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日本最大の猛禽類「オオワシとオジロワシ」

三洋化成ニュース No.507号掲載

日本最大の猛禽類「オオワシとオジロワシ」

2018.04.07

流氷の時期の渡り鳥

氷上を飛ぶオジロワシの若鳥(中央)と氷上にたたずむオオワシ(右)

北海道では冬の季節が近付くと、オオワシやオジロワシの姿をあちらこちらで見かけるようになる。特に海岸沿いや川沿い、湖畔といった水際にいることが多い。日本に棲み着いている個体も少しだけいるが、その多くは春から秋までを過ごしていたシベリアの、オホーツク海沿岸やカムチャツカ半島、千島列島などから越冬のために渡ってくる。

オオワシとオジロワシは、日本に生息する鳥類の中で、最も大きな体をしている。しかもオスよりメスの方が、体が大きい。ワシやタカ、フクロウなどを猛禽類というが、哺乳動物やほかの鳥類、魚などを鋭い鉤爪で鷲づかみにして襲い、食べる。オオワシの翼長は最大で2・5メートルと巨大で、鮮やかなオレンジ色のくちばしが特徴だ。オジロワシの翼長は最大で2・4メートルほどで、オオワシより若干小柄といえる。名前の通り、白い尾羽が特徴。両種とも生息地全域で数を減らしていて、オジロワシは2万から4万羽、オオワシは5千羽ほどとみられ、絶滅危惧種に指定されている。

道東の冬を飛翔するたくましい翼

僕は体が大きくて精悍な顔をした猛禽類が好きで、両種のワシも冬が訪れるたびに撮影をしている。撮影地として頻繁に行くのが根室や知床半島の羅臼。北海道の道東は、いろいろな動物に出会えるチャンスが多く、足繁く通っている。撮影は主に真冬の厳冬期なので、十分に暖かい装備で臨む必要がある。指先の保護は最も大切だが、カメラを操作するのであまり厚手のグローブをするわけにもいかず、薄手のグローブの上に、指先の開いたフリースのグローブを使っている。指先の感覚は麻痺寸前となるが、こればかりは仕方がない。極端な寒さは確かにつらいものだが、寒いからこその独特な世界が広がり、野生動物たちのたくましさを目の当たりにすることは、自然の神秘に想いを馳せる貴重な時間だと思う。

 

山から海に向かって飛ぶオオワシ

 

根室海峡をクルーズする船の上や海岸沿いから、三脚に載せた超望遠レンズで狙うことが多いが、それよりもコンパクトな中望遠ズームレンズを手持ちで使うことも多々ある。写真として見応えがあるのは、やはり飛翔する姿だろう。上空にレンズを向け、飛び去るワシを追い、シャッターを切り続ける。たくさん撮っても、うまくいったと納得できるのは、ごくわずかだ。最近は海外から、流氷上に止まるオオワシとオジロワシを見に来る観光客が増え、クルーズ船に乗ると、ほとんどが外国人ということも珍しくない。野生動物が日本の観光産業に大きく貢献している証だ。15年以上前から、北米でハクトウワシの撮影をしているのだが、オジロワシとは姿形がとてもよく似ている。シャープな印象も共通するもので、大きな違いは頭の色くらいのものだ。みな同じ魚を主食とする海ワシの仲間なのだが、くちばしが大きく顔つきが異なるオオワシは、少々武骨な印象だ。シベリアを行き来するオオワシとオジロワシの主要な越冬地である知床は、陸、海、空を彩る生き物たちの住処として、日本のみならず、極東アジアにおいての重要なエリアとなっている。

 

人と共生して厳しい冬を生き抜く

羅臼近海は、スケトウダラ漁が盛んで、漁船が落とすおこぼれのタラを狙ってワシたちが集まる。シベリアから流れ着く流氷で埋め尽くされる真冬の海では、魚を狩ることができず、昔はアザラシなどの死肉を食べたりしていた。しかし、タラ漁が行われるようになると、漁船が落とすタラを簡単に得ることができるので、そのような習慣が定着した。野生の生き物たちだが、こうした人間の営みに支えられているケースも多い。これもまた共生と言ってよいのかもしれない。

ただ最近は、自然の形態を変えるほど増え過ぎたエゾシカを、ハンターが銃で仕留めて放置し、その死肉を求めて山に行くワシたちが多くなってきた。銃弾には鉛が使われており、その鉛を食べてしまったワシが、中毒で死んでしまうケースが増えた。そのほか、森林伐採によるねぐらとなる場所の減少や、河川、湖沼、海岸の開発による餌となる資源の枯渇が大きな問題となっている。さらには、風力発電施設の風車に激突したり、電線での感電事故、自動車や列車との衝突事故なども憂慮すべき問題となっている。

 

獲物が散乱し、競って食べている

 

野生動物と共生できる世界へ

獲物をキャッチする直前のオジロワシ

獲物を奪い合う2羽のオジロワシ

動物たちとの共生は、一つのことを見るだけでは不十分で、一つのことがほかのことにもつながっていることをしっかりと考えなければならない。日本を代表するワシたちだが、日本のみならず近隣諸国一帯を生息地としているため、各国と連携した保護活動を行う必要がある。この貴重な生き物が絶えることがないよう、国境を越え、力を合わせての取り組みが欠かせない。文明が現在ほど発展していなかったはるか昔、動物と人間との距離感は程良いものだったのだろう。だが今となっては、活動範囲を広げ続ける人間と、生息環境がどんどん縮小していく動物たちとで、接触する機会が極端に増えている。

これから過去のように戻ることは考え難い。だとしたら、いかにして共生していくかを真剣に考えないと、まずは野生動物が姿を消してしまうだろう。野生動物たちが消えた自然が、人々にとって有益な環境であるとは思えない。日本はせっかく素晴らしい自然を有しているのだから、誇りを持って世界にアピールし、自然大国として世界のリーダーシップを取るくらいになりたいものだ。

 

文・写真=動物写真家 前川 貴行〈まえかわ たかゆき〉

1969年東京都生まれ。和光高等学校卒業。

エンジニアとしてコンピュータ関連会社に勤務した後、独学で写真を始める。1997年から動物写真家・田中光常氏の助手を務め、2000年からフリーでの活動を開始。世界を舞台に、野生動物の生きる姿をテーマに撮影に取り組み、雑誌、写真集、写真展などで作品を発表している。2008年日本写真協会賞新人賞受賞、2013年第1回日経ナショナル ジオグラフィック写真賞グランプリ受賞。公益社団法人日本写真家協会会員。主な著書に『動物写真家という仕事』など。

 

 

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