MENU

身の回りの製品製造に使用される安全・安心な消泡剤

三洋化成ニュース No.537

身の回りの製品製造に使用される安全・安心な消泡剤

シェアする

2023.03.16

サンノプコ㈱ 基盤製品研究部

ユニットチーフ 松村 陽平

[お問い合わせ先]
サンノプコ㈱ スペシャリティ産業部

 

PDFファイル

衣類・食品包装紙・ゴム手袋など、人体や食品に接触する製品には高い安全性や信頼性が求められる。このような用途においては、従来アメリカ食品医薬品局(FDA)に代表される各国機関によって安全性が承認された製品が使用されてきたが、近年の安全・安心に対する意識の高まりを受け、国や分野によっては一段と高い要求が課されるようになってきた。また一方で、産業のグローバル化が進んだことにより、例えば日本で製造した製品が世界中に輸出されるケースや、同一製品を海外で現地生産するようなケースが見られるようになり、幅広い国、用途で安全に使用できる製品に対するニーズが高まってきている。

サンノプコは50年以上にわたって産業用消泡剤の開発を行っており、幅広い産業に消泡剤を提供しているが、近年では上述のような社会的なニーズの高まりに応えて、消泡剤としての機能のみならず、用途を問わず安全・安心に使用可能(=ユニバーサル)な消泡剤の開発に取り組んでいる。本稿では、消泡剤の概要について述べた後、このような「ユニバーサル消泡剤」の取り組みのなかから、食品接触材料用消泡剤『ノプタム 1790』について紹介する。

 

製造工程における泡

泡は液体の膜に囲まれた気体である。水であれば泡立てても液面に達した瞬間に破裂するが、水溶性樹脂や界面活性剤、種々の分散質などが存在すると、これらが気液界面に配列することで泡膜が安定化し、破裂しにくい安定な泡となる。

安定な泡は洗剤、シャンプー、ビールなどに代表されるように、生活に役立つ面も多い。一方で製造現場などでは、泡は製品の品質に悪影響を及ぼし、生産の効率を低下させるトラブルメーカーとなる場合もある。泡によるトラブルには、例えば、タンク・装置からのオーバーフロー、塗膜欠陥の発生などがあり(写真1、2)、このような泡によるトラブルを防止するために、消泡剤は幅広い産業で使用されている。

 

消泡剤の作用機構

消泡剤は、鉱物油、シリコーンオイルなど、疎水性で低表面張力の液体を主成分としており、これらが適切な粒子径で発泡液中に分散することで、消泡効果を発揮する。発泡液中に分散した消泡剤粒子は、疎水性が高いため気液界面を好む性質があり、図1のように気泡と外気相とを隔てる液膜(泡膜)に入り込みやすい。

泡膜中に消泡剤粒子が存在することが、消泡効果を発揮するための第一ステップとなる。

図2は図1の泡膜部を拡大したイメージ図である。このように泡膜の厚みが消泡剤の粒子サイズに近くなると、消泡剤は疎水性が高い(=水よりも空気を好む)ため、泡膜を貫通して図3のような構造を形成する。消泡剤が泡膜を貫通すると、その部分は周囲と比べて局所的に表面張力が低い状態となる(泡膜の強度が低下する)ため、泡膜が収縮する力に引っ張り負けて消泡剤部分が急激に拡張し、破泡に至る。(図4、5)

 

以上の作用機構から、消泡剤は以下の要件を満たす必要がある。

≪消泡剤の必要条件≫
①適切な粒子径で発泡液中に分散すること(溶解してはいけない)。
②発泡液と比較して十分に表面張力が小さいこと。

 

消泡効果の副作用-ハジキトラブル

このようにして消泡剤は泡を消す機能を発揮するが、消泡剤によって最終製品の性能を損なわないことも重要である。例えば、消泡機能をもたらす消泡剤の局所的な拡張が、塗料、コーティング材などの仕上がり塗膜で起こると、ハジキと呼ばれる塗膜不良となる。ハジキは消泡剤の分散粒子径が必要以上に大きい場合に生じるトラブルである(図6)。

 

一方で消泡剤の分散粒子径が小さすぎる場合、泡膜を貫通することが難しくなり、消泡効果を発揮できないため、両者のバランスを満足させるためには、消泡剤の必要条件①で述べた「適切な粒子径」で分散させることが極めて重要である。

低表面張力の液体成分(消泡成分)を適切な粒子径で分散させるため、消泡剤には核剤と呼ばれる固体成分を使用することが多い。用途・条件・使用物質の制限などに応じて、多様な核剤と消泡成分を組み合わせた消泡剤が用いられている(図7)。

 

食品接触材料の脱プラスチック化と規制

近年、使い捨てプラスチックの利用を削減する取り組みが世界的に広まっており、飲料カップやストロー、食品包装袋(写真3)など、従来プラスチックを使用していたところに、機能性コーティングを施した紙を活用して脱プラスチックを図る動きがある。

 

このようなコーティング材には非常に高い機能が求められる。例えば食品包装紙の場合、食品に接触しても健康を害さない高い安全性に加え、匂いや酸素、水分をバリアし、中の食品の風味・品質を維持する機能が必要となってくる。

しかし、仕上がったコーティング材に泡による塗膜欠陥や、その泡を消すために加えた消泡剤によるハジキがあるとせっかくのバリア性も意味をなさない。そのため、消泡性と低ハジキ性を両立させ、さらに安全性にも配慮された高品質な消泡剤は、このようなコーティング材を設計するために欠かせない材料の一つである。

食品接触材料に関しては、消費者の安全を確保するため世界各国で種々の規制があり、使用できる物質はこれらの制限を受ける。米国ではアメリカ食品医薬品局(FDA)が古くからポジティブリスト方式(使用可能な物質をリスト化する方式)による管理規則を運用しており、この分野でのスタンダードとなっているが、近年、日本、中国、EUなどでも相次いでポジティブリストによる管理規則が成立しており、グローバルにビジネスを展開するに当たって、これらの法規に幅広く対応した製品が求められるようになっている。

 

サンノプコの食品接触材料向け消泡剤

サンノプコは、古くから紙コーティング用消泡剤の技術開発に取り組んでおり、長年培ってきた技術を生かして、これらの食品接触材料関連法規に幅広く対応した消泡剤として『ノプタム 1790』を開発した。

『ノプタム 1790』は安全性が広く認められている原料のみを使用し、米国FDA規制のみならず、日本、中国、EUの法規にも対応した消泡剤である(表1)。

 

また『ノプタム 1790』は、近年安全性への懸念が生じている多環芳香族炭化水素(PAHs)についても含有量を極力低減している。多環芳香族炭化水素(PAHs)とは、二つ以上の芳香環が結合した有機化合物のことで、微量ながら食品にも含まれる成分ではあるが、国際がん研究機関(IARC)から、PAHsの多くに発がん性や遺伝毒性があることが指摘されており1)、人体に摂取される、または人体に接する物品について、PAHsを低減する規制や基準づくりが進んでいる2)。『ノプタム 1790』はPAHs含有量が極めて少なく安全性の高い原料を使用するなど、このPAHsにも配慮した設計となっている。

 

今後の展開

今後も安全・安心を求める動きはさらに多くの業界・国・地域に広まっていくと考えられる。また、近年では、安全性のみならず、サステナブル・エシカルな原料の活用、環境放出された場合に速やかに分解する生分解性など、社会的ニーズもますます多様化している。

サンノプコは変革していく社会的ニーズに応え、より多くの人が、より広い地域/用途で安心して使うことができる「ユニバーサル消泡剤」の開発を今後も進め、人々の健康、環境保護に貢献していく。

 

参考文献
1)国際がん研究機関(IARC):Agents Classified by the IARC Monographs
http://monographs.iarc.fr/ENG/Classification/index.php
2)食品安全委員会ファクトシート
https://www.fsc.go.jp/sonota/factsheets/f05_pahs.pdf

当社製品をお取り扱いいただく際は、当社営業までお問い合わせください。また必ず「安全データシート」(SDS)を事前にお読みください。
使用される用途における適性および安全性は、使用者の責任においてご判断ください。

 

問い合わせはこちら

関連記事Related Article

PAGE TOP