MENU

革新をもたらす新型リチウムイオン電池「全樹脂電池」の開発

三洋化成ニュース No.529号

革新をもたらす新型リチウムイオン電池「全樹脂電池」の開発

2021.11.16

エネルギー事業推進本部 APB事業推進部 研究グループ

ユニットマネージャー 水野 雄介

[お問い合わせ先]
エネルギー事業推進本部 APB事業推進部 営業グループ

 

PDFファイル

はじめに

リチウムイオン電池は、正極と負極の間をリチウムイオンが移動することで充放電を行う電池のことで、一般に繰り返し充放電が可能なものを二次電池と呼ぶ。鉛蓄電池などの他の電池に比べ、小型で大容量の電力を蓄えることができ、携帯電話、パソコンのバッテリー、産業用ロボット、電気自動車などの幅広い用途で使用されている。

近年、太陽光発電や風力発電といった再生可能エネルギーの普及・拡大を背景に電力貯蔵の必要性が増している。再生可能エネルギーは、日射量や風の吹き具合といった気象条件によって発電量が左右され、そのままでは安定した電力供給が難しい。そこで、発電した電力を必要なときに備えて貯めることができる電力貯蔵と組み合わせることで電力供給システムの安定性を高めることができる。

電力貯蔵は、電力需要全体のバランス調整や、発電効率の向上も可能である。電力需要は1日のうち昼間が最大(ピーク)、夜間が最小であり、夏や冬などの空調を使用する時期に最大となる特徴がある。電力会社では、電力需要量が最も多くなる時期の最大需要に備えた発電・送電設備を確保している。しかし、これらの対応は、電力需要の少ない時期には発電所の稼働率が下がることを意味し、最も効率よく発電できる定格出力での運転時間が減るため、発電効率が低下する。こうしたことから蓄電設備を併設し、需要の少ない時間帯で余剰電力を貯蔵し、ピーク需要の時間帯に供給するピークシフトをして、発電所の稼働を一定にして発電効率を向上させることが期待されている。

本稿では、それら電力貯蔵に革新をもたらす開発中の新型リチウムイオン電池「全樹脂電池」を紹介する。

 

リチウムイオン電池の構造

固体のなかには、隙間の多い結晶構造を持つものがある。そうした固体が正極となり、電子を受け取ったとき、等量の1価の陽イオンが隙間に入れば電流が流れる。負極もその陽イオンが出入りする隙間を持つ場合、同じイオンが正極と負極を行き来する二次電池ができる。その代表的なリチウムイオン電池の反応式を図1に示す。正極にはLiCoO2、負極には黒鉛が使用され、それぞれ正極で式(1)、負極で式(2)の反応が起こり、全体としては式(3)の反応が起こる。リチウムイオン電池は、図2のように主に正極集電体、正極、負極集電体、負極、正極と負極を分けるセパレータ、その空間を埋める電解液で構成されている。正極と負極はそれぞれリチウムイオンを蓄えられるようになっており、このリチウムイオンが電解液の中を通って正極、負極と移動することでエネルギーをためたり取り出したりすることができる。

 

 

 

全樹脂電池の構造と高エネルギー密度化

「全樹脂電池」はAPB株式会社の代表取締役CEOである堀江英明氏が着想し、当社と共同で開発を進めてきた技術で、主要材料を樹脂に置き換え、バイポーラ型構造を採用している全く新しいリチウムイオン電池である。バイポーラ型構造は、1枚の単電池(セル)の表と裏にそれぞれ正極と負極があり、その間に電解質を含んだセパレータを介して積層した構造のことである。

電力貯蔵で使われるような、数kWh ~ 数MWhの蓄電池の場合、必要な出力等に合わせて複数の単電池を直列および並列に組み合わせて使用する。従来型の電池は、単電池を組み合わせるために電池の外装体や接続のための配線が必要である。一方、全樹脂電池は、従来型にはないバイポーラ型構造であり、単電池を積層するだけで電気的な接続が可能なため、接続のための配線が不要となる。つまり、組電池のコンパクト化、すなわち高エネルギー密度化が可能となる(図3)。

*APB株式会社のホームページ https://apb.co.jp/

 

 

リチウムイオン電池の異常時信頼性

リチウムイオン電池は、他の電池に比べて、大きなエネルギーを蓄えられる分、使い方を誤ると発火や発煙といったトラブルにつながることがある。経済産業省の調査では、リチウムイオン電池の異常による事故は近年増加傾向にあり、その多くが火災を伴っている(図4)1)。特に、複数の電池を組み合わせて使用する電力貯蔵では、火災の規模も大きくなる。

一般的に事故の主な原因は、過充電(充電のし過ぎ)、過放電(放電のし過ぎ)、衝撃による電池の内部短絡であると推定されている。内部短絡とは、セパレータの破損や、導電物の介在により電池内部で正極と負極が接触することである。内部短絡が起こると、電気エネルギーを持った正極、負極が直接つながるため、きわめて大きな電流(短絡電流)が流れて電池が高温になり、電解液に引火また発火する。

これまでリチウムイオン電池の異常時の挙動に関してさまざまな検討がなされてきた。しかし実際には、損傷事故は頻発しており、根本的な対策が喫緊の課題となっている。

 

 

全樹脂電池と異常時信頼性

従来型の電池は、集電体に金属が使用されており、集電体の面方向の抵抗が非常に小さい。そのため、図5に示す通り、内部短絡が起こると金属集電体に沿って大電流が短絡箇所に注ぎ込み、発熱・発火に至る。

 

 

一方、全樹脂電池は、集電体に樹脂(図6)を使用している。樹脂集電体は面方向の抵抗が大きく、内部短絡が起こっても大電流が流れないように設計しており、発熱がほとんどなく、異常時信頼性が高い電池となっている(図7)。

 

 

 

電池の歴史が始まって以来、電池の集電体に金属を使ってきた理由は、電気抵抗を低くするためである。図8では、1m×1m×10μmサイズの集電体に関して、従来型電池と全樹脂電池の電気抵抗Rを求めた。公式中のρは電気抵抗率、Lは集電体の長さ、Aは断面積である。従来型の電池における電流の経路は図8(1)に示すように集電体に対して平行に流れている。そのため、集電体部分の抵抗値はρ×105であり、低い抵抗を実現するためには集電体に電気抵抗率の低い金属を活用する必要があった。一方、全樹脂電池はバイポーラ型を採用しており、図8(2)に示すように、集電体に対して垂直に電流が流れている。そのため、従来の電池との抵抗値の差は10の10乗倍にも及ぶ。すなわち、バイポーラ型では抵抗値が10の10乗倍高い材料を使用しても、電池としては十分低い抵抗を維持することが可能となっている。

 

 

このように、全樹脂電池は高いエネルギー密度と異常時信頼性を実現したこれまでにないリチウムイオン電池である。これらの技術を担っている材料が独自開発した樹脂集電体である。樹脂集電体は、樹脂の中に電気を流す導電性のフィラーが分散されている。均一かつ薄膜に成型するために、高度にフィラーを分散させる必要があり、当社の界面制御技術が活かされている。

 

今後の展開

全樹脂電池は、電池の大型化やデザインの自由化を可能にし、電力貯蔵に革新をもたらすだけでなく、幅広い用途への可能性が期待される。特に電力貯蔵は持続可能なエネルギーシステムへの転換を進めるために重要な役割を果たす。全樹脂電池は、太陽光発電、風力発電等の普及を後押しし、脱炭素化を進展させる。全樹脂電池の高エネルギー密度と異常時信頼性の高さを活かして、電力貯蔵を通じて持続可能な社会づくりに貢献していきたい。

 

参考文献
1)経済産業省:LIB搭載機器の安全性(2020年3月)
[https://www.meti.go.jp/product_safety/policy/2019fyreport/document4-6.pdf]

 

問い合わせはこちら

最新記事Latest Article

PAGE TOP