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ラメラゲルネットワークを形成する スキンケア用非イオン界面活性剤

三洋化成ニュース No.519号

ラメラゲルネットワークを形成する スキンケア用非イオン界面活性剤

2020.03.13

経営企画本部 Beauty & Personal Care部
研究グループ 企画開発チーム
副主任 濵野 浩佑
[お問い合わせ先]
経営企画本部 Beauty & Personal Care部 営業グループ

 

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肌の最外層にある角層は、皮膚内部の水分を保持する保湿機能や、その水分が蒸散するのを防ぎ、乾燥、紫外線、酸化、異物の侵入などの外界の影響から皮膚を守るバリア機能を有している。なかでも角層の構成成分である細胞間脂質は両親媒性物質であり、それら両親媒性物質は水を保持した親水部と疎水部が交互に規則正しく重なった二分子膜(ラメラ)構造を形成している。バリア機能の発現にはこのような層状構造であることが重要と考えられている1),2)。化粧品分野ではラメラ構造を持ったラメラ液晶やラメラゲル(αゲル)を形成して角層の機能を補うという考えに基づいた研究が積極的に行われている3)-7)。本稿では、幅広い処方で安定したαゲルを形成し、スキンケア製剤に有効な非イオン界面活性剤『アルファピュール HSG』(開発品)について紹介する。

肌を健やかに保つ角層の役割

角層は、表皮の最外層に位置するわずか数10μmの厚さの組織で、扁平な角層細胞とその間を埋める細胞間脂質で構成されており、それぞれレンガとモルタルに例えられる(図1)。角層細胞はアミノ酸などの保湿成分を持っており、水分を蓄えて角層の柔軟性や表層のなめらかさを維持している。一方、細胞間脂質は角層細胞間に規則的に配列したラメラ構造を形成している。このような強いネットワーク構造を形成することで外部環境により変化しにくく、角層細胞や水分を強固につなぎとめることができ、優れたバリア機能を発揮することができると考えられている1),2)。

しかし加齢や乾燥などでこれらの機能が低下すると肌荒れや皮膚の老化の原因となる。そのため角層の保湿機能やバリア機能を補うことはスキンケア製剤の重要な役割の一つである。

角層の保湿とラメラ構造

化粧水や乳液などのスキンケア製剤の基本的な役割は、角層の保湿により機能を維持・向上することである。一般的な保湿方法としては、化粧水で肌内部に水分や保湿剤を浸透させた後、より油脂分の多い乳液やクリームを用いて肌表面を油膜でコーティングし、水分が蒸散するのを防ぐ。このように肌の保湿には、角層細胞や肌表面を油分の膜で覆い、水分の蒸散を防ぐことが必要である。

皮膚組織のなかでその役割を担っている細胞間脂質は、セラミドや脂肪酸、コレステロールのように親水部と疎水部を持つ両親媒性物質から構成され、これらはラメラ構造を形成している。スキンケア製剤の研究においてはその類似構造として、固体の水和結晶であるラメラゲル(αゲル)の活用が進んでいる(図2)。αゲルは両親媒性物質が六方晶に規則正しく充填してラメラ液晶のように層状に並び、液状のラメラ液晶と比べて分子運動の自由度が制限されている一方、その層間に水を保持する水和結晶であり、その強固なネットワークによりラメラ構造が崩れにくく、親水部に多量の水分を保持していることが特徴である。このような細胞間脂質に類似した分子構造体は肌になじみやすく、水分と油分が層状に重なり肌表面をカバーすることで角層の機能を補うという考えに基づいた化粧品の基礎研究や製剤化が積極的に行われている3)-7)。

 

 

αゲルとその課題

αゲルが構成するラメラゲルネットワークでは、水分だけでなく多くの油分もその構造中に安定化して保持できることから、乳化剤や乳化安定剤、増粘
剤などとしてエマルションやクリーム状のスキンケア製剤などに近年活用されてきている。αゲルが配合された製剤には独特のリッチでクリーミーな使用感
があり、保湿剤として用いた場合は一般的な乳化系のスキンケア製剤と比べて保水性に優れ、水分蒸散抑制効果が高い。
一方で、αゲルはラメラ液晶と結晶の中間の準安定相であることから、生成できる条件が限定的で、時間経過によって安定な他の結晶構造に転移しやす
い。また、経時的に粘度や分散安定性が変化しやすく、ネットワーク構造であるために伸びが悪いという難点があった。このようなαゲルの課題に対し、化
粧品メーカー各社でハンドリング性を向上させ、簡易にラメラ構造体を形成できるような製剤が開発されてきている3),5),6)。

非イオン界面活性剤『アルファピュール HSG』を使用したαゲル

当社は当社が保有する界面活性剤を総合的に見直し、幅広い処方で安定なαゲルを形成する非イオン界面活性剤『アルファピュール HSG』を見いだした。『アルファピュール HSG』は高級アルコールに酸化プロピレン、酸化エチレンを付加重合した非イオン界面活性剤である。高級アルコールと水との混合系でαゲル構造を形成する。

表1に『アルファピュールHSG』を用いたαゲルの簡易処方の配合例を示す。表1の簡易処方での配合物はαゲルを形成していることを確認した。
αゲル構造の存在を確認する方法としては広角・小角X線散乱法がある8)。小角X線散乱(SAXS)ではピークが特定の周期を取る際にラメラ構造の存在を確認できる。広角X線散乱(WAXS)ではαゲル構造の存在を分子間距離d=4.1Åの鋭いピークにて確認可能である。他の方法としては、偏光顕微鏡像でのマルタクロスの確認により、簡便かつ信頼度の高い観察が可能である。本処方でのSAXS パターン、WAXSパターン、偏光顕微鏡観察像をそれぞれ図3、4、5 に示す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SAXSにおいてラメラ構造に特徴的な規則的ピークが観察でき、WAXSではαゲルの六方晶構造に特徴的な回折角(2θ)=21.5°(分子間距離4.1Å 相当)の鋭角なピークが確認できた。偏光顕微鏡観察では、マルチラメラ層の形成を意味するマルタクロスが確認できており、『アルファピュール HSG』を用いた配合物はαゲル構造を形成していることが確認できた。

『アルファピュール HSG』を用いたαゲル構造の安定性

『アルファピュール HSG』を用いたαゲルの経時安定性をハンドクリーム製剤(表2)にて確認した。ラメラ構造を形成する多くの製剤は、温度に対し不安定である場合が多い。『アルファピュール HSG』を用いたαゲル構造は40℃の環境下6カ月の加速試験においてもWAXS分析でのαゲル由来のピークが確認された(図6)。製剤の粘度も初期粘度に対して10%以内とほとんど変化しなかったことから本構造の安定性が確認できた。

『アルファピュール HSG』を用いたαゲルの処方自由度

『アルファピュール HSG』を用いたαゲル形成における処方自由度について検討した。『アルファピュール HSG』とステアリルアルコールそれぞれ.5wt%
を添加した低濃度の場合でも、αゲルを形成することをWAXSの2θ=21.5°のαゲル由来のピークで確認できた。また、一般的なαゲルを形成する界面活性剤であるセテス-15と比較して、『アルファピュール HSG』に対してステアリルアルコールの比率が低い場合でもαゲルを形成できる。低濃度領域でαゲルを形成できることは『アルファピュール HSG』の特長といえる。また、図7のSAXSに示すように、50%までの間の濃度範囲でもそれぞれαゲルに特徴的な規則的ピークが観測されており、広い添加量範囲で面間隔が一定のαゲルを形成していることが確認できた。

低濃度領域でも構造が崩れないことから、濃縮のαゲルベースを作成し、水で希釈することも可能である。そのようにして作成したαゲルミルクも50℃1カ
月の保管でも構造が維持できており、希釈安定性にも十分に優れていることがわかった。なお、この濃縮ゲルは手撹拌のみでも作成が可能であり、低撹拌で十分な構造が形成されることを確認している。また『アルファピュール HSG』が形成するαゲル製剤は、従来の界面活性剤が形成するαゲル製剤より
も粘度が低いため、これまで実現できなかったなめらかで伸びが良い官能とαゲルのリッチな触感を両立させることができる。そのため、乳液やサンケア
剤、ハンドクリーム、ボディクリームなどのような粘度の低い製剤から高い製剤まで、幅広いスキンケア製剤用原料として優れているといえる。

 

今後の予定

当社の『アルファピュールHSG』は処方自由度が高く、伸びが良く安定したαゲルが作製できることから、健康的で美しい肌を保つ優れたスキンケア製
剤の処方設計への一助となることを願っている。

 

参考文献
1)芋川玄爾,油化学,44(10),751-766,1995
2)植田光一, 色材, 70(7),460-467,1997
3)オレオサイエンス,16(7),331-336,2016
4)第82回SCCJ研究討論会(2018.7開催)
5)オレオサイエンス,16(7),321-326,2016
6)K.Sakai, et al., Langmuir,2014,30,7654
7)田中佳祐,フレグランスジャーナル,42(10),48,2014
8)Toshiyuki Iwata, Acc. Mater. Surf.Res. 2016,Vol.1(No.3),99-129

 

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