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軽油用潤滑性向上剤

三洋化成ニュース No.521号

軽油用潤滑性向上剤

2020.07.28

事業研究第一本部
AOA応用研究部 勝川 吉隆

[お問い合わせ先]
石油・建設・環境本部
石油・機械産業部

 

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軽油は石油を蒸留精製して得られる石油製品で、原油からは沸点の低い順に、LPガス、ガソリン、灯油、軽油などが抽出される。油は沸点範囲200~350℃程度の炭化水素の混合物であり、原油の種類、製造法などにより、特性が異なる軽油が生産されている。発熱量が高く火力が強いため、大量のエネルギーを生み出す際の燃料に適している。そのため主にトラックやバス、小型船舶などのディーゼルエンジン用燃料として使用されており、実用性能を向上させるためにさまざまな添加剤が使用されている。

本稿では、ディーゼルエンジンの排気ガス公害対策の一つである軽油の硫黄含量低減に伴い、軽油の潤滑性を補うために添加される潤滑性向上剤(LubricityImprover:LI)について紹介する。

 

ディーゼルエンジンの環境対策と潤滑性向上剤(LI)の役割

自動車の普及とともに、環境問題を背景に自動車排出ガス規制の強化など、種々の大気汚染防止対策が講じられてきた。浮遊状物質(SPM)、二酸化窒素(NO2)などによる大気汚染の防止については、特にディーゼル車の排気ガス中のNOxや粒子状物質(PM)の排出抑制が重要な課題であり、その対策としてディーゼルエンジンの改良やフィルターや触媒などの後処理装置などの技術開発が進められてきた。それらの技術を最大限に活かすためには、ディーゼルエンジンの燃料となる軽油中から、金属の腐食や触媒の被毒の原因となる硫黄の含量を低減することが必要不可欠となっている。

欧米や日本は、世界に先駆けて軽油の低硫黄化を実施している。日本では図1に示すように軽油中の硫黄含量は1992年以降段階的に規制が強化されており、2005年1月から硫黄含量10ppm以下の軽油(いわゆるサルファーフリー軽油)が市場に流通している1)

しかし硫黄含量500ppm以下の低硫黄軽油が流通し始めたころから摺動部(しゅうどうぶ)のポンプが摩耗するトラブルが発生し、潤滑性向上の対策が必要となった。ディーゼルエンジンの燃料噴射ポンプや燃料噴射ノズルなどの摺動部は、燃料となる軽油で自己潤滑しており、摩耗を防止するために軽油自体が一定の潤滑性を持っている必要がある。しかし、軽油の硫黄含量低減のために行われる過酷な水素化脱硫過程において、潤滑性に寄与していた極性物質も減少し、潤滑性を低下させていた。この低硫黄軽油の潤滑性を向上させるために使用されるのが、LIである。

 

 

LI の作用機構と構造

燃料噴射ポンプや燃料噴射ノズルなどの摺動部は、金属同士が摩擦すると摩耗する。LIは、水素化脱硫により減少した極性物質に代わり、金属表面に吸着・配向して潤滑性膜(油膜)を形成し、金属間の摩擦係数を低減させ、摩耗を防止している(図2)

LI分子が金属表面に油膜を形成するためには、金属表面に吸着するための極性基と油膜を形成する油溶性基との両方を含有することが必要である。極性基は、できるだけ金属表面に対する吸着力が大きいほうが摩擦係数低減効果が大きい。表1に示すように脂肪酸やグリセリンエステルは効果が大きい。

また、油溶性基である炭素鎖は、その炭素数と摩擦係数低減効果に関係がある。図3 に、脂肪酸、アミンおよびアルコールの炭素数(油溶性基)と摩擦係数の関係を示す2)。十分な摩擦係数の低減効果を発揮するためには少なくとも炭素数10以上が必要であり、LIとしては一般的に炭素数18程度のものが使用されている。

以上のことから、現在実用化されている代表的なLIは、炭素数18以上の不飽和脂肪酸、高級直鎖脂肪酸などの酸系またはグリセリンモノ不飽和脂肪酸エステルなどのエステル系が主流である(図4)

LIに使用されている不飽和脂肪酸やグリセリンモノ不飽和脂肪酸エステルは、原料性状や入手性から菜種油、大豆油やトール油などの天然油脂を原料としたものが多い。

LIは、通常、ハンドリング性向上のため、溶剤などで希釈されて製品化されているが、エンジンの始動性の向上、燃費改善および軽油の酸化安定性の向上を目的に、LIと他の軽油用添加剤(清浄剤、セタン価向上剤、酸化防止剤など)がパッケージ化されているものもある。

 

 

潤滑性の評価方法

軽油の潤滑性の評価は、HFRR(High Frequency ReciprocatingRig)試験で行われている(写真1)。HFRR 試験(JPI-5S-50-98)では、試験鋼板の上に試験鋼球を置き、接触部を燃料試料で完全に浸漬した状態で、一定荷重をかけて試験鋼球を1000µm 振幅、50Hz の周波数で往復運動させ、その試験鋼球に発生する摩耗痕径を測定する(図5)3)

軽油の適切な潤滑性を保証する指標として、欧州の軽油規格EN590 などにHFRR試験後の摩耗痕径が460µm以下と規定されている。日本においては軽油の潤滑性に関する公的規格はないが、国内で実際に流通している軽油は、欧州規格よりもHFRR試験後の摩耗痕径が小さいレベルになるように調整されている。

 

 

三洋化成のLI『サンフリック』シリーズ

当社では、軽油に対する溶解性に優れ、さまざまな蒸留範囲を持つ軽油に対しても潤滑性を付与でき、ディーゼルエンジン油やほかの軽油添加剤との適合性も良い酸系LI『サンフリック』シリーズを上市している。

軽油に『サンフリック』を添加するとHFRR 試験後の摩耗痕径が小さくなり、潤滑性が向上していることがわかる(写真2)

低硫黄軽油(硫黄含量10ppm以下)に『サンフリック』を添加した場合の添加効果を図6に示す。

このように、低硫黄軽油においても『サンフリック』を添加すると、添加量に比例してHFRR試験後の摩耗痕径が小さくなることがわかる。軽油の潤滑性を向上させるのに必要な『サンフリック』の添加量は軽油の特性によっても変化するが、一般的に低硫黄軽油の場合100~200ppm程度である。

また、軽油に『サンフリック』を添加すると、潤滑性だけではなく、金属表面への水の付着を防止することにより、防錆性も向上する。

軽油のさび止め試験(JIS K2510)に対する『サンフリック』の添加効果を写真3に示す。『サンフリック』未添加の軽油は、試験片の全面にさびが発生しているのに対し、LI添加軽油の試験片の外観にはほぼさびがなく、さびの発生が大きく抑制されていることがわかる。

 

燃料の環境対応

欧米では、スウェーデン政府がNOxやPMの排出源としてディーゼル自動車が大きく関与しているとし、新しい自動車用軽油の品質規格を1991 年に決定して軽質軽油(City 軽油)を導入した。City 軽油は芳香族系炭化水素や、PMを発生しやすい重質成分を除いてあるためクリーンなエネルギーとされるが、灯油留分を多く含んでいるためセタン価が低く燃費が低いという問題を抱えている。また、低硫黄化に伴う潤滑性の低下が原因で焼き付きや異常摩耗などの発生が報告されたが、City 軽油においても一般的に使用されているLIを添加することで潤滑性は改善可能である4)

そのほかにも軽油代替燃料として利用可能なバイオディーゼル燃料(Bio Diesel Fuel:BDF)、GTL(Gas To Liquids)軽油など次世代燃料も注目を集めており、今後、エネルギー源の多様化が進むと予想される。

また、自動車だけでなく船舶燃料油の硫黄分規制も全世界的に厳しい規制の方向に向かっている。2015 年1月から排出規制区域(ECA:Emission ControlArea)では、使用する船舶燃料油の硫黄分上限値を、0.1%以下とする規制が既に施行されている。2020 年1 月1 日からECAを除く全海域において同0.5%以下に規制されている。

このように世界的に環境負荷低減に向けた燃料の代替や規制が進んでいる。

 

今後の展開

2013~2035年の間、ガソリン需要は年1.6%で増加し、軽油の年平均成長率は2.3%に達する見込みである5)

今後特に石油製品の需要が伸びると予測されているアジアやアセアンの主要国でも、2021年までに軽油の硫黄分規制が10ppmに強化されると予測され、LIの需要も増えると予想される。またCity軽油、バイオディーゼル燃料、GTL軽油など次世代燃料や船舶燃料油など、エネルギー源や要求品質が多様化することが予想される。当社は今後もこれらの変化に合わせた添加剤を開発していく。

 

参考文献
1)石油連盟ホームページ:https://www.paj.gr.jp/eco/sulphur_free/
2)桜井俊男、『石油製品添加剤』(1973)、幸書房.
3)JPI-5S-50-98 軽油-潤滑性試験方法(1998)、石油学会.
4)小俣達雄ほか、石油学会誌、41、(1)、29-36(1998)、石油学会.
5)経済産業省 石油精製・流通研究会(第1 回)、JPEC 報告資料.

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