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男性脳と女性脳、そしてAI

感性アナリスト 黒川 伊保子

男性脳と女性脳、そしてAI

2017.11.07

写真=本間伸彦

感性アナリスト 黒川 伊保子 〈くろかわ いほこ〉
1959年長野県生まれ。奈良女子大学理学部物理学科卒業。富士通ソーシアルサイエンスラボラトリで人工知能の研究に従事した後、世界初の語感分析法を開発。性別や世代などの脳の違いによる音韻の物理効果を数値化したデータベースを開発し、マーケティングに展開している。㈱感性リサーチ代表取締役社長、日本感性工学会評議員、随筆家。『恋愛脳』、『日本語はなぜ美しいのか』、『「しあわせ脳」に育てよう!』、『アンドロイドレディのキスは甘いのか』、『女の機嫌の直し方』など著書多数。

 

 

第三次AI(人工知能)ブームと言われる現在、私たちの暮らしや社会の中に人工知能の存在が身近になっています。人工知能エンジニアとしてデータ分析やソフトウェア開発に携わった経験を活かし、感性アナリストとして活躍されている、黒川伊保子さん。男女の脳の違いの研究や語感分析の第一人者として、マーケティングやコミュニケーション論を展開しています。男女間でのコミュニケーションのコツや、人工知能研究に対する考え方について、お聞きしました。

人工知能の研究を機に男女の脳の違いに迫る

-- 『女の機嫌の直し方』を拝読して、笑ってしまいました。男性読者向けの本ですが「私って、女だからこうなのか」と、自分のことを知ることができました。

読んだ女性は皆、「男って、ここまで女性の気持ちに鈍感なの?」と笑ってくださいます。

-- 人工知能の研究をされるなかで、男性脳と女性脳の違いに興味を持ったのはいつ頃ですか。

1980年代半ば、ちょうど第二次AIブームと言われた頃に企業で人工知能の研究をしていた時です。ロボットと人の対話システムを作るため、人の対話を分析すると、女性と男性では対話の仕方が真逆だと気付きました。そこで人の脳を研究し、男女や年齢、世代などで異なる脳の特性を見つけ出しました。

-- 人工知能の研究は、医学的な脳の研究とは、アプローチの仕方が異なるのですか。

脳生理学では脳の信号や解剖学的な根拠によって分析を進め、治療に役立てます。私たち人工知能の研究者は、脳という装置が、ある入力に対してどんな出力をするのかの事例を集めて、データベースとして分析し、演算ルールを推測するんです。コンピューター上でシミュレーションを繰り返すことによって、見つけた脳の思考ルールは、コミュニケーション論やマーケティング理論に役立ちます。違うのは感性の領域で、論理的な思考には男女で差がないんですよ。

装置としての脳は男女で真逆の機能

-- 男女の脳はどのように違うのでしょうか。

女性脳はプロセス思考で、右脳と左脳の連携が良く、共感型です。プロセスを語り、共感して聞いてもらうことで、問題解決エンジンが働いて答えを出すんです。逆に男性脳は、まず結論から入り、問題点を見つけて素早く行動する装置です。

-- それでは、男性と女性が話をすると……。

女性がことの起こりから順番に話していると、よく男性が「君がこうしたから悪いんじゃないか」と、いきなり結論を言ってしまいますよね。この時、女性脳はプロセスを話しながら分析しているのですが、この言葉を聞くと脳の演算が中断して、それまでの分析が無効になってしまうんです。それで脳がショックを受けて、女性が怒るというわけです。男性のアドバイスが正しいかどうかは関係ありません。

-- そのタイミングで言っちゃいけないんですね。

そう、男性脳にとっては、早く結論を出すのが善だから、良かれと思って言っているんです。でも女性脳に対しては、話を聞いて「君の気持ち、わかるよ」と共感してあげないといけない。実際に統計を取っても、途中で口を挟むより、結論に至るまでしゃべらせた方が、行動に移るまでが早いんですよ。

-- そうなんですか。

救急隊員の方は、パニックになった女性に対しては、とにかくその人の話を聞くそうですよ。私の義父が倒れて意識不明になった時のことです。救急隊員の方が義母に「旦那さんはいつからこの状態ですか」と聞くと、義母が「昨日ね、お父さん、カレーお代わりしたの……」と話し始めました。

-- そこから始まるんですね。

「お義母さん、『いつからお義父さん、ここで寝ているの』って聞かれてるのよ」と言ったら、救急隊員の方が「いえ、これは話していただいた方が早いです」って言うんです。義母が話し終えると、最後に救急隊員の方が「今朝、血糖値が上がることを気にして、旦那さんに糖尿病の薬を飲んだか、何度も聞きませんでしたか」って。その通りで、義父はその朝の薬を、2倍飲んでしまい、低血糖になっていたんです。

-- お義母さんの話から、原因がわかったんですね。良かった。

こんなふうにプロセスをだらだら話すことが、役に立つこともあるんですよ。女性がプロセス思考をするのは、子どもを産み育てるために、自分を守る必要があるからです。女性脳は嫌な思いや怖い思いを二度としなくて済むよう、その気持ちを大げさに認識し、そこに至ったプロセスを自分の中で分析して、似たような事例にも展開して無意識の領域に書き込み、その記憶を強く、長く残して、危険回避に全力を尽くすんです。体験記憶は、その時の思いの見出しを付けてしまってあるので、同じ思いを経験するとどんな昔の記憶でも、ついさっき感じたことのようにありありと思い出せるんですよ。

相いれない異性の脳と接するコツ

-- 男性にとって、女性の話を共感しながら聞くことは難しいのではないですか。

女性は無責任に「わかる、わかる」と言うけれど、男性は共感することに責任を感じてしまうんです。でも、お姉さんがいる男性は、女性と接した時間が長く、女性脳の思考パターンをよく知っているから、自然に共感できるんですよ。

-- そうですか。職場で、男性上司が女性の部下を叱る時も、相手に共感した方がいいのですか。

職場では、共感は必要ないです。職場は即座に問題解決をしていく場所なので、男性脳のルールで回すべきです。例えば女性社員が男性上司に何か提案をして、「そんなのダメだよ」と一刀両断されてしまったとしても、落ち込まなくていいんです。「男性脳はすぐ結論を出す脳なんだ」と、さらっと流さないと。

-- 「私、嫌われているのかも」なんて思う必要はないのですね。

女性だったらそんな言い方、よっぽど嫌いな相手にしかしないですものね(笑)。ただ、女性には、女性ならではの問題解決力というのもあるんですよ。

-- えっ、それはどんな力ですか?

女性は、常にプロセスからルールを計算しているので、問題が表面化する前に解決できます。家庭でも職場でも、女性がいるだけでリスクヘッジになるんですよ。家庭の主婦なら、家族の誰かが体調を崩しかけていることを直感で感じて、その日の夕食のメニューを変えたり、トイレットペーパーが切れかけていれば、その状況を無意識に把握して、スーパーで特売のトイレットペーパーが目に飛び込んできたり。

-- ドラマや小説でも、組織の長よりもオフィスの中のことを把握している、お母さん的なベテランの女性が登場しますよね。

でも、誰も気付かないうちに問題解決してしまう力は、評価されにくいんですよ。上司も本人も、言語化したり数値化したりできないからです。引き継ぎもできません。女性にも素晴らしい問題解決力があるのですが、職場ではあえて男性脳型の問題解決をやってあげる必要があります。

-- 日本の会社や大学は、男性社会だと思いますが、女性社員や女性研究者はどうやって男性脳のルールを身につければよいでしょうか。

先ほども言ったように、共感することなくいきなり問題解決されても、ムカつかない。あとは、結論から言うこと、数字を用いて話すこと。「結論はこうです。ポイントは三つあります」と、結論や数字を先に伝えると、男性脳はストレス信号が落ちて、こちらが言っていることを受け取りやすくなるんです。結論の出ていない内容を話したい時は、相手にまず「まとまっていないんですが、気になることがありますので、プロセスを話してよろしいでしょうか」と伝えるといいですね。男性脳のルールを理解して、もともと持っている気付きの力や発想力を活かしていける女性は、男性よりもずっと出世していきますよ。

理解できない相手ほど自分にない能力を持っている

-- 同じ内容を話すとしても、最初に一言添えるだけで、相手に受け取ってもらいやすくなるんですね。

その通りです。言葉は、自分の脳ではなく相手の脳のために発するもの。話す時は、いかに相手の脳を上手に動かすかを考えるといいですよ。例えば、息子が明日の試験の準備をせずに寝てしまい、朝起きて慌てているとします。その時「ほら、見なさい」と言って自分のストレスを解消しても意味がないんです。「母さんがもうちょっと早く起こしてあげれば良かったね、ごめんね」と同情してやると、息子のストレス信号が落ちて、ここからの行動が早いんです。この考え方をすると、あまり人に腹が立ちません。腹が立つのは、夫くらいかな(笑)。

-- 旦那様には、期待してしまうということですか。

それもありますが、恋する男女は、感性がかけ離れていることが多いんです。それは、違う遺伝子を組み合わせた方が子孫を繁栄させやすいから。例えば、寒さに強い人と暑さに強い人が子どもをつくれば、地球が温暖化しても寒冷化しても子孫が生き残るでしょう。だから、神経質な人と無神経な人、寝つきのいい人と悪い人が夫婦になりやすい。

-- でも、そういうカップルは一緒に暮らすのが大変ですね。

腹が立った時は「ああ、だからこの人に惚れたんだなあ」と思い直せばいいんです。感性が違う人は違う能力を持っているから、一緒にいると生存可能性が上がるんですよ。例えば、男性脳は遠くにある動くものに瞬時に照準を合わせ、対処することができます。女性は目の前の、動きが少ないものを面で潰して見るので、見えなくても気配を感じ取れるんです。

-- それ、わかります。私、四つ葉のクローバーを見つけるのが早いんです。何となくあの辺りにありそう、と感じるんですよ。

女性には、顕在意識で見えていないものを見る能力があるんです。潜在意識は顕在意識の数百倍のものをキャッチしているので、それが知らせてくるわけね。それが女性の真骨頂ですよ。

-- 男性脳と女性脳を併せ持った両性脳のような人工知能は作れないんですか。

問題解決型のエンジンと共感型のエンジンを作ってハイブリッドの脳に載せることはできますが、瞬時に使えるのはどちらかなんです。私は講演でよくお話しするのですが、もし、男性脳と女性脳を兼ね備えたスパイロボットを作るならば、飛んでくるミサイルにも、埋まっている地雷にも気付けるように、二つのビューセンサーを搭載することになりますね。でも、同時に二つの答えが出ると、どちらの答えを採択するかという競合干渉演算に時間がかかって、フリーズしてしまうんです。2体のロボットを作って、二つのセンサーを別々に搭載した方が生存可能性は高まります。だから、自然界の神様は男と女を作ったんですよ。

人工知能の時代に女性の感性が必要

-- 本能は、生存のために長い長い時間をかけて培われてきたものですが、現代ではさほど必要とされていない生活が続いています。本能による脳の性差は今後少なくなっていくのでしょうか。

そうです。特に男性脳は危ないですね。真夜中にスマホやゲームをしていると、男性ホルモンの分泌が阻害されるんです。将来、男性脳になり切らない男性が増えて、私が提唱している男女脳論は変わるかもしれません。

-- 社会のあり方によって、人間の脳は変わるんですね。

動物学では、育児をするオスは男性ホルモンが減少するそうです。だから、働くキャリアウーマンが夫に家事や育児を任せると、夫の男性ホルモンが減少して、浮気をしない代わりに、仕事への意欲がなくなって出世しないし、妻に対しても女性としての関心が薄れます。女性が、夫に家事や育児を任せて働くのは自由ですが、その代わり、夫に「男らしくない」と文句を言うべきではないと思います。どのリスクを取って、どのゲインを取るかは、戦略として考えなければいけないわけです。

-- 自分がどう生きていくか、リスクとゲインを見極めて、戦略的に選んでいかなければならないということですか。黒川さんが、これからやっていきたいと思っていらっしゃることは、どんなことですか。

人工知能の領域は男性研究者がほとんどですから、女性の感性を人工知能に反映させていく必要があると思っています。この間、友人がスマホの音声認識機能に「頭が痛いの」と話しかけたら、「お近くの薬局は〇〇です」と、女性の声でいきなり問題解決してくれたそうですよ(笑)。人間の女性なら、「あら大丈夫? 大変ね」と共感で返すところですよね。男性脳の人工知能が女性の声でしゃべるのって、気持ち悪くありませんか。私たちの脳が心地良く自然に感じる出力については、まだまだ研究の余地があると思います。

-- 将来人間の仕事がAIに奪われるとよく言われますが、どうお考えですか。

N個の情報を解析してN+1を生み出すのは人工知能の得意な領域で、かなり多くの仕事が今後人工知能に代替されていくと思います。しかし、若者は、N個の情報を与えられて失敗したり成功したり、泣いたり笑ったりしながら、N+1を作り出す経験を経ることで、勘やセンスが良くなり、脳が洗練されていくんですよ。失敗していない脳は、40代、50代になっても新たなものを生み出すことができません。人工知能は、若者の成長の機会を奪うのではないかと懸念しています。

-- 企業にとって、いかにうまくAIを活用して生産性を上げるかという時代ですが、それによって若手社員が育たなくなる可能性があるわけですね。

そういうことはお伝えしていきたいと思っています。一方で、人工知能の発展により、人の価値は見直されると思います。例えば今、スーパーにも自動支払機が導入されつつあります。人工知能ならミスをせず24時間働くけれど、人のいるレジにも長蛇の列ができていますよ。なぜ人のサービスが好まれるのか、その理由がわかるのは女性脳です。人工知能が成熟していく過程で、もっと女性たちが女性の感覚で、声を上げてほしいなと思っています。

-- 女性脳の活躍に期待したいですね。ありがとうございました。

と き:2017年8月8日
ところ:東京・神田の㈱感性リサーチにて

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