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電子写真用トナーバインダー

三洋化成ニュースNo.509号掲載

電子写真用トナーバインダー

2018.07.01

画像材料事業本部
画像薬剤研究部 ユニットチーフ
杉本 佑子
[お問い合わせ先]画像材料事業本部 営業部

 

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プリンターや複写機、FAXなどの多機能を備えた複合機は、限られたスペースの中で複雑な動作を高速で行い、高精度なドキュメントを短時間で完成させる。これらが採用している電子写真方式は、1938年に米国で、Chester F. Carlsonによって発明され、パソコンやネットワークの普及を通して発展し、現在では仕事や日常生活で必要不可欠となっている。
電子写真の原理は以下の6つのプロセスから成る(図 1)。

 

 

①帯電:感光体ドラムへ均一に電荷を付与
②露光:画像となる部分に光を照射することによる、潜像形成
③現像:荷電されたトナーの潜像への付着による可視像形成
④転写:感光体上のトナーを用紙に静電的に移動
⑤定着:用紙上のトナーを熱などで溶かし、紙に固定
⑥クリーニング:感光体上に残ったトナーなどの汚れを除去

1990年代にデジタル技術が発展し、複写機の機能のみならず、プリンター、スキャナー、FAXなどの多機能を備えた複合機も登場した。

市場のドキュメントに対する要求は、カラー化、高画質化、オンデマンドへ移行している。一方で、世の中の環境規制、省エネの流れから、使用時の省エネ・CO2削減だけでなく、マシンやトナーを生産する際の環境負荷低減も必須である。

例えば、複写機などからの排出物が一定の基準を満たすことにより取得できるドイツの環境ラベル制度「ブルーエンジェル」の取得や、複写機の稼働、スリープ、オフ時の消費電力などについて設定された省エネ基準を満たす製品に認められる「国際エネルギースターロゴ」の取得などは、世の中のトレンドとして必要不可欠となっており、ますます低温定着化のニーズが高まっている。

これらのニーズに応えるためには、トナーの性能向上、なかでもその大半を占めるトナーバインダーの性能向上が欠かせない。当社は、個々のニーズに対応したトナーバインダー『ハイマー』シリーズをラインアップしている。本稿では、一般的なトナーバインダーに求められる機 能 や 物 性 を 通 し て、『ハ イマー』シリーズの開発の概念を紹介する。

 

トナーの構成・役割

トナーとは、帯電性能を有した数μm径の微粒子である(表1、図 2)。その大半はトナーバインダーが占める。したがって、トナーに求められる性能はトナーバインダーに求められる性能と言っても過言ではない。トナーバインダーは後で述べるさまざまな機能に加え、その他構成材料を微分散させる媒体としての役割も担う。

 

次に含有量が多い成分は、着色剤である。トナーの着色剤はほとんどが顔料であり、フルカラー複写機、プリンターでは、黒に加え、イエロー、マゼンタ、シアンの顔料をそれぞれ含んだ4色のトナーが搭載されている。これらの色を重ねることで、あらゆる色を再現している。

ワックスは定着時に離型剤として働き、ヒートローラーなどの機内汚染の防止や、低温定着化、ドキュメントの画質(光沢など)の調整などの役割を担う。ワックス量は多いほど離形性などの性能は向上する半面、分散が困難となり、ワックスがトナー表面に露出したり、トナーから離脱し、現像槽内のブレードや感光体表面に薄く付着するフィルミングという現象が発生してしまう。そのため、ワックス量は最大5%程度である。

荷電制御剤は、静電荷を制御する役割を担う。電子写真方式では、電荷を帯びたトナーを電気的に、感光体、紙へと移動させる必要がある。そのため、トナーが安定的に帯電されていなければ、ドキュメントの画質不良となって現れる。トナーバインダーだけでは困難なため、荷電制御剤が使用される。

流動化剤はトナー表面に位置する(図 2)。主にシリカやチタン系が使用される。トナー同士の接着力を抑えて(耐ブロッキング性)、現像槽から感光体、紙への搬送性をトナーに与えるだけでなく、トナーの帯電性能にも大きく寄与している。

 

トナーバインダーに要求される性能

[定着特性]

トナーバインダーに必要な機能のうち、一番重要なのが定着特性である。紙に転写されたトナーは、ヒートローラーで加熱・加圧されることによって溶融し、紙に浸透後、冷えて固化することで紙に定着する。定着工程で、問題となるのがオフセット現象である。図 3の通り、ヒートローラーの温度が高過ぎると、トナー同士の凝集力が低くなり、溶融したトナーの一部がローラーから剥がれず、画像濃度が不均一となるホットオフセット現象が起こる。一方、ヒートローラーの温度が低過ぎると、トナーの溶融不足が起こり、紙への浸透が不十分となることで一部の画像が欠落するコールドオフセット現象が起こる。また、オフセット現象まで起こらないとしても、画像を擦ったり折り曲げたりすると紙から画像が剥がれる定着強度不足が発生することもある。複写機の定着温度は一定ではなく、その稼働状態、使用地域などの環境(温度や湿度)により変化するため、定着温度幅が広いトナーが要求される。

オフセット現象や定着強度不足は一般的にトナーバインダーの粘弾性挙動に大きく依存する。高温での定着性(耐ホットオフセット性)は弾性が、低温での定着性(コールドオフセットや定着強度不足)は粘性が支配的と言われており、図 4のように、低温で低粘度化し、高温である一定の弾性を維持するような粘弾性を有するバインダー樹脂が求められる。

 

[耐熱保存性]

トナーは複写機で使用される前(カートリッジの輸送時なども含む)には、熱による凝集を防ぐ必要がある。耐熱保存性はトナーバインダーのガラス転移点(Tg)に大きく依存する。Tgが低いと低温定着性は良好になるものの、低過ぎると耐熱保存性が悪化してしまう。一方でTgが高いと耐熱保存性は良好になるものの、高過ぎると溶融開始温度が高くなり低温定着性を悪化させてしまうため、最適なTgに設計する必要がある。

[帯電特性]

トナーを電気的に移動させる電子写真方式では帯電特性は重要であり、トナーには湿度などの外部環境変化に対する帯電安定性が求められる。前述した通り荷電制御剤や流動化剤によって帯電性は制御できるが、帯電安定性はトナーバインダーの組成にも依存する。

[耐久性]

トナーは現像槽内で摩擦帯電させるため、常に機械的ストレス下に置かれる。長期間の使用に耐えうるためには、トナーバインダーに十分な樹脂強度が求められる。分子量が大きいほど樹脂強度は高くなるが、同時に粘度も高くなるため、低温定着性や粉砕性が悪化する可能性がある。そのため、トナーバインダーを最適な分子量に設計する必要がある。

[粉砕性]

トナーは大きく、粉砕トナーと重合トナーに分かれる。粉砕トナーの製造工程を図5に示す。この中でトナーの生産性に大きく影響するのは、粉砕・分級工程である。溶融混練物の粗粉砕を経て、数μmオーダーまで微粉砕し、その粉砕物から所望の粒径の粒子を選り分ける工程である。生産性を上げるためには、粉砕しやすく、必要以上に微細粒子にならない適度な粉砕性を有するバインダーの選定が必要である。

[光沢性]

カラー化において重要となるのが光沢である。商業印刷、ラベル印刷、写真印刷などでは特に光沢の有無でドキュメントの品質が左右される。光沢を上げるためには、定着後のトナー表面が平滑でなければならない。トナー表面が凸凹であると、光が乱反射し、光沢感は得られない。より平滑に定着させるためには、トナーバインダーの粘弾性をコントロールし、粘性を弾性より大きくする、つまりtanδ(損失粘性率/貯蔵弾性率)が大きい樹脂を使用することが重要である(図 6)。

 

 

トナーバインダーの種類

現在、主に使用されているトナーバインダーは、スチレン/アクリル樹脂またはポリエステル樹脂である。スチレン/アクリル樹脂はワックス分散性に優れ、帯電時の環境依存性が小さい。ポリエステル樹脂は、エステル基同士の水素結合などの相互作用が大きいこと、ポリマー主鎖中にベンゼン環を導入できるという利点から、スチレン/アクリル樹脂と比較して、凝集力や強度を高めることができる。そのため、スチレン/アクリル樹脂よりも低分子量でも高弾性が達成でき、低温での低粘度化も可能であることから、低温定着が求められるトナーで主に使用されている。また、低分子量ポリエステルと架橋構造を有した高分子量ポリエステルを併用して粘弾性を制御することで、定着温度幅をさらに広げている。

高分子量ポリエステルの架橋構造は、粘弾性に大きく影響を与える。架橋構造を制御する因子としては、架橋点間分子量が挙げられる。図7に架橋点間分子量の異なる樹脂の架橋構造の模式図を示す。架橋点間分子量は分子鎖同士の絡み合いの度合いや樹脂の靱性と関係がある。

架橋点間分子量が大きいと絡み合いが大きく、粘性が大きくなる。つまり、弾性に対して粘性の方が有利となり、tanδが大きくなることで、光沢が出やすい樹脂となる。このような樹脂はカラートナー用のバインダーとして適しており、ドキュメントに高級感を与えることができる。また、靱性も大きくなることで、樹脂強度が増し、耐久性に優れたトナーとなる傾向にある。

一方、架橋点間分子量が小さいと分子鎖同士の絡み合いは小さいが共有結合でしっかり3次元的にネットワーク化されることで、弾性が大きくなる。つまり、低粘度かつ高弾性となりやすく、より定着温度幅が広く低温定着性に優れた樹脂となり、高光沢である必要のないモノクロトナー用のバインダーとして適している。また、靱性が小さく、粉砕性にも優れることから、粉砕トナーとしてのトナー生産性を向上することができる。

トナーに求められる性能は、上述した架橋構造だけでなく、バインダー樹脂全体の分子量、使用するモノマーの種類、量、樹脂の末端構造などにも依存するため、当社ではこれらを制御することで、個々のニーズに対応したスチレン/アクリル系とポリエステル系のトナーバインダー『ハイマー』シリーズの開発を行っている。

 

 

今後の予定

近年のドキュメントに対する高画質、高信頼性、省エネなどの消費者ニーズ、トナー生産性向上などのメーカーニーズに応えるため、トナーバインダーの性能向上とともに、トナーの生産性や信頼性を向上させる添加剤など、高性能品を市場に提供し、社会に貢献していく。

 

当社品をお取り扱いいただく際は、当社営業所までお問い合わせください。また必ず「安全データシート」(SDS)を事前にお読みください。使用される用途における適性および安全性は、使用者の責任においてご判断ください。

 

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