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CATEGORY: Sanyo Interview

2018/01/08

Sanyo Interview 243

知られざる折り紙の世界

おりがみはうす代表・折り紙作家 山口 真

〈やまぐち まこと〉
1944年、東京都生まれ。1989年、折り紙専門のギャラリー「おりがみはうす」を開設、若手作家の育成や、海外の折り紙団体や作家との精力的な交流を行っている。日本折紙学会事務局長、同機関誌『折紙探偵団マガジン』編集長。OrigamiUSA永久会員。British Origami Society会員。韓国折紙協会名誉会員。著書に『端正な折り紙』『秀麗な折り紙』『クリエイティブ折り紙 妖怪と干支と可愛い動物たち』など多数。
写真=本間伸彦

子どもの頃に、誰でも遊んだ経験のある折り紙。青年海外協力隊でも活用され、どんな国の子どもたちとも、一緒に折り紙をすれば仲良くなれると言われています。山口真さんは、折り紙作家として多数の作品を発表し、ギャラリー「おりがみはうす」の開設などを通じて折り紙の楽しさを幅広く伝えるとともに、若手作家の育成にも力を入れています。シンプルで実用的なものから、一枚の紙でできているとは思えないような複雑なものまで、「おりがみはうす」で折り紙作品を見せていただきながら、折り紙の奥深さや魅力について伺いました。

一枚の紙から生まれる、複雑な形の龍神

-- ここにある作品はかなり複雑ですが、何枚でできているのですか?

ほとんどが1枚です。

-- えっ、1枚! この龍神も?

そうです。一辺が1.8メートルの正方形の紙を使っています。

-- 畳2枚分ですよね。うろこまで一つ一つ折られていて本当にすごい。どうやって折るのか全然わかりません。

この龍神は、世界で一番人気のある作家でおりがみはうすのスタッフでもある神谷哲史が19歳の時に作ったもの。完成までに数カ月かかっています。彼は『TVチャンピオン』を5連覇していて、今でも折り紙を愛好する若い子たちの憧れの存在ですよ。我々はこういう複雑な折り紙をコンプレックス折り紙と呼んでいます。

 

                                          「龍神ver3.5」作:神谷 哲史

 

-- こうしていろいろな作品を拝見していると、外国の方の折り紙作品も多いですね。

日本人は、幼少期に誰でも折り紙をしているから、日本独自の文化だと思っている人が多いんですが、今では世界中の人が折り紙をしているんです。イギリスの折り紙コンベンションは今年50周年ですし、OrigamiUSA という団体は、世界一大きな600〜700人規模の折り紙の大会をニューヨークで開催しています。
日本では日本折紙学会が毎年、「折紙探偵団コンベンション」という大会を主催し、コンテストなどを行っています。国際大学折紙連盟という組織で、大学生だけの作品展を開くこともあります。最近、韓国の若手作家の進歩がとても速く、日本の若手にはっぱをかけているんです(笑)。

-- 日本の若手作家さんたちも負けていられませんね。

私はこのおりがみはうすを作って、作家同士の垣根を取っ払う活動に力を入れてきました。今では頭の柔軟な若い作家たちが、一生懸命作品を作って、お互いに刺激し合ってテクニックも公開し、相乗効果でどんどん技術を高めています。

-- 世界各地で、子どもたちに教える活動もされているそうですね。

国際交流基金で派遣されて、カザフスタンやアメリカ、インドネシア、ペルーなど、さまざまな国で折り紙を教えました。その時その時で、来ている人に合わせて取り上げる作品を選んでいます。「ハート」のように、裏側にしたまま折り進めて、最後にひっくり返すと完成しているというような演出があると盛り上がるんです。

-- わぁ、面白そう。後で折り方を教えてください。

 

人との出会いを通じ気付いた折り紙の奥深さ

-- 山口さんが折り紙を専門にされたきっかけは何ですか。

小さい頃からものを作るのが好きでしたが、若い頃は折り紙に全く興味がなかったですね。学校を出てヨーロッパに渡って、その頃は長髪でヒッピーのような生活をしていました。数年後に帰国し、写真専門学校に行った後、またヨーロッパへ行きました。車上荒らしに遭い、カメラや荷物を全部盗られてしまったこともありました。その後帰国して、あるカメラマンに師事して助手をしていたんですが、その人が折り紙協会の事務局長だったんです。折り紙を勧められて、事務局に出入りしているうちに、興味を持って自分なりの作品を作り始めました。作品を褒めてもらってうれしくなり、折り紙の本の編集や折り紙の折り図(作品の折り方を図で表したもの)を描くことを仕事にするようになったのです。

-- 最初の作品はどんなものですか。

折り鶴にメモ立てが付いたものです。その次が、折り紙でできたクリスマスツリー。1段を1枚で作って組み合わせ、星も付いています。これは今でも世界で人気があり、自分でも気に入っているんですよ。この歌舞伎の連獅子も気に入っています。

 

 「クリスマスツリー」作:山口 真                                                     「連獅子」作:山口 真

-- この連獅子は、今にも動きそうです。ご自身ではそれほど好きではないと思っていた折り紙ですが、実は才能がおありだったのですね。

いや、折り紙を勧めてくれた事務局長をはじめ、いい人たちと巡り合ってきた結果です。当時、折り紙愛好家は少なく、競争相手がいなくて、楽にやってこられたかもしれません。折り紙の本も150冊以上出していますが、出版社から次々に依頼をもらって書いたもので、売り込んだことは一度もないんですよ。運も良かったのでしょう。

 

-- ヨーロッパでカメラを盗まれてしまったのも、一つのきっかけだったかもしれませんね。

私が折り図を描くようになった頃、コンピューターが登場しました。日本で一番初めに、コンピューターで折り図を描いたのは私だと思います。それ以前はロットリングやトレーシングペーパーを使って手書きしていました。

-- その後、若手を育てる活動に注力されたのですね。

折り紙愛好家の若手4人でお酒を飲んでいる時に「何かやろうか」という感じで始まったのが「折紙探偵団」です。その後日本折紙学会と名を変え、今年で発足から28年になります。機関誌『折紙探偵団マガジン』は、現在2000人ほどの購読者がいます。

 

好奇心と探求心が強い折り紙作家たち

-- 折り紙は、基本的にハサミやのりを使わずに作るものでしょうか。

好きなようにやればいいですよ。切り込みを入れないことを信条としている人がほとんどですが。切り込みを入れるのは、俳句で言う字余りのようなもので、どんな分野でも、定型から外れた名作はあるものです。

-- 上手に折るためのコツは何ですか。

折り筋が大切です。筋がいい加減だときれいな形が作れない。

-- 私は不器用なので折り紙はあまり得意ではないのですが、中学生の頃、女の子同士で「シャツ」の形に折った手紙を回していたのを思い出しました。

女性は大体、実用的で使える折り紙が好きな人が多いですね。私は女性が「可愛い」「きれい」と喜ぶような作品を主に作ってきました。でも、男性の作家は一生懸命、何の役にも立たない複雑な作品を作る傾向にあります。彼らの褒め言葉は「ゲッ」とか「スゲエ」です(笑)。折り紙をやっている若者は、集中力があって勉強もできる人が多い。折り紙をやったからって勉強ができるようになるわけではありませんが。

-- 東大などの名門校でも、折り紙サークルがあるところが多いそうですね。数学的な興味で折り紙を始める方もいらっしゃるのでしょうか。

その通りで、若い折り紙作家には理系の人が多いんです。展開図折りといって、展開図(作品を広げた時についている折り筋だけを示した図)と完成した写真だけを見て折るという楽しみ方もあります。理系の人は理屈っぽくて細かいこともよく調べるから、アニメや恐竜、昆虫などにも詳しい。

-- そのように好奇心が強く知識の豊富な方だと、例えば昆虫の羽の形や足の生え方などの知識を、折り紙で表現することができますね。皆さん、展開図を公表していらっしゃいますが、自分だけのものにしておきたいという気持ちはないのでしょうか。

みんな自分が世界一だと思っていますから、一生懸命作った作品の展開図はほかの人にも見せたいんですよ。「どうだ」って。

-- 折り紙の魅力は、どんなところにあると思われますか。

私の友人の、アメリカの故・マイケル・シャル氏は「いつでもどこでも誰でも、一枚の紙があれば楽しめるものが折り紙だ」と言っていました。特に折り鶴は、どんな紙で折ってもきれいで、誰にでも折ることができるので、世界的に有名です。

 

 

親から子へ、伝え育まれてきた折り紙

-- 折り紙はもともと日本の文化なのでしょうか。

折り紙は長く手慰(てなぐさ)み のようなものでしたから、文献があまり残っておらず、歴史がよくわかっていません。紙を折って何かに見立てたものでは、スペインのパハリータがあり、折り紙のグループとして最も古いのはスペインのグループだとも言われています。しかし、折り紙の技術を育んできたのはまさしく日本だと私は思います。母から子へ、子から孫へと教えられ、日本の子どもたちは必ず一度は折り紙をして育ちます。手から手へ、シンプルな折り紙が伝えられてきたのです。

-- 古い伝承折り紙というと、やっこさんや帆掛け船といったものでしょうか。生活の道具や飾りなど、いろいろな場面で折り紙が使われてきたのでしょうね。

そうだと思います。これは今から220年前の江戸時代に、折り鶴の折り方を紹介した折り紙の本です。ここに切り込みを入れて作る、連鶴のバリエーションが49種類紹介されていますよ。

-- 鶴のしっぽに、小さな鶴がもう一羽付いています。鶴が何羽も重なったものもあるんですね。

19世紀半ば、ドイツの教育学者フレーベルは幼児教育法に折り紙を取り入れ、それは明治時代に日本へ輸入されました。日本の幼児教育では、あまり折り紙が使われない時代もありましたが、今では積極的に活用されています。保育園や幼稚園では、全員で一斉に同じものを折るのではなく、それぞれが好きなものや得意なものを折る方が楽しめると思います。 

-- 小さな子どもは集中力が持たないので、全員で同じことをするのは大変ですものね。

小さな子どもには、角と角をピッタリ合わせるのも難しいんです。折り紙をきちっと折ることで、几帳面な性格になると言う人もいますが、今の子どもたちには通用しないでしょう。大人になって改めて、趣味として折り紙を始める人も多いです。お金がかからないから、気軽に始められるのだと思います。

-- 子どもの頃、折り紙セットに1枚ずつ入っている金紙と銀紙を取っておいて、何に使うか楽しみにしていました。きちんと折るのは面倒くさいけれど、がんばってきっちり折ったらきれいな作品が完成した、ということを体験するのは、子どもにとってとても良いことだと思います。

そうでしょうね。「褒めて育てる」とよく言いますが、褒めてもらうとうれしくて、また折ろうという気持ちになるようです。

 

宇宙、医療、数学……広がる折り紙の可能性

-- 今後、折り紙の世界にもデジタル化の波がくるのでしょうか。

将来、そういうことを考える人間が出てくるでしょう。韓国の若手が、折り紙作品の完成形を、3Dプリンターで作っていましたから。

-- 宇宙研究や、医療の分野でも、折り紙が役立っていると聞いたことがあります。

日本折紙学会会長で、東京大学名誉教授の三浦公亮さんの名を冠したミウラ折りというものがあり、人工衛星の太陽電池パネルやアンテナなどの宇宙の構造物に使われています。医療機器にも、折り紙の技術が活かされているものがあります。チューブ状の器具を折り畳んで血管に入れ、狙った位置で膨らませ、血管を内側から補強することができるそうです。2014年には、第6回折り紙の科学・数学・教育国際会議(6OSME)が東京大学で開かれ、コンピューターサイエンス、機械工学、数学、医療など幅広い分野の研究者が集まりました。

-- 折り紙は大きな可能性を秘めているのですね。今後、折り紙はどのように展開していくと思われますか。

ちょっと憂鬱ですね。YouTube などで折り紙作品を紹介している人がよくいますが、出典がきちんと書かれていないことが多いんです。このままでは、創作者の名前が消えて伝承になったり、本来の創作者ではない人の名前で残ってしまったりするかもしれません。折り紙が世界中に広がれば広がるほど、作者の権利がおろそかにされがちになります。

-- 作った人の名前をきちんと残さなければなりませんね。

そうです。そして、もっと折り紙の社会的な価値を、高めていければいいなと思っています。複雑系の作品は、一日何時間も、何カ月もかけて作っていますから、何十万円で売れてもまだ安いくらいです。折り紙だけで食べていける人は、日本で数えるほどしかいません。

-- 折り紙の作品を見ていると、一つひとつの折り筋を、時間をかけて手で一生懸命付けた、作者の手のぬくもりや強い思いが伝わってきます。文化として折り紙を残し、世界の折り紙作家さんを守っていくことが大切ですね。山口さんは、どんな人に作品を見てほしいと思われますか。

作品を見て「うーん」とうなっているような人、作品をきちんと見て理解しようとしてくれる人が一番いいです。折り紙をする人といってもとても幅広くて、実用的でシンプルなものが好きな人もいれば、理論的に複雑な作品を作るのが好きな人もいます。この両者が混じり合うことはほとんどありませんが、折り紙が好きな人であることに変わりはありません。誰にでも気軽に、折り紙を楽しんでもらいたいですね。

-- 折り紙の「ハート」を覚えて帰ります。本日は、ありがとうございました。

 

 

と き:2017年9月13日
ところ:東京・白山のギャラリーおりがみはうすにて

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