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類いまれなる野生動物の王様「ライオン」

三洋化成ニュース No.494号掲載

類いまれなる野生動物の王様「ライオン」

2016.02.07

気高くて強靭、知能も高い百獣の王

雌にグルーミングをしてもらう子ども

背の高い、乾いたブッシュで姿を隠し、腰をかがめて獲物に忍び寄るライオン。アフリカのサバンナのみならず、地球上で類いまれなるキングとして、有史以前から人間や野生動物たちに一目置かれる生き物だ。その肉を食べ、毛皮を身にまとうと、絶大な力を得ることができるという神話は、現代も生き続けている。
何をもってして百獣の王と呼ばれるのだろうか。自分よりも大型の草食動物を倒してしまうパワーや、仲間との連携プレーで獲物を捕らえる高い知能。しなやかでありながら、胸の分厚いがっちりとした筋肉質の体。黄金色に輝くフサフサのたてがみも気高さを思わせる雄ライオン独特のものだ。ハネムーン期に、一日中交尾を繰り返すタフさも一つの伝説だろう。実際に強靭なライオンだが、それにも増してあごひげの似合う強そうな顔や隆々とした四肢のインパクトが強烈だ。
より体の大きなアムールトラなども地上最強を争う生き物だと思うが、トラは密林にすみ、基本的に単独で行動する孤高の生き物で、比べてみると、ハーレムを形成し、捕ってきた獲物を優先して食べさせ、いざという時が来るまで雄を遊ばせておく懐の深い雌との関係など、ライオンの方がより王様らしい。

ネコ科に珍しい〝プライド〞

闘いの傷あとが残る、立派なたてがみの雄

若い雄に乗っ取られる危険もライオンは、大昔にはヨーロッパにも広く分布しており、20世紀初頭には中東にも生息していた。だが現在は、インドでわずかに生息しているほか、そのほとんどがアフリカのサバンナで暮らしている。
ネコ科の動物としては珍しく群れを形成する。プライドと呼ばれるものだ。はぐれライオン的に単独でいるものも多いが、子孫を残し、獲物を要領よく得るために、群れになる。プライドは一から作るというよりは、元々ある群れを雄ライオンが乗っ取るケースがほとんどだ。
2、3歳になって群れから出された雄ライオンは放浪し、6、7歳の若い成獣となると、ほかのプライドの主に闘いを挑む。強い主は防衛し続けるが、歳をとったりけがなどで弱くなった主が闘いに負けると放浪の身となり、プライドを乗っ取られる。その際、群れにいる子どもライオンは、みな侵入してきた雄に殺されてしまう。いわゆるライオンの子殺しだ。
プライドは平均的に、1〜6頭の雄が、雌と子ども合わせて4〜12頭を従えている。雌たちは血縁関係にあり、グループ内であれば自分の子でなくても乳を与えて面倒をみる。親子や子ども同士の戯れ合いは、とても仲むつまじく、愛情にあふれたものだ。ただ、子どもの生存率は低く、2歳以上に成長できるのは、全体の2割程度である。
プライドの大きさは、彼らが生息する地域の獲物の量によるところが多い。獲物が豊富な地域ではプライドも大きく、その逆は小さい。狩りをするのは雌の役目という話は、よく聞くところだろう。雄は狩りをせずにゴロゴロと休んでいて、雌が獲物を捕ってきたら独占して食べ始める。雄が満腹になり、なおかつ獲物が余っていたならば、雌や子どもたちは食事にありつくことができる。雄は日常的に体力を温存し、来たるべき闘いの時のために備えていると考えられている。ある程度歳を重ねた雄の顔は傷だらけで、これまでに何度も激しい闘いをくぐり抜けてきたことがわかる。

狩りの成功率は約25%ゾウやキリンなども狙う

カバをむさぼる雌ライオンと子どもたち

マサイのウシに飛びかかる雌ライオン

夜行性のライオンは、日差しの強い暑い日中は木陰などで休んでいて、涼しくなる夕方から夜間にかけて活発に行動する。時速60キロほどで走ることができ、狩りの時は力の強い前脚で、相手の首や背中の骨をへし折ったり、牙でけい動脈を噛み切って仕留める。獲物となるのは主に草食獣で、スイギュウやシマウマなどの大型獣から、イボイノシシやウサギなどの小型獣、さらにはネズミや小鳥などの極めて小さなものまで含まれる。通常、狩りの成功率は約25%。時にはゾウやキリンなど、自分たちの何倍も大きな動物を狙うこともあるが、狩りの成功率はさらに低くなる。
ある早朝、ケニアのサバンナでサファリをしている時、ウシに忍び寄る一頭の雌ライオンに遭遇した。ライオンに気付いたウシは駆け出し、ライオンはすかさず飛びかかっていった。なんとか引きずり倒そうとするライオンだが、体の大きなウシは懸命に走り続け、とうとう逃げ切ってしまった。百獣の王といえども、一頭で大型獣を仕留めるのは困難だ。後で話を聞いたところ、このウシはマサイ族が飼っているのが逃げ出したもので、ライオンから逃げ切った後に無事村に帰ってきたそうだ。
サバンナではほかの肉食獣との獲物の奪い合いも熾烈で、ヒョウやチーターなどの獲物を奪い取ることもあれば、最も手強い競争相手であるハイエナなどには、逆に獲物を奪い取られてしまうこともある。

脅かされる野生のフィールド王者の咆哮が響き渡る

群れから独立した若い雄たちが集う

雄ライオンの行動を見守るキリンたち

かつてはハンターによって広い範囲で個体数が減ったライオン。ほかの動物を捕る罠にかかる場合もあるし、何より獲物となる動物たちが暮らすフィールドの減少が致命的である。そのため、極めて深刻とまではいかないが、彼らが急激に数を減らしているのは確かだ。
間近に接して最も印象深いのがその声だ。声というより咆哮というべきだが、巨大な空洞をくぐり抜けてきたような破壊力を伴う野太い咆哮は、聴く者の本能にダイレクトに響き、震わせ、畏怖させる。私はいつも思う。これこそが百獣の王たるゆえんではないかと。
 

文・写真=動物写真家 前川 貴行〈まえかわ たかゆき〉

1969年東京都生まれ。和光高等学校卒業。

エンジニアとしてコンピュータ関連会社に勤務した後、独学で写真を始める。1997年から動物写真家・田中光常氏の助手を務め、2000年からフリーでの活動を開始。世界を舞台に、野生動物の生きる姿をテーマに撮影に取り組み、雑誌、写真集、写真展などで作品を発表している。2008年日本写真協会賞新人賞受賞、2013年第1回日経ナショナル ジオグラフィック写真賞グランプリ受賞。公益社団法人日本写真家協会会員。主な著書に『動物写真家という仕事』など。

 

 

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