争激化、インターネットを通じた消費者の意識向上などを背景に、訴求機能の高度化・多様化、リニューアル周期の短期化がますます進んでいる。当社ではこの動きに追随し、顧客要望を満たす高機能SAPを提供するべく、性能底上げのための新技術の確立が急務となっていた。この目的のため直近開発に成功した画期的な新製法を本稿で紹介する。

 

紙おむつの動向とSAP に求められる機能

紙おむつの一般的な構成は、尿の拡散と吸収を担うSAP/パルプ層を中心とした多層構造からなる(図1)。紙おむつの形状は、パンツタイプ、テープタイプに加え、大人用でインナーに使用されるパッドタイプに大別され、使用者の年齢、性別、体格、生活環境や交換頻度に応じた多種多様な製品が上市されている。主な共通ニーズは薄型化、漏れの低減、表面のドライ性向上などである(表1)。

 

 

SAPに求められる主機能は、①単位時間当たりに尿をたくさん吸収すること、②尿の拡散を促進しおむつの有効利用面積を増やすこと、の2点であり、①は吸収量と吸収速度が、②は荷重下での耐ゲルブロッキング性とゲル間の通液性が重要な因子となる。①と②はトレードオフ関係にあり、個々の紙おむつの特性や他部材との相性を考慮した性能最適化が求められる。一般論として、薄型おむつでは、尿の拡散を担うパルプの削減をカバーするために②を重視したSAPが用いられる。一方、大人用おむつでは、子ども用に比べて尿量が多いため、①を重視したSAPが好適となる。市場の要求に幅広く、かつ迅速に対応するためには、性能バランス調整の自由度拡大が重要課題となっていた。

 

SAP の化学構造と従来のフリーラジカル重合法

SAPは高分子量の高分子電解質が軽度に架橋された網目構造を基本骨格とする(図2)。現在の市場では、吸水特性とコスト面から、アクリル酸と苛性ソーダを主原料とするポリアクリル酸塩架橋体が圧倒的大多数を占めている。現在主流となっているSAPの工業的製法は水溶液重合法である。本プロセスでは、アクリル酸(塩)と架橋剤を水溶液中に一括に仕込みフリーラジカル架橋重合させた後、ゲルの細断、乾燥、粉砕・ふるい分けを行い、機能付与のための表面処理(二次架橋、助剤添加)を経て製品となる(図3)。本プロセスでは重合温度幅の広い断熱重合法などが工業化されているが、分子量分布が広くなりやすい。

 

 

一般に、フリーラジカル架橋重合で製造された高分子ゲルは網目構造が不均一であることが知られており、ポリマー鎖が高度に絡み合った糸まり部分や網目になっていない欠陥部分が存在する。当社では、これらの構造不均一性が、絡み合いによる膨潤阻害や網目利用効率低下の観点でSAPの吸水性能発揮を妨げていると考え、網目構造の均一化による吸水性能向上を目指した。この具体策として着目したのが制御ラジカル重合の適用である(図4)。

 

 

制御ラジカル重合法とは

従来のフリーラジカル重合では、成長ラジカルの極めて高い反応性に起因して再結合や不均化による停止反応を併発しやすく、生成物は分子量の不ぞろいなデッドポリマーの混合物となるなど、精密構造制御には不向きな面があった。一方、制御ラジカル重合法は、成長ラジカルを適切な保護基で可逆的に保護することを基本機構とする精密重合法で、脱保護、モノマー付加、保護の繰り返しにより停止反応を抑制しながらポリマー鎖が均等に成長する。本手法をSAPの水溶液重合法に適用すれば、一次ポリマー鎖の分子量の均一化やポリマー鎖当たりの架橋基導入量の均質化が可能となり、網目構造の均一化が期待される(図4)。

 

ヨウ素移動重合法とは

現在までにさまざまな制御ラジカル重合法が提案されているが、その多くは制御剤に由来する実用上の課題があり、工業製品に適用された事例は多くない。SAP(衛生材料)への適用においては「安価・安全・低毒性・無着色・無臭」である必要があり、有機ヨウ素化合物を制御剤として用いるヨウ素移動重合法(Iodine Transfer Polymerization,以下ITP)2)に着目し、検討を行った。

ITP法の反応機構を図5に示す。一般論として重合制御のキー機構はd)交換連鎖移動であるが、今回の対象であるアクリル酸の水溶液架橋重合系では、特に高分子量体が生成しやすい重合初期における絡み合い抑制(分子量制御)が最重要ポイントであり、b)連鎖移動をスムースに進行させることが肝要となる。本稿では詳細な説明を割愛するが、課題解決に向け、ヨウ素化合物専門メーカーとの共同開発により、高い連鎖移動速度と水溶性を兼ね備え、かつ重合中の加水分解に耐える最適な有機ヨウ素化合物を開発した。

 

 

分子量制御効果の確認

新たに開発した有機ヨウ素化合物の少量存在下、架橋剤を使用しないこと以外はSAPと同一の重合条件でアクリル酸の水溶液断熱重合を実施した。比較対象として分子量調整剤を加えない従来系と既存の連鎖移動剤である次亜リン酸Na(NaH2PO2)を添加した系でも同様の重合を実施した。得られたポリアクリル酸のGPCチャートを図6に示す。比較系2水準については、排除限界の関係上正確な分子量分布を知ることはできないが、GPCチャートの非対称な形状から実際には分子量数千万以上の超高分子量体を相当量含む非常にブロードな分子量分布を持つと推定される。一方、開発化合物を使用したITP系では、低分子量成分の増加を伴わずに超高分子量成分を低減できていることが確認できる。

 

 

SAP への適用

続いて、各重合系において架橋剤の存在下で架橋重合を実施し、得られた含水ゲルを細断・中和、乾燥、粉砕を行い粒子状のベースSAPを作製した。図7に示す通り、ITP系では従来系と比べて保水量が約15%向上することが確認できた。本効果は、従来技術では困難であった吸水性能の改善や表面処理の自由度拡大につながり、表面処理を施した製品性能において従来系対比で他性能を維持したまま約5~10%程度の保水量向上が可能となる。一例として、代表的処方での確認結果を表2に示す。

 

 

開発した重合法は、重合速度遅延や残存モノマー増加などの生産性の悪化を伴わず、開発化合物を追加すること以外は従来のSAPのプロセスと同じ要領で実施できる。また特別な後工程を加えなくてもSAPの着色や安全性に悪影響を及ぼさない。これらの特長を活かし、既存設備を用いてスピーディーに工業化が進められ、サンウェットシリーズへの導入が開始されている。

 

動的光散乱によるゲル構造解析

SAP性能の向上と網目構造の関連性を考察すべく、従来系とITP系それぞれに対して動的光散乱(DLS)法によるゲル構造解析を実施した。電荷を持つSAPでは測定が困難であるため、測定試料には未中和の重合ゲルを代用した。測定ではゲルが充填された試験管を回転させ測定位置を変えながら光を照射し、時間平均散乱強度<I>Tの測定位置依存性を調べた。図8に示す通り、従来系では、散乱強度が測定位置に依存して激しく揺らいでおり、架橋ゲル構造の不均一性を反映している。一方、ITP系では揺らぎが大きく低減されており、構造不均一性の緩和が示唆された。開発の着想となった網目構造の均一化による吸水性能向上仮説を裏付けるとともに、制御重合の適用による網目構造の制御がSAPでも実現できたことを示す結果である。

 

 

今後の展開

紙おむつは、新興国の経済成長や先進国で進む高齢化を背景に、今後もその需要が増加するとみられている。本技術を通じて高機能化が進む紙おむつの高度なニーズに対応し、サンウェットシリーズのさらなる販売拡大とグローバル展開を加速させていく。

また本技術は、大規模生産されている汎用ポリマーに世界で初めて制御ラジカル重合を適用した事例であり、学会においても高く評価されている。クリーンかつ安価で生産現場にも優しいITP法の他用途展開の可能性についても模索していく。

 

参考文献
1)増田房義「高吸水性ポリマー」高分子学会編, 共立出版 1987
2)建元正祥, 高分子論文集 1992, 49,765-783

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