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国産の未利用木材を利用した、新しいマテリアル

三洋化成ニュース No.548

国産の未利用木材を利用した、新しいマテリアル

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2025.07.11

木粉配合高機能テキスタイル『MOC-TEX®』(サンノプコ株式会社)

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日本は国土の約70%が森林で、その森林のうち約40%は人工林が占めています。ただ現状は森林の手入れが十分に行われておらず、環境保全の観点からも森林資源の循環利用が進んでいない状態です。この社会課題を解決するため、国産木材の有効活用を目指した新しい製品を紹介します。

木材自給率の向上で日本の森林を守る

現在の日本の森林の約40%を占める人工林は、半数以上が樹齢50年以上を超えており、利用期を迎えています。

一方で、木材自給率は40%程度であり、森林の多面的機能保持の観点からも国産木材の利用促進が求められています。国産木材は住宅建材やパルプ、チップ用材で多く利用されており、近年は熱源やバイオマス発電の燃料に使われることも増えてきています。これは、木材自給率が18.8%と低迷した2002年以降、人工林の充実や国産木材活用を目的とした政策(例:公共建築物等木材利用促進法)の実施、さらには再生可能エネルギー固定価格買取制度を受けたバイオマス発電の推進によって国産木材の利用が進められたためです。その効果もあり、木材自給率は2022年に40.7%まで回復しましたが、政府の目標値である50%には到達できていません。

また現在、製材や建築材については、利用時に出る残材も90%以上が利用されるまでになっています。しかし、間伐材など製材に適さない未利用木材はいまだに60%が林地に放置されており、これらの有効活用が求められています。

バイオマス度70~80% 吸放湿性にも優れた製品

こうした背景を踏まえ、日本の森林課題を解決するために考案されたのが、木粉を使ったウッドテキスタイル『MOC-TEX®』です。

MOC-TEXの特徴と構造『MOC-TEX®』の開発は、サンノプコが、ウレタン樹脂関連の新たなビジネス創出を探っていた2021年から始まりました。ウレタン樹脂の主な用途の一つに合成皮革があり、担当者の合成皮革用ウレタン樹脂の開発経験から木粉とウレタン樹脂を混ぜたテキスタイルというアイデアが生まれました。当時は、リンゴやブドウの搾りかす、パイナップルの葉の繊維などを使った植物由来の合成皮革などが、本革以外のエシカルな選択肢として注目されていたこともあり、サンノプコの取り組みにも大きな関心が寄せられました。

この製品の特徴は、木粉だけでなく、樹脂にもトウモロコシ由来の原料を使った「水性バイオポリウレタン樹脂」を使用しているところです。他の植物由来の合成皮革がバイオマス度20~30%程度なのに対して、『MOC-TEX®』は70~80%と高いバイオマス度を実現し、さらに製造工程で使用する有機溶剤を水に置き換えることで、環境負荷を大幅に低減しています。そして、木粉の特性によって、空気中の水蒸気を収着したり放出したりする「吸放湿性」に優れるという特徴も持っています。

サンノプコが得意とする工程用薬剤の知見を集結

『MOC-TEX®』の構造は、製品にした際の表面となる表皮層、中面の接着層、裏面の基布の3層です。表皮層にはスギ木粉を20~40%、水性バイオポリウレタン樹脂を60~80%使用しています。また、基布も綿100%を使用しており、この構成でバイオマス度を最大80%まで引き上げています。

MOC-TEXの特徴(本革・合成皮革との比較)開発に当たっては、当初のコンセプトが国産木材の利用促進だったため、まずはなるべく多くの木粉を使うことが検討されました。

ポイントとなっているのは、表皮層の水性分散液中に木粉を高濃度で均一に分散させる技術です。表皮層は木粉、水性バイオポリウレタン樹脂、水からなる分散液を薄く塗工することで製造します。木粉が均一に混ざらなければ、表面に穴が開いたり、色ムラができたりといった不具合が起こります。木粉は粒径や形状、含水率などによって分散性が大きく左右されるため、開発では多くの分散剤のなかから最適な分散剤を選定するとともに、配合比の調整を繰り返し行いました。

また、表皮層の水性分散液中で木粉から出る泡を消すための消泡剤、表皮層の水性分散液の粘度を調整する粘弾性調整剤など、サンノプコが得意とする工程用薬剤の知見を集結させています。

こうして2022年には開発に成功し、製造についても既存の合成皮革製造設備で加工できるように調整を行い、2024年3月から製品として販売を開始しています。木粉もトレーサビリティーを確保したものを使用するなど、品質の管理も徹底しています。

多くの企業や自治体とともに社会課題の解決を目指す

『MOC-TEX®』は木材本来の色を基本ラインアップとし、お客様の要望に応じて色やシボ(凸凹したシワのような模様)、光沢、厚みのカスタマイズが可能です。

現在は徳島県産木材の間伐材を用いたスギ木粉を使用していますが、木粉のバリエーションも増やすため、サンノプコの親会社、三洋化成の創業の地である京都の木材についても検討を進めています。将来的には各地のブランド木材とコラボレーションし、ご当地製品をつくりたいと考えています。

他にはない特徴を持つ『MOC-TEX®』は各方面で高い評価を得ており、2022年のウッドデザイン賞(奨励賞)受賞を皮切りに、毎年さまざまな賞を受賞しています。 インテリア、アパレル、ハウスメーカーといった業界を中心に問い合わせも増えており、現在は複数のお客様と一緒にものづくりを進めています。2025年3月のJALグループのサステナブル・チャレンジ企画では、機内シートのヘッドレストカバーに採用されました。

『MOC-TEX®』は、国産木材を有効活用し、環境保全に貢献したいという思いから生まれたため、SDGsの目標9、12、13、14、15などに幅広く貢献できます。今後も国産木材の利用促進に力を入れている企業や自治体と連携を深め、より多くの方と一緒に社会課題の解決を目指していきます。

当社製品および開発品をお取り扱いいただく際は、当社営業までお問い合わせください。使用される用途における適性および安全性は、使用者の責任においてご判断ください。
 

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