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人間に最も近いヒト科の仲間「マウンテンゴリラ」

三洋化成ニュース No.493号掲載

人間に最も近いヒト科の仲間「マウンテンゴリラ」

2015.12.07

熱帯雨林に暮らす絶滅危惧種の巨大類人猿

くつろぐシルバーバックと子どもたち

火山の中腹に広がる、樹木や草が鬱蒼と生い茂るジャングルをかき分けて行く。アフリカの赤道直下に位置し、互いに国境を接するルワンダ、ウガンダ、コンゴ民主共和国に広がるヴィルンガ火山群の熱帯雨林は、マウンテンゴリラに残された貴重な聖域だ。我々人間と97%以上も共通する遺伝子を持つ彼らが、この地でどのように生きているのか、その暮らしぶりに接近してみた。
類人猿の中で最も大きなゴリラは、ニシゴリラとヒガシゴリラの2種に分かれ、ニシゴリラはニシローランドゴリラとクロスリバーゴリラの2亜種、ヒガシゴリラはヒガシローランドゴリラとマウンテンゴリラの2亜種に分類されている。マウンテンゴリラの体高は1・2〜1・8メートル、体重は80〜230キロ、寿命は40年ほどと見られ、生息数は約800頭と絶滅危惧種に指定されている。四肢を使い、手を軽く握って指の背を地面につける特徴的な歩き方は、ナックルウォーキングと呼ばれている。ポコポコと乾いた音をさせて胸をたたくドラミングはゴリラの最も印象的な行動で、敵を威嚇する意味合いもあるが、自分の存在を周囲にアピールするためのものというとらえ方が、より濃厚である。
基本的に植物食のマウンテンゴリラはジャイアントセロリやヤエムグラ、ヒレアザミ、雨季のタケノコなどを好む。時には動物性タンパク質となるグンタイアリなども食べるようだ。ジャングル内の植物は棘のあるものも多く、それらの茎を食べる時は、いったん手でしごいて棘を払ってから口に入れている。
国立公園内のゴリラの生息地へ行くにはレンジャーの同行が義務付けられており、観察できる時間もゴリラにストレスを与えないため、出会ってからきっかり1時間と決められている。ゴリラは採食のために日々移動をしており、群れに遭遇できるまでの所要時間がまちまちで、生息地の入り口から30〜40分で出会えることもあれば、傾斜のきついジャングルを6〜7時間歩かなければならない時もある。棘だらけの植物が生い茂るジャングルで彼らを追うのは困難ではあるが、間近で接する彼らの存在感は感動的である。

謎の多いゴリラの生態争い好まず、遊び好きの面も

四つ足で立つ若いブラックバックのオス

ゴリラは粗雑で凶暴な生き物というイメージを多くの人が抱いているかもしれない。だが私は、それとは異なる温和で繊細な印象を受けた。群れを司るシルバーバックは筋骨隆々で巨大なうえに想像を絶する怪力の持ち主だが、思慮深そうな穏やかさを瞳にたたえ、子煩悩で仲間の面倒見がとても良い。研究対象とされ長い間、人を見慣れてきたせいもあるが、我々が近づいてもいきなり襲いかかってくるようなことはない。とはいえ、安全な動物だと断定はできないが、少なくとも刺激しないよう静かに接している限りでは、ゴリラが日常のペースを乱すことはない。争いを好まず、遊び好きでファミリーの絆も固い、平和な生き物といった印象を強く感じた。しかし研究者によれば、群れの雌がほかの雄の子を連れているケースで子殺しが行われた報告もあり、私が目にした姿はゴリラの奥深い生態のほんの一面でしかないことは容易に想像できる。ジョージ・シャラーやダイアン・フォッシーらがゴリラ研究の礎を築き、現代も世界各国第一線の研究者が精力的に生態解明に挑んでおり、50年前までは全くの謎だったゴリラの生態が近年詳しく解明されつつある。

子煩悩で面倒見の良い〝シルバーバック〞

起きている間は採食と休憩を繰り返す

採食を終えて寄り集まるファミリー

マウンテンゴリラは一般的に、背中が鞍状に白くなったシルバーバックと呼ばれる1頭の大人の雄と、複数の雌やその子どもからなる10頭前後の群れを形成している。採食のために移動する時は先頭に立ち、寝場所の決定もシルバーバックが行い、ほかの雄の侵入やヒョウなどの肉食獣の接近から群れ全体を守るリーダーである。異なる群れのリーダーと激しく争うこともあるが、普段は温和に群れをまとめて導く。
巨大なゴリラだが、産まれたての赤ちゃんは2キロ弱と、人の赤ちゃんよりかなり小さい。1年ほどは母親が肌身離さず世話に没頭し、母乳で育てる。群れの若いゴリラたちも赤ちゃんには興味津々で、構いたくてしょっちゅう近づいていく。生後1年を過ぎると母親は、赤ちゃんを時々シルバーバックに預けるようになるのだが、シルバーバックは子煩悩で、積極的に赤ちゃんの面倒を見る。徐々にシルバーバックと過ごす時間が長くなり、3歳を過ぎて乳離れをするようになると寝る時もシルバーバックのそばにいることが多くなるようだ。

厳しい生息環境のなか保護活動で頭数は微増

八つのピークからなるヴィルンガ火山群

つたにつかまって遊ぶ子どもたち

ゴリラの生息環境は深刻な状況である。木材の伐採や鉱物資源採掘のために熱帯雨林が切り開かれ、年々その面積が縮小していくとともに密猟も横行し、ブッシュミートと呼ぶ食用肉として流通されるケースも多い。また、ゴリラの生息する国が政情不安で内戦を起こしたことや、エボラ出血熱の流行によって、大量のゴリラが感染死したことも状況を悪化させている。そうした一方で、関係国が連携し生息地を厳重に管理し、レンジャーや獣医を常駐させてゴリラを保護する活動も盛んになり、世界中のNGOも積極的にゴリラ保護に努めるようになってきた。そうした努力の甲斐があって、最近ではわずかながらゴリラの数が増えてきている。私たち人間と最も近いヒト科のユニークな仲間であるゴリラ。彼らの未来は私たちの手に委ねられている。
 

文・写真=動物写真家 前川 貴行〈まえかわ たかゆき〉

1969年東京都生まれ。和光高等学校卒業。

エンジニアとしてコンピュータ関連会社に勤務した後、独学で写真を始める。1997年から動物写真家・田中光常氏の助手を務め、2000年からフリーでの活動を開始。世界を舞台に、野生動物の生きる姿をテーマに撮影に取り組み、雑誌、写真集、写真展などで作品を発表している。2008年日本写真協会賞新人賞受賞、2013年第1回日経ナショナル ジオグラフィック写真賞グランプリ受賞。公益社団法人日本写真家協会会員。主な著書に『動物写真家という仕事』など。

 

 

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