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光酸発生剤

三洋化成ニュース No.502

光酸発生剤

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2017.05.01

サンアプロ株式会社
研究所 ユニット長 高嶋 祐作
[お問い合わせ先]サンアプロ株式会社 東京営業所:電話03-3241-2491

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光酸発生剤とは

光酸発生剤は、光を照射されることにより酸を発生する化合物である。発生する酸は、主に二つの用途で用いられる。一つは光硬化性樹脂のカチオン重合を開始させる光カチオン重合開始剤である。光硬化性樹脂は、飲料缶用塗料、コーティング剤、3Dプリンターなどに用いられる三次元光造形用樹脂、光硬化型接着剤、半導体や液晶用のネガ型レジストなどで実用化されている。もう一つは、半導体のフォトリソグラフィー*に用いられる化学増幅型レジストである。ここでは、酸はアルカリ不溶性のレジストを可溶性に変える反応の触媒となる。

本稿では、光硬化性樹脂における光カチオン重合開始剤としての用途を中心に、光酸発生剤についてその概要を紹介する。

*リソグラフィー:微細加工技術の中の一つで、微細な回路パターンをシリコンなどの半導体基板表面にレジストパターンとして転写する技術のこと。

 

光硬化性樹脂について

光硬化性樹脂は、光を短時間照射するだけで硬化する樹脂である。熱硬化性樹脂に比べ、硬化時間の短縮、設備の小型化、省エネ、無溶剤などの特長があり、生産性の向上や環境負荷低減が可能な材料である。

光硬化性樹脂には、ラジカル重合タイプとカチオン重合タイプがある。各タイプで使用される主なモノマーを表 1 に示す。ラジカル重合タイプは、モノマー、重合開始剤ともに種類が豊富であり、その組み合わせにより多様な性能を引き出せることや硬化速度が速いことなどから広く使われている。

カチオン重合タイプのうち、エポキシ系やオキセタン系の光硬化性樹脂は、①ラジカル重合タイプと異なり酸素による硬化阻害を受けない、②開環しながら重合するため硬化時の体積収縮が少ない、③接着性など、硬化物の物性に優れるなどの特長がある。このカチオン重合タイプにおける重合開始剤として光酸発生剤が使用される。

 

光酸発生剤の化学構造

光酸発生剤は、光を吸収する部分と酸の発生源となる部分から構成される。一般的な光酸発生剤は、スルホニウムイオンやヨードニウムイオンをカチオン部とするオニウム塩である(表2)。これらのオニウム塩では、カチオン部が照射された光を吸収し、アニオン部が酸の発生源となる。

酸の発生機構とその作用

光酸発生剤は、光を吸収し、次いで分解して、溶媒または酸発生剤自身から水素を引き抜くことで、酸を発生する。スルホニウム塩を例としてその酸の発生機構を図 1に、エポキシの光カチオン重合を例に、発生した酸の作用を図 2 に示す。

まず、発生した酸がエポキシに配位し、次のエポキシの求核攻撃を受けてカチオン重合の真の活性種であるオキソニウムカチオンが生成し、その後、エポキシの逐次開環重合が進行する。

光酸発生剤には、光を効率的に吸収し、強い酸を発生することが要求される。発生する酸が強い酸であればあるほど、カチオン重合の重合活性は高くなる(図 3)。光カチオン重合における一般的な光酸発生剤としては、リン系の PF6-、アンチモン系の SbF6-をアニオンとするオニウム塩が使用されている(表 2)。


 

当社の光酸発生剤

光カチオン重合開始剤として使用される光酸発生剤は、光硬化性能に加えて、①性能が安定していること、②溶剤、モノマーへの溶解性が高いこと、③モノマーとの配合液の貯蔵安定性が高いことなどが要求される。

当社は、独自の製法を開発し、上記の要求を満たす高純度モノスルホニウム塩タイプの光酸発生剤『CPI-100P』、『CPI-101A』を上市している(表 3)。

 

非アンチモン系光酸発生剤『CPI-200K』

高活性な光酸発生剤としては、SbF6-をアニオンとするアンチモン系が主に使用されているが、アンチモン化合物は環境に対する安全性が懸念されるために用途が限定される。

そのため当社では、非アンチモン系で、かつ高活性な特殊リン系アニオン[(Rf)nPF6-n:Rf=パーフルオロアルキル基]を有するトリアリールスルホニウム塩タイプの光酸発生剤『CPI-200K』を開発、上市している(表 3)。『CPI-200K』は、非アンチモン系でありながら、アンチモン系と同等の光硬化能を有する(図 4)。

また、オニウム塩タイプの光酸発生剤は塩構造のため、疎水性の物質に溶解しづらい。しかし、『CPI-200K』は、導入したパーフルオロアルキル基の効果により、オニウム塩タイプでありながら、各種の溶剤に対し高い溶解性を示し、多様なフォーミュレーションに対応できる(表 4)。

 

長波長対応光酸発生剤『CPI-300、400』シリーズ

光酸発生剤の適用用途は、紫外線吸収剤を用いるような屋外用や、紫外線を透過しないフィラーを使用する用途など多様化している。そのため露光光源も、従来の水銀ランプだけでなく、より光透過性の高い長波長の光源であるLEDや青色レーザー光など多様化している。それに伴い、光酸発生剤も各種波長領域で感光することが必要となっている。

しかし、従来の光酸発生剤は光吸収領域(感光波長領域)が比較的短波長領域なため、長波長領域でも感光するためには、光増感剤などを併用し感光波長領域を広げる必要があった。しかしこの方法では増感剤から光酸発生剤へのエネルギー伝播にロスが生じるため、光分解効率に課題が残る。光酸発生剤単独で感光波長領域が広がれば、光分解効率もよくなるため、このような光酸発生剤が要望されている。

当社は、特殊な感光部位を導入することによって、長波長領域でも感光する高性能なトリアリールスルホニウム塩タイプの光 酸 発 生 剤『CPI-300、400』シリーズを実現した(図 5)。
『CPI-300、400』シリーズは、i線(365nm)以上の波長領域の光に対応可能であり(図 6)、高い光分解率を示す(表 5)。

 

光酸発生剤の用途展開

冒頭でも述べたが、光酸発生剤は、カチオン重合用途だけでなく、化学増幅型レジスト用途への適用も盛んである。化学増幅型レジストの感光剤に使用した場合の、酸の作用を図 7に示す。

発生した酸は、レジスト樹脂成分をアルカリ現像液に対して不溶化させている保護基を脱離させる反応の触媒として作用し、樹脂成分はアルカリ現像液に対して可溶な組成に変化する。この機構により、半導体のフォトリソグラフィー工程では、フォトマスクを通してレジストを露光することで、露光部の樹脂成分を現像液に溶解し、フォトマスクに覆われている未露光部の樹脂成分を残して、微細パターンを形成している。

近年のフォトリソグラフィーの微細化に伴い、特に i 線レジストでは、光分解効率の高い非イオン系の光酸発生剤が求められており、主な技術課題は①高感 度、②高透明性(高光透過性)、③高溶解性である。

当社では、これらの課題に対しても研究を進めており、今後もニーズに対応した製品を開発していく。

 

当社品をお取り扱いいただく際は、当社営業所までお問い合わせください。また必ず「安全データシート」(SDS)を事前にお読みください。使用される用途における適性および安全性は、使用者の責任においてご判断ください。

 

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