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優れた使用感と乳化安定性を両立したピッカリング乳化剤

三洋化成ニュース No.542

優れた使用感と乳化安定性を両立したピッカリング乳化剤

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2024.01.19

Beauty&Personal Care統括部 企画開発グループ

ユニットリーダー 濵野 浩佑

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Beauty&Personal Care統括部 CXグループ

 

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油と水といった混ざり合わないもの同士の界面に働いて乳化状態を作り出す機能を持つ成分を乳化剤といい、乳液やクリーム、日焼け止めなどさまざまな化粧品に活用されている。乳化剤には一般的に水もしくは油に溶解する界面活性剤が主に用いられるが、界面活性剤は化粧品として皮膚に塗布した際のべたつきや基剤臭による使用感の悪化、汗などの水分による化粧崩れなどの課題があった。また、どの油種に対しても安定な乳化物(エマルション)を与えるわけではないため、油種に対して適切な界面活性剤を複数種組み合わせる必要があった。

本稿ではこれら界面活性剤の課題を解決する新たな乳化剤である『ソリエマー』(開発品)について紹介する。

 

ピッカリング乳化とは

前述の乳化についての課題を解決する方法として、界面活性剤を使用せず、水や油に不溶な固体粒子を乳化剤として用いるピッカリング乳化が知られている1)。ピッカリング乳化では、界面活性剤とは異なり、乳化剤である固体粒子の油水界面への吸着エネルギーが非常に高いという特徴がある。そのため、得られるエマルションは、固体粒子によって物理的に安定化されることから高い乳化安定性を示す(図1)。

 

しかしながら、化粧品に応用する場合には他の化粧品成分の影響を受け、乳化性や安定性が悪くなる場合がある。また、ピッカリング乳化に用いる固体粒子(ピッカリング乳化剤)は非常に細かいナノサイズであることが多いため、きしみといった固体粒子に由来する使用感の悪さや配合時のハンドリング性の悪さなどの課題もあった。

 

使用感と乳化安定性を両立したピッカリング乳化剤『ソリエマー

当社は得意とする界面制御技術を応用することでピッカリング乳化に関する課題を解決するピッカリング乳化剤『ソリエマー』を開発した。『ソリエマー』はサブミクロンサイズの両親媒性シリカで、一般的にこのような大きさの固体粒子では安定なエマルションを得ることは困難であるが、当社はシリカのサイズ、形状、表面構造、疎水化度を精緻に制御するとともに、化粧品処方における最適な乳化方法を見いだすことで、安定なエマルションを得ることに成功した。

また、『ソリエマー』を用いて得られるエマルションは粒子径が非常に大きいという特長を有している。エマルションの粒子径は大きいとみずみずしい使用感となる一方、エマルションの合一が生じやすく乳化安定性が低くなることが知られているが2)、『ソリエマー』はピッカリング乳化剤であるため、この相反項目を解決することができ、優れた使用感と乳化安定性を両立することに成功した。

 

『ソリエマー』を用いた水中油型(O/W)エマルションの調製法

『ソリエマー』は粒子表面に疎水性のトリメチルシリル基と親水性のシラノール基を有し、両親媒性を示す一方、水や油には均一に分散しにくく凝集する傾向がある。そのため、『ソリエマー』を単純に水や油に加えて撹拌、乳化すると多くが凝集してしまう。

この課題を解決するためには『ソリエマー』をあらかじめ均一に分散させた後に、効率的に油水界面へ配向させる方法が有効ではないかと考え、乳化調製方法の検討を行った。そこで我々は『ソリエマー』の水相への親和性が塩基性物質と低級アルコールで制御できることを見いだし、乳化効率の良い新たな乳化調製法を確立した3)

まず、水や油に『ソリエマー』を分散させてエマルションを調製する。各乳化処方を表1に示し、調製したエマルションの画像を図2に示す。

 

 

表1の処方aでは『ソリエマー』をミネラルオイルに加え、ホモミキサーにて8,000rpmで撹拌しながら水、ヒドロキシエチルセルロース(以下、HEC)1%水溶液を徐添、撹拌したものを脱泡、静置してO/Wエマルションを得た。

処方bでは成分を配合する順番を変え、『ソリエマー』を水に加え、ホモミキサーにて8,000rpmで撹拌しながらミネラルオイル、水、HEC 1%水溶液の順番で徐添、撹拌することでO/Wエマルションを得た。

それぞれのO/Wエマルションの顕微鏡観察画像に示されるように、製剤中には想定された通り『ソリエマー』の凝集物が見られた。『ソリエマー』はホモミキサーで8,000rpmという強力な撹拌下においても、水または油のいずれにも均一に分散せず、その状態で乳化をしたことが製剤中に『ソリエマー』の凝集物を発生させた原因であると考えられた。これは『ソリエマー』が油水界面に効率的に配向していないことを示しており、乳化効率の低下や化粧品の使用感への悪影響が懸念された。

一方、我々が考案した『ソリエマー』の乳化調製法を図3に示す。我々は水溶液中のシリカのゼータ電位や、アルコールによる水相の疎水化に着目し、塩基性物質と低級アルコールを用いることで効率的にピッカリングエマルションを形成させることを見いだした。処方cでは、化粧品分野で一般的に使われる塩基性物質と低級アルコールとして水酸化カリウム(水酸化K)とイソペンチルジオール、乳化を安定させる増粘剤としてHECを選定し、表2の処方に基づいた乳化を行った。まず、水酸化Kとイソペンチルジオールを加えた水相に『ソリエマー』を加え、ホモミキサーにて4,000rpmで撹拌しながらオイル、水、HEC 1%水溶液およびpH調整剤としてクエン酸10%水溶液の順番で徐添、撹拌したものを脱泡、静置してO/Wエマルションを得た。その結果を図4に示す。得られたエマルションは、『ソリエマー』の凝集物のない、球状のO/Wエマルションを形成していることを確認した。この結果は『ソリエマー』の水相への親和性を制御したことによって、効率的に油水界面に配向したことを示唆している。

 

 

 

また、処方aやbで調製したエマルションは脱泡工程で気泡が多く発生していたが、処方cで調製したエマルションは脱泡工程で発生する気泡の量が非常に少なかった。これは、処方cの『ソリエマー』の分散工程では『ソリエマー』は水相への親和性が高いため気液界面に配向することはなく、油を加えた後に水およびpH調整剤を加えることで水相への親和性を下げて乳化能を発現させることで油水界面に『ソリエマー』が配向したためと考えられる。以上のことから、我々の見いだした乳化調製法では、塩基性物質と低級アルコールによって『ソリエマー』の分散性を制御することにより効率的なピッカリング乳化を実現できたことを示している。

 

『ソリエマー』を用いた水中油型(O/W)エマルションの性能評価

『ソリエマー』を用いたO/Wエマルションについて、他の乳化剤と性能比較した結果を図5に示す。『ソリエマー』は乳化性が良好で、50℃、30日の加速試験後もエマルションが保持され、油の分離がないことが確認された。この結果は、油種によらず、無極性油から極性油、シリコーンオイルなどさまざまな油に対しても同じであった。

 

一般的に、エマルションの粒子径は乳化安定性に大きく影響することが知られており、エマルションの粒子径が大きい場合や粒度分布が広い場合はクリーミングによるエマルション同士の合一やオストヴァルト熟成によって油相が分離すると考えられる。そのため、今回調製した『ソリエマー』のO/Wエマルションのような系では一般的に安定性は低いと考えられるが、『ソリエマー』は油水界面に固体粒子が配向するピッカリングエマルションを形成することから、高い乳化安定性を有していると考えられる。

一方で、従来のピッカリング乳化剤では安定的なエマルションを得るためには連続相が高粘度である必要があり、また加速試験における乳化安定性も処方によっては不十分なこともあった。また、化粧品の乳化で汎用されているノニオン界面活性剤は、得られるエマルションの粒径が非常に微細なため、高い乳化安定性が確認できた一方、使用感については従来通りのものであると想定された。以上の結果から、『ソリエマー』を用いて得られる粒子径の大きいエマルションは、ノニオン界面活性剤では達成が困難な新しい使用感になると考えられた。

そこで今回調製したエマルションのうち、乳化性および乳化安定性が優れていた『ソリエマー』およびノニオン界面活性剤で調製したエマルションについて、試験同意が得られた研究者5名で官能評価を実施した(図6)。官能評価では塗布中および塗布後の使用感についてノニオン界面活性剤を用いたO/Wエマルションを基準(3点)として『ソリエマー』を用いたO/Wエマルションの評価を実施した。その結果、『ソリエマー』のO/Wエマルションはピッカリング乳化でありながらきしみはノニオン界面活性剤と同等であり、さらにべたつきのなさとみずみずしさで優れていることがわかった。これは『ソリエマー』そのものがさらさらとした感触を有していること、また界面活性剤を使用していないためにべたつきがない製剤が作れることから、粒径の大きなエマルションの特長であるみずみずしさを最大限に引き出したためであると考えられる。

 

今後の展開

『ソリエマー』は完全な界面活性剤フリーによるO/Wエマルションの調製が可能であり、界面活性剤特有のべたつきなどを抑えてみずみずしい使用感を表現できる。また製剤を塗布した後の汗などによる皮膚上での油の再乳化を防ぐことによる耐水性の付与も期待される。そのため、『ソリエマー』は化粧水や乳液だけでなく、通常は油中水型(W/O)で調製されるような耐水性が求められる日焼け止め製品やメイク製品などへの応用もできると考えられ、さまざまなO/Wエマルションの乳化剤として使用することができると期待される。

 

参考文献

  1.  W.Ramsden,Proc. R. Soc. London,72,156-164(1903)
  2.  T.Okamoto,et al.,J. Soc. Cosmet.Chem. Jpn.,39(4),290-297(2005)
  3.  濵野浩佑,中村泰司,月刊ファインケミカル,52(12),37-44(2023)

 

当社製品をお取り扱いいただく際は、当社営業までお問い合わせください。また必ず「安全データシート」(SDS)を事前にお読みください。
使用される用途における適性および安全性は、使用者の責任においてご判断ください。

 

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