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洗浄力と生分解性を両立した衣料用洗剤基剤

三洋化成ニュース No.503

洗浄力と生分解性を両立した衣料用洗剤基剤

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2017.07.01

活性剤研究部
副主任 荒木 佑介
[お問い合わせ先]生活繊維本部 生活産業部

 

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日本における衣料用洗剤の市場規模(2015年)は販売数量で約70万㌧。国内の市場は横ばい傾向であるが、図 1に示す通り、衣料用洗剤の液体洗剤比率は年々大幅に伸びてきている。節水タイプのドラム式洗濯機の普及やすすぎ回数を低減したコンパクト型液体洗剤の普及に伴い、洗浄力やすすぎ性など性能の改善が行われている。

一方で、世界的に環境への関心が高まっており、環境負荷の小さい液体洗剤が求められている。

本稿では、当社が開発、上市している衣料用液体洗剤基剤と、従来の技術を最適化することで洗浄力と生分解性を両立した『エマルミン CS-100』について紹介する。

 

衣料用液体洗剤の成分

液体洗剤は前述のように、節水型洗濯機の普及に伴い、市場シェアが伸びてきている。しかし、液体洗剤は、「外観が液状」であることを実現するため、流動性を低下させるような成分を配合しづらい。特に、粉末洗剤で大きな役割を果たした、油脂汚れに対する洗浄力を助けるビルダー(炭酸ナトリウムやケイ酸ナトリウムなどの無機アルカリや、カルシウムイオンを捕捉し汚れや泥の再付着を防止するためのゼオライトなど)は、使用しづらい。このように、液体洗剤では、配合できる成分に制約があるため、洗剤基剤そのものや、配合比率に工夫が凝らされている。

衣料用洗剤基剤として使用される代表的な構成成分および界面活性剤を表 1、表 2に示す。衣類に付着する汚れは、人体由来の汚れ(皮脂、汗など)と外部由来の汚れ(泥、ほこり、食べこぼしの染みなど)があり、衣類の種類、部位、季節などによって汚れの組成、付着量は変化する。一般的には皮脂を主体とする油脂汚れやたんぱく質汚れ、泥などの無機汚れからなる複合汚れである。このため洗剤基剤としては、非イオン界面活性剤とアニオン界面活性剤が併用される。

 

①非イオン界面活性剤

非イオン界面活性剤は、油脂汚れに対して洗浄力が高い。一般に、アニオン界面活性剤に比べて臨界ミセル濃度(c.m.c.)が低く、油脂に対する界面張力低下能が高いため、少量で優れた洗浄力を示す。洗浄力は水の硬度の影響を受けにくく、低起泡性ですすぎ性に優れるなどの点から、液体洗剤の主基剤に用いられる。

具体的には、高級アルコールのエチレンオキシド付加物(AE)や、洗濯時の泡立ちを抑え液体洗剤の低温流動性を向上させるため一部にプロピレンオキシド(PO)を付加したものなどがある。

 

②アニオン界面活性剤

乳化性、分散性、汚れの再付着防止性に優れ、無機汚れに対する洗浄力が高い。一般にアニオン界面活性剤は、洗浄力が水の硬度に影響されやすいが、液体洗剤には、その中でも比較的影響の少ない直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩(LAS)や、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩(AES)などが使用される。

 

③その他添加剤

〈ビルダー〉
それ自身は界面活性能を持たないが、洗浄力を向上させるために重要な成分である。洗浄力が硬水や電解質の影響を受けないよう、アルカリ緩衝作用やカルシウムなどの硬度成分、重金属イオンを封鎖するなどの働きをする。前述のように、液体洗剤に配合できるものは限定されるが、使用できるビルダーとしては、クエン酸塩などの多価カルボン酸塩やアルカノールアミンなどの有機アルカリがある。

〈酵素〉
たんぱく質汚れの除去には、たんぱく質分解酵素のプロテアーゼ、油汚れには脂質分解酵素のリパーゼなどが配合されている。
その他にも、蛍光増白剤、可溶化剤、pH調整剤、防腐剤、着色剤、香料などが配合されている。
当社は液体洗剤基剤として、各種界面活性剤を取りそろえているが[表 3]、ここから先は、衣料用洗剤の主要成分であり、高機能化に大きな役割を担う非イオン界面活性剤に絞って紹介する。

 

当社の非イオン界面活性剤系
衣料用液体洗剤基剤

当社は、衣料用洗剤基剤として代表的な非イオン界面活性剤であるAEとして、ラウリルアルコールのEO付加物である『エマルミン NL』シリーズを上市している。また、当社独自の合成技術(ナロー化技術)を用いてEOの付加モル分布を従来品より狭くし、洗浄力、乳化力、浸透力を向上した『ナロアクティー CL、ID』シリーズや、浸透力向上のため分岐構造を持たせた二級アルコールのEO付加物である『サンノニックSS』シリーズなどの各種AEを有する。

洗浄力向上への取り組み

液体洗剤には洗浄力やすすぎ性の向上などが求められており、このような要求性能に応えるべく開発したのが『エマルミン FL』シリーズや『ピュアミール』シリーズである。

衣料用洗剤において対象となる汚れは皮脂を主体とする油脂汚れ、たんぱく質汚れ、泥などの無機汚れである。皮脂汚れの主成分は脂肪酸やトリグリセリドなどであり、これらを除去することが洗浄力向上のポイントとなる。そのためには、界面活性剤と油脂との親和性を高くすることで油脂と洗浄液との界面張力を小さくすることが必要となる[図 2、図 3]。

『エマルミン FL』シリーズでは、一般的なAEの親水鎖であるEOの一部を、やや疎水性の高いPOに置き換えることで、油脂との親和性を高くした。これにより従来のAEに比べ、高い洗浄力を有する。

アミン系非イオン界面活性剤である『ピュアミール』シリーズの特長は、他の非イオン界面活性剤と比べて、少量で高い洗浄力を発揮することである。これは『ピュアミール』シリーズの主成分であるポリオキシアルキレンアルキルアミンが、水中で弱いカチオン性を有し、汚れの主成分である脂肪酸などが水中ではアニオン性に帯電しているため、汚れ成分に非常に高い親和性を有するからである。また、従来のアミン系界面活性剤は一般的に褐色であるが『ピュアミール』シリーズは、当社独自の技術により淡色化に成功し、透明感や清潔感といったイメージも重要な液体洗剤に適している[写真 1]。

洗浄力の評価は、実際の複合汚れに近い組成で作成した人工汚染布を用いて行った[図 3]。

 

生分解性向上への取り組み

一方で、最近の環境配慮の意識向上に伴い、洗剤基剤にも高い生分解性が求められてきている。しかし、洗浄力と生分解性は相反関係にあり、これらを両立する界面活性剤が求められていた。

代表的な液体洗剤基剤であるAEは、図 3、図 5の『エマルミン NL-100』が示すように、生分解性は高いが、洗浄力は満足のいくものではなかった。

一方、AEのEO鎖の一部をPOに置き換えたポリオキシアルキレンアルキルエーテルを主成分とする『エマルミン FL』は、POの分岐メチル基のためAEと比較すると洗浄力は上がるが、生分解性がやや劣る。

洗浄力が最も高い『ピュアミール EP-300S』は、主成分であるポリオキシアルキレンアルキルアミンの親水基部分が2鎖に分岐しており、親水基部分が1鎖のポリオキシアルキレンアルキルエーテルと比較するとさらに生分解性が劣る[図 4、5]。生分解性については、界面活性剤がアルコール、水、二酸化炭素に分解されるのに必要とされる理論的酸素要求量(COD:化学的酸素要求量)に対する実際の酸素要求量(BOD:生物化学的酸素要求量)の割合を生分解度(%)として評価している。

上記のように、洗浄力と生分解性の両立は容易ではないが、当社は、これまでの界面活性剤の設計技術を活かして、AEの優れた生分解性を大きく低下させることなく、洗浄力を大幅に向上した『エマルミン CS-100』を開発した。

『エマルミン CS-100』は、『エマルミン FL』シリーズと同じく、AEのEOの一部をPOに置き換えたポリオキシアルキレンアルキルエーテル型非イオン界面活性剤であるにもかかわらず、その分子構造の最適化により生分解性を大幅に向上することに成功した。

『エマルミン CS-100』は、少量でも十分な洗浄力を示すため、基剤の配合量低減や洗剤の使用量低減などといった面から、環境への排出量を低減することで、さらに環境への負荷を低減することも可能である。また、配合量を低減した場合は、他の機能成分を添加することも可能となり、配合の自由度が向上するため、洗剤の高機能化につながる。

 

今後の課題

環境に配慮した洗剤基剤のニーズはますます拡大していくと考えられる。特にドラム式洗濯機の普及やすすぎ1回コースの選択による節水化の流れは加速化している。洗濯液量が少なくなることですすぎ液中での汚れの濃度が高くなるため、汚れの再付着などに起因する衣類の臭い、黄ばみ、黒ずみを防止するニーズも顕在化してきている。当社はこれらのニーズに対応した高性能な衣料用洗剤基剤の開発を今後も進めていく。

当社品をお取り扱いいただく際は、当社営業所までお問い合わせください。また必ず「安全データシート」(SDS)を事前にお読みください。使用される用途における適性および安全性は、使用者の責任においてご判断ください。

 

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