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低分子量ポリオレフィン

三洋化成ニュース No.510

低分子量ポリオレフィン

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2018.09.01

事業研究第二本部
機能性樹脂研究部 ユニットチーフ
中田 陽介
[お問い合わせ先]電子・樹脂・色材本部 樹脂産業部

 

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ポリオレフィンは、フィルムや容器など日常生活に欠かせないポリエチレンやポリプロピレンの総称である。一般のプラスチックとして使用されているポリオレフィンは、分子量が数万から数十万の高分子量のものを指す。一方、分子量が数万以下の低分子量ポリオレフィンは、ワックスの一種であり、高分子量体とは異なる物理的、化学的性質を示す。本稿では、当社の低分子量ポリエチレン『サンワックス』シリーズ、低分子量ポリプロピレン『ビスコール』シリーズの特長と用途例を紹介する。

ワックスとは

身近なワックスとしては、ヘアワックスやカーワックスなどが一般的であるが、ワックスはロウ状の物質を表す総称であり、さまざまな種類が存在する。その定義は「(1)常温で固体または半固体のもので、融点が40°C以上あり、②加熱すると分解することなく溶けて、粘度の低いもの」である。ワックスの語源は、ミツロウを意味するアングロ・サクソン語の「weax」だといわれ、その歴史は紀元前4000年までさかのぼる。その後、ミツロウに似た性質の天然物が次々と発見され、20世紀には原油より精製されたパラフィンワックスやマイクロクリスタリンワックス、次いでエチレン、プロピレンより合成したワックス(合成ワックス)が製造・販売されるようになった1)。ワックスはさまざまな原料から構成され、大別すると天然ワックス、半合成ワックス、合成ワックスに分類される(表1)。天然ワックスには、生物由来のミツロウ、カルナバワックスや化石由来(褐炭、原油)のモンタンワックス、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックスがある。天然由来のため分子量分布などの組成分布幅が広く、精製が必要である。半合成ワックスは、天然物を原料に合成して作られる。例えば、アマイドワックスは脂肪酸とアミンとの縮合反応を行い製造されている。合成ワックスには、ポリエチレンやポリプロピレンなどがあり、石油原料(エチレン、プロピレン、ほかのモノマーなど)から合成、またはポリマーを分解して低分子量化することにより製造されている。

 

ワックスの用途は多岐にわたり、化粧品、印刷インキ、化学紙、タイヤ、フローリング、接着剤などの多くの工業製品、日用品の原料や添加剤として使用されている。
なかでも合成ワックスは、天然ワックスと類似の性質を持つものの、組成制御が比較的容易であり、溶融粘度などの物性をコントロールしやすい。多様なニーズに対応できるため、応用開発が盛んな塗料、インキ、接着剤などの工業用原料などに多く使用されている。
合成ワックスは、その製造方法から、重合型と熱分解型に分けることができ、重合型はエチレンモノマーの単独重合物やエチレンとほかの極性モノマーを共重合した変性タイプの低分子量ポリエチレンがある。また、熱分解型は、高分子量のポリエチレン樹脂やポリプロピレン樹脂をラジカルにより分解した低分子量化物である(図1)。

『サンワックス』・『ビスコール』シリーズ

当社は、日本国内で初めて合成ワックスの工業化に成功した低分子量ポリエチレン『サンワックス』シリーズや、その技術を応用した低分子量ポリプロピレン『ビスコール』シリーズを製造・販売している(表2、3)1)。いずれも製造・販売してから半世紀が経つシリーズ品であるが、その特長を活かして今なお活躍を続けるロングラン商品である。当時の開発経緯、苦労話については引用文献を参照されたい2)。『サンワックス』・『ビスコール』シリーズは熱分解型であり、①天然ワックスと比較して高軟化点、高結晶である、②ポリオレフィン樹脂との相溶性に優れる、③熱分解型のため分子量分布が広い、④ポリオレフィン以外の樹脂とも相溶しやすいという特徴がある(図2、表4)。また、熱分解の工業プロセスは重合型の工業プロセスと比較して少量生産にも適しており、さまざまなニーズに細かく対応することができる。

 

『サンワックス』・『ビスコール』シリーズの用途例

1.プラスチック用顔料分散剤

日常、目にするカラフルなプラスチック製品は非常に種類が多いが、原料として使用されている樹脂の種類は少なく、ポリエチレン、ポリプロピレン、ABSなどが主である。
プラスチックを顔料などで着色する場合、顔料の分散性が成形製品の品質に大きく影響するが、顔料と樹脂を単純に混合するだけでは混合性が悪く、色ムラが発生しやすい3)。このため、まず顔料を高濃度に分散したマスターバッチを作り、これを着色剤として樹脂に加え、加熱溶融させて機械的に混練させる方法(溶融混練)が一般的である。
『サンワックス』・『ビスコール』シリーズを用いた場合、混練対象とする樹脂に比べ、溶融粘度が低く、顔料および樹脂との親和性が比較的高いことから、①顔料分散性に優れ、高濃度のマスターバッチ化ができる。また、②適度な分子量を有しているため、樹脂の機械物性への影響がほとんどなく、③対象樹脂との相溶性にも優れている。④非極性で顔料の発色を妨げず、発色の安定性も良好である。このような特長により、プラスチック用の顔料分散剤に適している。

2.プラスチック用加工性向上剤

ポリエチレン、ポリプロピレン、塩化ビニル(PVC)、ABS、ポリブチレンテレフタレートなどの成形品は、通常、粉末やペレット状の樹脂に、安定剤やフィラーなどの添加剤を溶融混練後、金型に押し出し、冷却して成形する。溶融混練過程で溶融樹脂と金属との摩擦抵抗や、樹脂の高い溶融粘度などにより流動性が低下するなどして成形加工性が低下する。金型温度や射出成形圧の調整で成形加工性を改善する場合には、成形サイクルの低下(生産性低下)や複雑な形状の成形品ができないなどの課題がある。
『サンワックス』・『ビスコール』は低粘度であるため、これらを成形加工時に添加しておくことによって、金型と樹脂の界面や高分子鎖の隙間に入り、樹脂の流動性を向上させることができる。少量添加で効果を発揮するため、樹脂の機械物性を低下させることなく成形加工性が向上する(図3、表5)。このような性能のほかに低極性である特長を活かし、成形品の離型性向上や、PVCの滑性付与などにも使用されている。
近年、自動車を中心とした輸送機メーカーでは金属部材を樹脂化する潮流があり、耐熱性や機械強度などに優れるエンジニアリングプラスチック(通称エンプラ)が使用されている。エンプラは溶融状態での流動性や成形性が悪いうえ、さらに機械物性を向上させるために、ガラス繊維や炭素繊維などの高アスペクト比のフィラーとの複合材の適用例が増えている。最近ではフィラーの高充填化のニーズが高まっているが、フィラーを高充填させると複合材全体の粘度が上がり、生産性低下や外観不良が起こる。
『サンワックス』・『ビスコール』はこのような高濃度のフィラーを充填したエンプラに対しても有効で、少量添加することで流動性を向上し、複合材の機械物性を低下させることなく生産性を向上することができる。

 

3.塗料、印刷インキの改質剤

塗料・印刷インキ分野では、機能だけでなく意匠性が消費行動に与える影響も大きく、つや(光沢)消しによるマット感が求められるものも多い。光沢は表面の凹凸によって決まり、ある程度の凹凸があると光沢がなくなる。
『サンワックス』・『ビスコール』のポリオレフィンワックスを塗料に使用すると、ワックス粒子が塗膜表面に凹凸を形成し、光を拡散することでつや消し効果を与える。さらに、シリカなどのつや消し剤を併用した場合もこれらの沈降を防止し、表面にとどまらせることでムラのないつや消し効果を与える。また、ポリオレフィンワックスは疎水性であり、表面に配向したワックス成分が、塗料表面を耐水性にすることができ、防カビ、防汚性も付与することができるため、塗装後の塗膜の耐久性向上が期待できる。
通常、塗料やインキはOPPフィルムを代表とする非極性の成形品、シート、フィルムなどとの密着性が悪いが、『サンワックス』・『ビスコール』はこのような非極性の材料との親和性が高いため、塗料・インキの構成成分として利用することで、シート、フィルムにも良好な密着性を付与できる。

4.ホットメルト接着剤用添加剤

ホットメルト接着剤は、溶剤を含まないためVOC(揮発性有機化合物)を削減できる環境配慮型の接着剤であるが、通常ホットメルト接着剤は、融点が低く熱可塑性であるため、接着後の環境温度(周辺温度)が高くなると接着強度が低下する欠点がある。『サンワックス』・『ビスコール』はホットメルト接着剤よりも高融点であることから、添加することで高温時の接着強度低下の影響を受けにくくする。また、低粘度であるため、接着剤の粘度調整が容易であり、ハンドリング性の観点でも通常と同様に使用できる。

 

今後の展望

低分子量ポリオレフィンは既に多岐にわたって利用されているが、さらなる用途開発の可能性は十分に秘められていると思われる。近年、自動車を中心に金属部材の樹脂化が進められており、成形品の生産速度や歩留まり性、成形加工性向上のための成形助剤としての重要性も高まっている。今後も、このようなニーズに対応した製品の提供や開発に尽力していく。

引用文献

1)友重徹,藤井弘保:合成ワックス.高分子,26,637-642(1977)
2)『パフォーマンス・ケミカルスの開発物語-この面白くもなんぎな仕事の歴史-』,三洋化成工業(株)(1989)
3)森山登著:『分散・凝集の化学』,産業図書社(1995)

当社品をお取り扱いいただく際は、当社営業所までお問い合わせください。また必ず「安全データシート」(SDS)を事前にお読みください。使用される用途における適性および安全性は、使用者の責任においてご判断ください。

 

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