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潰瘍性大腸炎の病態把握に貢献する体外診断用医薬品

三洋化成ニュース No.527号

潰瘍性大腸炎の病態把握に貢献する体外診断用医薬品

2021.07.28

バイオ・メディカル事業本部 研究部 診断薬研究グループ

ユニットマネージャー 譽田 大仁

[お問い合わせ先]
バイオ・メディカル事業本部 営業部

 

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体外診断用医薬品

体外診断用医薬品(以下、診断薬)は、身体から採取した血液、尿、唾液、ふん便、組織などを検体として各種疾患に関連する物質の測定に用いられる医薬品である。例えば健康診断での血液検査結果において目にする「γ-GTP」や「尿酸値」といった項目は、診断薬によって数値化されている。現在、市販されている診断薬は15,000種類を超え、大学病院から診療所に至るさまざまな医療機関で用いられている。ドラッグストアなどで目にする妊娠検査薬もその一つである。

これまで当社は、がん、甲状腺疾患、心疾患、糖尿病、感染症といった疾患を対象とした診断薬を開発、発売しているが、2017年より潰瘍性大腸炎を対象疾患とした新たな診断薬も発売している。本稿では、この潰瘍性大腸炎に関する診断薬について紹介する(表1)。

 

 

潰瘍性大腸炎

潰瘍性大腸炎は大腸の粘膜に慢性の炎症や潰瘍を引き起こす原因不明の難病である。類似の症状で、小腸、大腸、肛門など消化器全体に病変が現れるクローン病とともに、炎症性腸疾患として分類される。症状が悪くなると下痢、下血、腹痛などが頻回に発生し、また根本的な治療方法がなく根治に至らないこともあり、症状がおちついている「寛解期」と炎症症状が強く現れる「活動期」を繰り返すことが知られている。根治をしない疾患であることから、治療としては薬を用いて炎症を抑える内科的治療が主体だが、それが難しい場合には外科的治療が必要な場合もある。

患者数については難病情報センターHPによると、平成22年から平成26年にかけて年平均約1.1万人で増加し、平成26年では約17万人であった。近年は著しく増加しており、「平成30年度潰瘍性大腸炎治療指針supplement」(参考文献2)によれば25年前に約2万人とされた患者数が現在は20万人を超えている。潰瘍性大腸炎は原因不明の疾患であるが、自己免疫反応の異常、食生活の変化、腸内細菌叢の変化などが関与しているとされており、新たな現代病とも言える(図1)。

 

 

適切な治療のためにも患者の病態を把握することは極めて重要である。従来の手法としては血便や排便回数といった臨床症状をスコア化する方法と、大腸内視鏡検査による炎症部位の程度や広がりをスコア化する方法が用いられてきた。しかしながらスコア化は客観的な指標として扱いづらい点があり、さらに大腸内視鏡検査は侵襲検査である点から、医療現場からは患者負担が少なく、客観性を有する非侵襲での検査方法が求められてきた。

 

カルプロテクチン

当社は、非侵襲な検査方法として、便中のカルプロテクチン濃度を測定する診断薬を上市している。

カルプロテクチンは、体内で炎症があると、その部位への細菌や真菌類の侵入を防止するために、好中球などの免疫細胞より分泌されるカルシウム結合タンパクである。カルプロテクチンの有するキレート能により貪食殺菌作用を発揮することから、炎症や細菌感染に対して防御的に機能する、いわゆる抗菌ペプチドとしての役割が知られている。潰瘍性大腸炎の場合もその挙動は同様で、カルプロテクチンは炎症を起こしている腸の上皮層で分泌される。分泌されたカルプロテクチンはその後、便とともに体外へ排出される。潰瘍性大腸炎における便中のカルプロテクチン濃度は腸管の炎症の程度と相関があることから、客観的な数値として反映できる。さらに、カルプロテクチンは便中で安定に存在することができるため、診断薬として潰瘍性大腸炎の病態把握に有用とされている(図2)。

 

 

当社のカルプロテクチン診断薬

当社は、二種類のカルプロテクチン診断薬を発売している。一つは『カルプロテクチン モチダ』(写真1)で、持田製薬株式会社を通じて販売している。もう一つは日水製薬株式会社を通じて発売している『カルプロテクチン POCT モチダ』である(写真2)。

 

『カルプロテクチン モチダ』はスイスのBÜHLMANNLaboratories AGが設計した試薬を、当社が国内で臨床性能試験を実施して医薬品製造販売承認申請を行ったものである。国内初の潰瘍性大腸炎の診断薬として2016年10月に承認を取得した。

本診断薬は酵素免疫測定法(サンドイッチ法)を測定原理としており、96穴プレートを用いた測定試薬であることから、複数の検体を同時に測定できる点が特長である(図3)。一方、2021年3月より発売を開始した『カルプロテクチン POCT モチダ』は、『カルプロテクチン モチダ』に比べてより簡単に、短時間に測定することができるイムノクロマト法を測定原理としている(図4)。ドラッグストアなどで購入できる妊娠検査薬に類似した測定方法である。便からの抽出液をテストカセットへ滴下して12分間反応させ、その後、専用装置で測定値を読み取る。前述の通り簡単に短時間での測定が可能で、専用装置も小型であることから、大規模病院からクリニックに至る幅広い施設でご使用いただけるものと考えている。

 

 

カルプロテクチン診断薬の臨床性能

当社のカルプロテクチン診断薬は、炎症の程度と相関があることから、主として潰瘍性大腸炎の病態把握に用いられる。当社が実施した国内での臨床性能試験結果の一部を示す。なお臨床性能試験においては、インフォームドコンセントの得られた潰瘍性大腸炎患者および対照となる健常人の便を用いて実施した。潰瘍性大腸炎患者の設定は、臨床症状やレントゲン検査、大腸内視鏡検査、病理学的検査などによる診断基準に基づいて行った。また健常人においても全例に内視鏡検査を実施し、腸管内に炎症部位がないことを確認した。

 

 

図5に示した結果は、健常人(HC)の64例、潰瘍性大腸炎寛解期(Inactive UC)の27例、潰瘍性大腸活動期(ActiveUC)の40例における便中カルプロテクチンの測定結果(Fecalcalprotectin level)である。健常人、寛解期、活動期の順に測定値が高くなり、便中カルプロテクチンは病態に応じた結果を示していることが確認された。さらに従来指標である臨床症状をスコア化する方法との比較結果を(図6)に示す。臨床症状をスコア化する方法はDisease Activity Indexと呼ばれ、問診による排便回数、血便の状態のほか、大腸内視鏡所見、医師による観察に基づいた全体的評価により構成されている。また、Disease Activity Index における大腸内視鏡所見(Mayo endoscopicsubscore)との比較結果を(図7)に示す。いずれもスコア化された点数が低いほど寛解を示し、高いほど症状が重いとされるが、スコアと便中カルプロテクチンの相関性においては正の相関が確認されている。一方で全体的な相関にばらつきもあり、このあたりはそれぞれの手法の差が表れていると考えられる。以上の通り、便中カルプロテクチンを測定することは、患者負担が少なく、客観性を有する非侵襲での検査方法として有効であり、都度行っていた内視鏡検査の頻度の低減につながると考えられる。

 

 

 

まとめ

潰瘍性大腸炎患者における便中のカルプロテクチン測定は非侵襲的、客観的な病態把握につながり、その後の適切な治療法の選択に寄与することができる。このような当社のカルプロテクチン診断薬は従来からの診療に対して厚みを持たせ、医療の質のさらなる向上に貢献ができると考える。今後ますますより良い診断薬を市場に送るため、日々開発を進めていく。

 

参考文献
1)難病情報センターHP(https://www.nanbyou.or.jp/entry/62)

2)平成30年度潰瘍性大腸炎治療指針supplement.厚生労働科学研究費補助金難治性疾患等政策研究事業「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究」(鈴木班)

3)Nakamura S, et al. Usefulness of fecal calprotectin by monoclonal antibody testing in adult Japanese with inflammatory bowel diseases: a prospective multicenter study. Intest Res 2018;16(4):554-562

 

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