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[vol.4] 息をのむほど美しい 絶景紅葉路線

三洋化成ニュース No.523

[vol.4] 息をのむほど美しい 絶景紅葉路線

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2020.11.12

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文・写真=鉄道写真家 中井精也

鳴子峡と陸羽東線。高さ約100mのV字型渓谷を囲む紅葉は、息をのむ美しさ (2010.11.1/陸羽東線 鳴子温泉駅~中山平温泉駅)

鳴子峡と陸羽東線。高さ約100mのV字型渓谷を囲む紅葉は、息をのむ美しさ (2010.11.1/陸羽東線 鳴子温泉駅~中山平温泉駅)

 

 

日本の鉄道風景は四季折々美しく変化しますが、美しい紅葉の中を走る秋のローカル線の風景は格別です。紅葉は最盛期が短く、年によって色付きの良し悪しもあるので、その撮影はまさに賭けでもありますが、今回は僕の長年のキャリアを通して培った紅葉の名所の探し方、そして絶景紅葉路線をご紹介しましょう。

紅葉の絶景探しのポイントは「寒暖差」と「標高」

紅葉が色付く場所を探すポイントは「寒暖差」と「標高」の二つです。寒暖差でいえば、やはり朝晩の冷え込みが大きい気候のほうが有利で、温暖な西日本よりも東北に紅葉の名所が集中しています。そんななか、注目すべきポイントは、川沿いを走る区間です。秋になると川の水温は低下し、周囲の空気との寒暖差が大きくなることで木々は美しく色付きます。紅葉の全盛期前に一部だけが美しく色付いていることがありますが、そんな場所はだいたい川沿いの区間や渓谷、鉄橋の周辺になります。

もう一つの色付きの条件である標高は、鉄道的に見るとちょっと不利です。一般的な紅葉の名所として知られる大雪山(だいせつざん)八幡平(はちまんたい)、奥日光などは、どこも標高が高いところばかり。その点、日本の鉄道の線路が敷かれている場所は高度が低いところが多く、あれほどの色付きは期待できません。そんななか僕の経験からおすすめしたいのは、県境にある峠です。県境は人里離れた険しい峠に置かれることが多く、比較的標高が高いことから紅葉の色付きが良い場所が多いのです。

紅葉の名所が少ない西日本でも、島根県と広島県の県境を越える木次(きすき)線や、鳥取県と岡山県を越える伯備線などは紅葉の絶景路線ですが、ともに中国山脈にある県境をまたぐ路線です。

 

感動間違いなし!東北の絶景紅葉路線

全国的に見て絶景紅葉路線がもっとも集中しているのは、奥羽山脈の周辺でしょう。上の作品は、奥羽山脈を越えて宮城県と山形県を結ぶ陸羽東線で撮影したもの。日本有数の景勝地として知られる鳴子峡を鉄橋で越えるこの場所は、どんなに紅葉のハズレ年といわれる年でも、きれいな紅葉が望める鉄板ポイントなのです。紅葉の見頃は10月下旬から11月上旬にかけて。同じく宮城県と山形県の県境をまたぐ仙山線も、紅葉の名所。やはり県境の奥新川(おくにっかわ)〜面白山高原の色付きは最高です。

奥羽山脈を越える路線のうち、岩手県と秋田県を結ぶ路線には、花輪線、田沢湖線、北上線といった絶景紅葉路線が目白押しです。とくに北上線のほっとゆだ駅付近では、紅葉の名所である錦秋湖に沿って走るため、息をのむほど美しい紅葉を堪能できます。田沢湖線は秋田新幹線こまちが走る路線で、とくに県境の仙岩峠の紅葉は、新幹線の車窓から見える紅葉としてはベスト1といえるでしょう。

 

紅葉に溶けるように (2012.11.2/北上線 ゆだ錦秋湖駅~ほっとゆだ駅)

紅葉に溶けるように
(2012.11.2/北上線 ゆだ錦秋湖駅~ほっとゆだ駅)

 

また北上山地を越えて岩手県内陸部と沿岸部を結ぶ釜石線は、足ケ瀬駅から陸中大橋駅にかけての紅葉がみごとですが、宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』のモデルともいわれる路線だけあり、童話や民話の世界そのままの郷愁あふれる沿線風景も魅力です。とくに宮守駅近くのめがね橋を渡る釜石線は、とてもロマンチックですよ。

そして、南東北の水郡線の茨城県と福島県の県境に近い矢祭山駅付近では、11月上旬から中旬にかけて、真っ赤に色付いた紅葉が鉄橋を飾ります。久慈川の清らかな流れと、鮮烈な秋の色のコラボレーションをぜひお楽しみください。

 

久慈川と鮮やかな紅葉を望みながら走る水郡線(2016.11.16/水郡線 矢祭山駅付近)

久慈川と鮮やかな紅葉を望みながら走る水郡線(2016.11.16/水郡線 矢祭山駅付近)

 

自分だけのちいさな秋を探す旅

奥羽山脈の西側に沿って南北に走る秋田内陸縦貫鉄道は沿線のほとんどが紅葉の名所といっても過言でない路線で、比立内川渓谷の燃えるような紅葉の色は、忘れられない車窓風景になりました。

 

車窓からの紅葉狩りは究極の贅沢 (2018.10.24/秋田内陸縦貫鉄道 比立内駅付近)

車窓からの紅葉狩りは究極の贅沢
(2018.10.24/秋田内陸縦貫鉄道 比立内駅付近)

 

西明寺駅付近で出会ったおばあちゃんが抱えていたのは、赤ちゃんのこぶしほどの大きさがあるといわれる西明寺栗。渋皮が薄くほっこりとした栗の濃厚な味に、秋の恵みを感じました。秋の鉄道旅のハイライトはやはり紅葉の絶景ですが、それだけではありません。岩手山、岩木山、鳥海山といった名山の風景から、東北ならではの個性的な稲干しの風景、軒先に干された柿や大根に至るまで、そこかしこに秋は隠れています。

 

 

 

 

いま、東北の山々は真っ赤に燃えています。ぜひ秋にはのんびりと鉄道に乗って東北を旅して、紅葉の絶景を車窓から楽しみつつ、自分だけのちいさな秋を探してみてはいかがでしょう。

 

雪をたたえた岩手山と稲干しの風景(2018.11.2/IGRいわて銀河鉄道 好摩駅付近)

雪をたたえた岩手山と稲干しの風景
(2018.11.2/IGRいわて銀河鉄道 好摩駅付近)

 

※記事中の水郡線は、紹介した区間は運行していますが、災害のため茨城県側の一部区間で運休が続いており、バス代行運転になっています。復旧は2021年の夏になりそうです。

 

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〈過去にゆる鉄ファインダーでご紹介した写真をこちらから全てご覧いただけます〉

 

 

〈なかいせいや〉1967年東京生まれ。鉄道の車両だけにこだわらず、鉄道に関わる全てのものを被写体として独自の視点で鉄道を撮影する。広告、雑誌写真の撮影のほか、講演やテレビ出演など幅広く活動している。著書・写真集に『1日1鉄!』『デジタル一眼レフカメラと写真の教科書』など多数。株式会社フォート・ナカイ代表。公益社団法人日本写真家協会(JPS)会員、日本鉄道写真作家協会(JRPS)会員。

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