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生分解性水溶性PAG系基剤

三洋化成ニュース No.535

生分解性水溶性PAG系基剤

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2022.11.28

潤滑油添加剤事業本部 研究部 研究第1グループ

主任 山田 修己

[お問い合わせ先]
潤滑油添加剤事業本部 営業部

 

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  潤滑油はさまざまな機械の円滑な運転に欠かせないことから、機械装置の「血液」ともいわれている。最近では機械技術の進歩に伴う高性能化だけでなく、環境負荷の低減も求められている。 本稿では、環境負荷低減に貢献すべく当社が開発した、生分解性を有する水溶性のポリアルキレングリコール(PAG)系基剤『エクセビオール』(開発品)について紹介する。

潤滑油について

自動車、船舶、航空機やボイラ、ポンプなど多くの機械では、金属部品が互いに動く。その際、金属部品間に摩擦が発生してエネルギーを損失すると同時に、部品同士は互いに摩耗し、機械の寿命を縮めることになる。このような摩擦によるエネルギーの損失と無駄を減らす働きをするものが潤滑油である。 潤滑油はベースとなる基油もしくは基剤と各種添加剤で構成されており、水への溶解性などの基本性能は基油(基剤)によって決まる。基油には鉱油、合成エステル、ポリアルファオレフィン(PAO)、基剤にはPAGなどがあり、特に安価かつ各種添加剤との相溶性に優れる鉱油系の潤滑油が広く一般的に使用されてきた。なお、PAGについては界面活性剤として他の機能も兼ね備える場合が多いため、「基剤」と区別している。

潤滑油の環境負荷低減について

潤滑油はその使われ方で、開放系(モーターバイクや芝刈り機、船外機用エンジン、チェーンソー用オイルなど)と閉鎖系(油圧作動油、グリースなど)に分けられる。開放系の場合、潤滑油のほとんどは自然界に漏洩ろうえいするため、環境負荷が大きい。一方閉鎖系においては使用時の環境負荷は小さいと考えられるが、万が一事故などで自然界に漏洩してしまった場合は、環境汚染が懸念される。そこで自然界に漏洩した場合でも、環境負荷の少ない潤滑油(生分解性潤滑油)を使用することが推奨あるいは義務付けられてきた(表1)。現在主流である鉱油系潤滑油は、自然界で分解されにくく長期間にわたり残存してしまうため、生分解性に優れる潤滑油の使用が望まれている。これまでに開放系の用途に加え、森林や海洋など、屋外で使用される建設機械、農業機械、海洋船舶に使用される油圧作動油などに生分解性を付与した製品が開発、販売されている。しかし、その普及は十分でなく、さらなる普及拡大のためにもより高性能な潤滑油の開発が望まれている。   [潤滑油の生分解性について2)] 生分解性とは土壌や海岸などの自然環境に存在するバクテリアなどの微生物によって、炭酸ガスと水に分解される性質を指す。一般的に生分解性潤滑油は、生分解度が28日で60%以上の易生分解性を示す潤滑油とされている。潤滑油の生分解度の測定方法としては、OECDの化学品テストガイドラインやアメリカ材料試験協会(ASTM)の試験法等がある3)。   [生分解性潤滑油の課題] 潤滑油の生分解性は基油(基剤)の特性に依存する。生分解性潤滑油には、合成エステル、天然油脂等の基油、PAG等の基剤が使用される。合成エステル系潤滑油は低流動点、高引火点などの特長を有するが、水が混入した場合に加水分解しやすいという問題がある。また、合成エステルや天然油脂は水と混ざりにくいため、潤滑油が漏洩した場合に洗浄除去が困難で、水面の油膜による河川、海洋汚染や草木を枯らしてしまうなどの周辺汚染が懸念される。このような課題を解決するために、当社は加水分解しにくく、潤滑性や水への溶解性のコントロールが容易で、漏洩した場合の環境汚染のダメージが少ないPAG系基剤を開発ターゲットとした。   [PAG系基剤について] PAGは、低級アルコール等の活性水素を有する化合物(以下、出発物質と略す)にエチレンオキサイド(EO)やプロピレンオキサイド(PO)などのアルキレンオキサイド(AO)を付加重合させた化合物である。出発物質であるアルコールの構造、AOの種類、付加重合度、比率や付加の方法などを変えることにより、用途に応じた種々の性能を有する化合物を合成することができる。PAGは潤滑油基剤として用いられるほか、界面活性剤として、乳化や可溶化、浸透などの機能を付与することもできるため幅広い潤滑用途で使用されている。 PAG系基剤は、①優れた潤滑性、②粘度特性(高粘度指数、分子量制御が容易)、③水への溶解性コントロール(親水疎水比率の調整)が可能、④低温流動性に優れる等の特長がある。しかし、一般的に潤滑性、生分解性、水溶性の全てを満足させる組成設計は難しかった。 当社は得意とするAO付加技術や界面制御技術を駆使して、数々のPAG系基剤を開発しており、これまでに蓄積してきた知見を活かし、これらの課題を解決するPAG系基剤『エクセビオール』を開発した(図1)。

生分解性水溶性PAG基剤『エクセビオール』

『エクセビオール』シリーズは、生分解性、水溶解性が良好であり、一般的な鉱油系基油、合成エステル系基剤などと比較して同等以上の潤滑性を示す。表2、3に示すように、『エクセビオール』は水溶性に優れているため、水と容易に混合し、経時で分離することもなく、均一液状を維持する。一方、合成エステル系、鉱油、PAO系の基油の場合は経時で水と液分離する。『エクセビオール』は水溶性であるため、合成エステルや天然油脂で懸念されていた周辺汚染のような問題がなく、生分解性に優れるため環境負荷低減に貢献できる。かつ高い潤滑性を示すため、さまざまな用途に使用することができる。本稿では5品種しか紹介していないが、粘度や外観など、用途に応じてカスタマイズすることが可能である(表4)。    

生分解性潤滑油の用途展開について

生分解性潤滑油の用途は今後拡大するとみられ、油圧作動油のほかにも滑剤、軸受け油、ギヤ油等への展開が期待できる。これらの用途には金属等の固体部品同士の動きをスムーズにし、金属の摩耗を減らす潤滑性(耐荷重性)が求められる。このような用途では基油自体の潤滑性能だけでは乏しいため、極圧添加剤などを配合することで潤滑性を向上させることが一般的である。当社ではPAG系基剤に使用可能な極圧添加剤も見いだしている。 図2に建設機械用油圧作動油のモデル組成として『エクセビオールMR-260』、酸化防止剤、油性剤から成る潤滑油に極圧添加剤を所定の添加量で配合した系での潤滑性評価結果を示す。建設用油圧作動油に要求される潤滑性能(耐荷重性)は、建設機械用油圧作動油規格(JCMAS)に定められている高速シェル四球試験機を用いて評価した。高速シェル四球試験は頂部の鋼球を回転させ、試験球への荷重を段階的に上昇させて摩擦トルクが急増する点を焼き付き荷重として測定する。耐焼き付き荷重は値が大きいほど焼き付きにくく潤滑性が良好であることを示している。モデル組成では、極圧添加剤を0.2wt%添加することでJCMAS規格の耐荷重性基準(1235N以上)を満たすこと、極圧添加剤を2.0wt%とすることでより高い耐荷重性を発揮することが確認できた。今後、用途ごとの具備性能との両立を図りながら用途開発を進めていく。

今後の展開

昨今SDGsやカーボンニュートラル実現の機運が高まっており、環境負荷を低減できる潤滑油が以前より増して求められている。生分解性潤滑油の普及拡大のためには、河川・海洋など水辺付近で使用する潤滑油には金属腐食に配慮するなど、用途に応じた技術開発が求められる。環境に配慮した『エクセビオール』は多種多様な粘度グレード、外観のラインナップを取りそろえており、さまざまな用途に応じたグレードが選択できる。当社は高性能な生分解性水溶性PAG系基剤『エクセビオール』の開発を通して、生分解性潤滑油の普及拡大を後押しし、持続可能な社会の実現に貢献することを目指す。

参考文献 1)富士経済,潤滑剤関連市場の現状と将来展望2020 2)公益社団法人 日本油脂化学会,「界面と界面活性剤-基礎から応用まで-」 3)高柳正明,オレオサイエンス第5巻,第10号(2005)

 

当社製品をお取り扱いいただく際は、当社営業までお問い合わせください。また必ず「安全データシート」(SDS)を事前にお読みください。 使用される用途における適性および安全性は、使用者の責任においてご判断ください。

 

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