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紙おむつの回収・リサイクルに貢献する脱水性に優れる高吸水性樹脂

三洋化成ニュース No.524号

紙おむつの回収・リサイクルに貢献する脱水性に優れる高吸水性樹脂

2021.02.02

事業研究第二本部
SAP研究部
ユニットチーフ
森田 英二
[お問い合わせ先]

SDPグローバル株式会社
第一営業部

 

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高吸水性樹脂 (SuperabsorbentPolymer:以下SAP)1)は水を高度に吸収・保持する機能性ポリマーである。三洋化成が1978 年に世界で初めて商業生産を開始した。それ以来、SAPは紙おむつなどの衛生材料に不可欠な素材として高成長を遂げ、2018年の世界需要は約300万tを超え、今後も年率5~7%程度の伸びが予想されている。子ども用紙おむつや生理用品の普及はより快適な生活を実現し、さらには女性の社会進出を後押しする。また、大人用紙おむつを通じて、高齢者の社会での活躍支援や、寝たきりの高齢者の介護負荷軽減が期待されるなど、SAPは人々のQOL向上に貢献する最重要素材の一つといえる。

一方で、紙おむつの使用量が増加するにつれて、ごみとして発生する使用済み紙おむつの量も増加する傾向にある。使用済み紙おむつは保管場所の確保や臭気対策、収集場所への運搬作業が使用者や介護者の大きな負担となっている。このような負担を軽減し、一般ごみとして増加しつつある使用済み紙おむつを処理する新しいシステムとして、国や民間企業で下水道への紙おむつ受け入れやリサイクルの検討が進められている。そのためには膨潤したSAPから脱水することが必要となる。SAPは吸水することで膨潤したゲル状態へと変化するが、吸水した分だけ、重量と体積が大きくなる。使用済み紙おむつを廃棄、回収する場合、その中に含まれるSAPのゲルを脱水処理することで重量を減らし、減容化することが必要となる。脱水、減容化することで、ごみ運搬時や焼却時のエネルギーを低減させることが期待できる。

本稿では、紙おむつの回収・リサイクルシステムの構築に向け、吸水し膨潤したSAPを塩化カルシウムなどで処理した際に速やかに脱水し、優れた脱水性を発揮する『サンウェット DH』について紹介する。

紙おむつの動向とSAP に求められる機能

紙おむつの一般的な構成は、尿の拡散と吸収を担うSAP/パルプ層を中心とした多層構造からなる(図1)。紙おむつの形状は、パンツタイプ、テープタイプに加え、大人用でインナーに使用されるパッドタイプに大別され、使用者の年齢、性別、体格、生活環境や交換頻度に応じた多種多様な製品が上市されている。

 

 

 

SAPに求められる主な機能は①単位時間当たりに尿をたくさん吸収すること②尿の拡散を促進しおむつの有効利用面積を増やすこと、の2点であり、①は吸収量と吸収速度が、②は荷重下での耐ゲルブロッキング性とゲル間の通液性が重要な因子となる。①と②はトレードオフ関係にあり、個々の紙おむつの特性や他部材との相性を考慮した性能最適化が求められる。

 

SAP の吸水原理

SAPは高分子電解質の微架橋物でその性能やコスト面からポリアクリル酸ナトリウム塩架橋体が主に用いられている。SAPの吸水力は、イオンの浸透圧、高分子電解質の水との親和力、架橋密度で決まり、イオンの浸透圧と高分子電解質の水との親和力は高いほど、架橋密度は低いほど吸水力は高くなる。ただし、架橋密度を低くしすぎると、圧力をかけた場合に水を離しやすくなるため、適度に架橋された三次元網目構造を有する必要がある(図2)。

 

 

SAP の製造方法

現在主流のSAPの製法は水溶液重合法である。本製造プロセスでは、溶媒として水を使用し、アクリル酸またはそのナトリウム塩の混合物と、重合触媒、架橋剤などの混合溶液を反応容器中で重合させる断熱式重合法と、連続して動いているベルト上で上記の混合溶液を重合するベルト式重合法などがある。いずれの重合法も得られた重合物を細断後に乾燥し、水分を除去したのちに粉砕、粒度分布を調整し、機能付与のための表面処理(二次架橋、助剤添加)をすることで、最終製品を得る(図3)。

 

 

 

当社品の特長

アクリル酸やアクリル酸ナトリウムを用いる重合では、重合時における重合液の初期pHによって、得られるSAPの分子量が左右される。低いpHで重合するほうが重合速度が速く、高分子量のSAPを得ることができる。従って、重合時のモノマーの種類が分子量に大きく影響を及ぼす。

『サンウェット』シリーズはモノマーとして主にアクリル酸を用いている。得られた重合物を水酸化ナトリウムで部分中和することによって合成している。その結果『サンウェット』シリーズの分子量はアクリル酸ナトリウムを用いた重合法で製造したものに比べて高いことが特長である。高分子量のSAPは吸水量、保水量が高く、膨潤ゲル弾性率も高いことから特に荷重下での吸水力に優れる。

 

紙おむつの脱水処理、リサイクルの動きに向けて

SAPに塩化カルシウムの水溶液などを作用させると、ナトリウム塩がカルシウム塩に置換され、ゲルが収縮して脱水することが知られている。国や民間企業による下水道への紙おむつ受け入れにおける固形物分離や破砕・回収2)、およびリサイクル3)では、この原理を利用して、膨潤したSAPを脱水させることが検討されている(図4)。

 

 

 

国土交通省が進める紙おむつ受け入れは、そのガイドラインによれば、おむつ処理機の中に塩化カルシウムと水を添加して脱水を行うプロセスである。この処理を行うことで、おむつ中のし尿が減り、減容・減量や臭気低減につながる。洗い流される汚水等は下水道へ流入するため、使用済み紙おむつ1枚当たり使用できる塩化カルシウムや水の重量も制限が設けられている。本プロセスの普及が進めば、短時間でより多くの使用済み紙おむつを処理したいというニーズが生じると想定される。

一方で、リサイクルプロセスにおいては、膨潤したSAPとおむつの部材に使われる不織布、ティッシュやパルプといった部材との分離が必要となる。SAPゲルから脱水が進行するにつれて、ゲル状から粉状へと変化するため、分離時間の短縮や分離精度の向上も期待できる。

 

開発コンセプトとSAP の設計

SAPは高分子電解質であるため、SAP周りの塩濃度やpHの影響により、吸水力が低下することが知られている。SAP周りの塩濃度が高いほど、またpHが低いほど、吸水力は低下する。塩化カルシウムを処理させて脱水するプロセスはこの性質を利用したものである。また、塩の濃度や種類が吸水力に大きく影響を与えることも知られている(図5)。

 

 

 

短時間でより多くの使用済み紙おむつを処理したいというニーズに対し、SAPへのアプローチとしては、カルシウム塩との反応性を向上させることが有効である。そのために、SAPの分子量、粒子形状や表面処理を工夫した設計を行うことで、5分後の脱水量を従来品よりも3割程度向上させることができた(図6、7)。

 

 

 

 

 

図8に、膨潤したSAPを塩化カルシウム水溶液に浸漬させる時間に対するSAPの保水量の推移を示した。開発品『サンウェット DH』は浸漬初期における脱水量が多いことがわかる。

 

 

『サンウェット DH』の脱水性が優れている要因は現在解明中だが、①高分子量のSAPのため、吸水したゲル状態においてゲル弾性率が高く、ゲル同士の合着が抑制されること、②表面の凹凸が多く、粒子形状が多孔であるため、カルシウム塩との物理的な接触が増え、反応速度が向上していること、また、③表面処理剤がカルシウム塩をSAPゲル表面付近に引き付けることで反応性が向上していることなどが考えられる。

 

今後の展開

SAPは紙おむつの吸水材料として、主に使用されてきた。新興国の経済成長や先進国で進む高齢化を背景に、今後もその需要増加が見込まれる。一方で、増加する使用後の紙おむつの処理についても、最適な処理方法とは何かを考える時期にさしかかっている。当社では『サンウェット DH』シリーズのさらなる高性能化を図り、下水道の紙おむつ受け入れやリサイクルシステムの構築を後押しすることで社会課題の解決に向けて貢献していく。

 

参考文献
1)増田房義『高吸水性ポリマー』高分子学会編, 共立出版(1987)
2)下水道における紙オムツの受入実現に向けて(国土交通省ホームページより)https://www.mlit.go.jp/mizukokudo/sewerage/mizukokudo_sewerage_tk_000572.html
3)使用済紙おむつの再生利用等に関するガイドラインについて(環境省ホームページより)
https://www.env.go.jp/press/107897.html

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