MENU

医療研究の効率化に貢献 迅速・高純度・高回収率を実現する
革新的な細胞外小胞精製技術

三洋化成ニュース No.549

医療研究の効率化に貢献 迅速・高純度・高回収率を実現する
革新的な細胞外小胞精製技術

シェアする

2025.10.14

エクソソームを含む細胞外小胞(EV)精製キット『EXORPTION®』

PDFファイル

近年、疾病の早期発見や再生医療技術などの分野では、生体情報を持つ「細胞外小胞(EV)」の活用が進んでいます。しかし、これまでのEVの精製技術には、いくつかの課題がありました。このEVを、高い精度で効率的に精製できる新しいキットを紹介します。

細胞間での情報伝達をつかさどるエクソソーム

細胞外小胞(Extracellular Vesicles/EV) とは、細胞から分泌される小さな袋状の物質です。血液や尿などあらゆる体液中に存在し、さまざまな生体情報のメッセンジャーとして機能するため、疾病の診断や治療に幅広く役立つと考えられています。昨今では、専門誌をはじめ各種マスメディアなどでも特集が組まれるほど注目を集めています。

EVは、エクソソーム、マイクロベシクル、アポトーシス小体の大きく3種に分類されます。なかでも特に注目されているのがエクソソームです。エクソソームは、細胞が健康な状態なのか、SOSを出しているのかを他の細胞に伝える役割を果たします。このエクソソームを介した細胞間の情報伝達は、全身の各組織や臓器で起こっています。

EVを解析することにより、得られたエクソソームがどの細胞種から分泌されたのかがわかるので、身体のどこでどのような疾患が起こっているかといった診断が可能になります。精度の高いエクソソームの解析は、このように疾患の診断に役立つと期待されています。

一方で、再生医療によく利用される「間葉系幹細胞」から分泌されるエクソソームは、治療効果を持っている可能性があり、こちらも研究が進められています。

EV実用化の鍵を握るバイオセパレーション

EVなどの生体分子や細胞を分離・精製する技術がバイオセパレーションです。

EVのバイオセパレーションの手法として、現在は超遠心分離機を利用した「超遠心法」がゴールドスタンダード(さまざまな検体からEVを精製する技術として広く容認された手法)とされています。

ただし、精製に時間がかかることや、高度な技術が必要なこと、同時に処理できる検体数が限られることなどの課題がありました。さらにこうした労力の割に回収率が20%に満たないという、効率面での課題もありました。

新しい方法もいくつか開発されていますが、操作性が改善される一方で、いずれの方法もEVの回収率や精製度が十分でないケースが多く、EVを実用化するためには、バイオセパレーション技術の向上が望まれていました。

従来の10分の1の時間で、10倍の回収率を実現

三洋化成では1980年代から、尿や血液などの体液を効率よく処理する技術を開発してきました。これらの知見を生かし、2020年から始まったのが、EV精製の研究です。徳島大学大学院 医歯薬学研究部の冨永辰也教授、同大学院社会産業理工学研究部の右手浩一教授らの研究グループと共同で、研究開発を進めてきました。

その研究から誕生したEVの新しいバイオセパレーション技術が、ハイドロゲルビーズを用いた「HAS(Hydrogel Adsorption Separation)法」です。三洋化成では現在このHAS法を用いたEV精製キット『EXORPTION®』を製品化し、研究用途として販売しています。

この技術の核となるのが、3次元網目構造を持つ親水性ポリマー「ハイドロゲルビーズ」です。ハイドロゲルビーズの表面には三洋化成の界面制御技術が用いられており、EVを吸着する一方で、不要な成分は吸着しにくい構造になっています。

HAS法によるEV回収のメカニズムは、次の通りです。ハイドロゲルビーズに血液や尿などの生体試料を混ぜると、ハイドロゲルビーズが生体試料を吸収する過程でEVがビーズの表面に捕捉されます。一方で、不要なタンパク質はビーズ表面には吸着しないため、次の工程で洗い流します。ビーズ表面に吸着したEVは、最後の工程で遊離液を使って回収するという仕組みです。

このHAS法は、例えば慢性腎臓病患者の尿に含まれるEVの精製では、現在ゴールドスタンダードとされている超遠心法に比べ、エクソソーム(CD9+/CD63+)の回収率は10倍になり、精製に要する時間は10分の1に短縮されるというように、大幅に性能が向上しています。

 

EV研究のさらなる発展に貢献

三洋化成が開発したEV精製キット『EXORPTION®』は、2024年5月からコスモ・バイオ㈱およびタカラバイオ㈱を通じて、10月からは岩井化学薬品㈱でも、国内での販売を始めました。そして、2025年5月からはCOSMO BIO USAが海外での販売を開始しています。

現在は、研究用試薬として多くの大学で使用されており、早期で高精度の疾患診断を目指すEV由来バイオマーカーの探索、難治性疾患の治療を目指すEV創薬、再生医療製品の基礎研究など、幅広い分野に活用が広がっています。実際に使用した研究者から「従来の方法よりも操作が簡便かつ短時間で、純度の高いEVが大量に得られる」という評価を得ています。『EXORPTION®』はSDGsの目標3「すべての人に健康と福祉を」に貢献する製品です。

今後は『EXORPTION®』の認知度の向上を図り、国内外でのトップシェアを目指すとともに、三洋化成が持つ診断薬の知見を生かしたEV診断薬の開発にも取り組み、EV研究のさらなる発展に貢献していきます。

 

当社製品および開発品をお取り扱いいただく際は、当社営業までお問い合わせください。また必ず「安全データシート」(SDS)を事前にお読みください。使用される用途における適性および安全性は、使用者の責任においてご判断ください。

 

問い合わせはこちら

関連記事Related Article

PAGE TOP