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十勝東北部の森と湖オンネトー周辺のきのこの森

三洋化成ニュース No.514号

十勝東北部の森と湖オンネトー周辺のきのこの森

2019.05.07

年老いた湖

小さくて美しいシロコナカブリは松葉を分解するきのこ

 

オンネトーは、阿寒湖の南西部、雌阿寒岳の山麓に位置する周囲4㌔㍍ほどの小さな湖だ。その昔、雌阿寒岳の噴火によって、川がせき止められてつくられたという。北海道の多くの地名と同じくアイヌ語が語源で、「オンネ」が、年老いた、大きい、「トー」は、湖や沼という意味だ。阿寒摩周国立公園に含まれるが、地域的には十勝の足寄町に属する。やや有名な観光地なので、コバルトブルーの美しい湖水、そしてその奥に雌阿寒岳と阿寒富士が並んでいる写真を、ご覧になったことがある方もいるのではないか。

実は、ここ数年、オンネトーに劇的な変化が起きている。湖水がコバルトブルーから緑がかった色に変色してしまったのだ。かつては、酸性度が強くて魚がすめず、ニホンザリガニかトンボの幼虫のヤゴくらいしか生息できなかった。ところが近年、浅瀬をささっと動くハゼの仲間らしき魚の姿があちこちで見られるようになった。どうやら、水質が酸性から中性に変わってしまったらしい。原因は不明だが、人為的な影響によるものではないと思われる。

ぼくは、きのこや粘菌やコケなどを鑑賞することを目的としてオンネトーを訪れているが、湖水の色や水質や生態系の変化は重要な問題で、とても気になっている。

 

楽々きのこ探し

食通垂涎の美味きのこ、ポルチーニ茸ことヤマドリタケ

オンネトーの湖畔沿いには針広混交林が広がり、雌阿寒岳方面に向かうと、アカエゾマツが多く見られ、ほかの場所ではトドマツを多く見ることができる。広葉樹、針葉樹を問わず、そこそこ樹種が多いので、きのこを探すには最適である。

南北に細長い形のオンネトーの周囲は、舗装された車道と遊歩道が半々くらいの割合で、ぐるりと一周歩くことができる。温泉が滝になって流れている「湯の滝」への遊歩道(一般車両通行禁止の林道)、雌阿寒岳の登山基地・雌阿寒温泉に通じる遊歩道が整備されているので、安心して森歩きを楽しむことができる。また、国設の野営場もある。

オンネトーの西側、舗装された道道949号の脇を歩く。道が狭いうえ観光シーズンともなれば車やバスが多く行き交うので注意が必要だが、車道は歩きやすいし、きのこもたくさん見ることができる(やや味気ないが……)。

湖岸は、ダケカンバやナナカマドなどの広葉樹が多く、初夏の木々の葉の色は、マツを含めて、ひときわ鮮やかで美しい。北海道東部では、例年、7月中旬くらいまで新緑が楽しめる。

車道を歩くのにおすすめの時期は、9月下旬頃だ。きのこ好き憧れのベニテングタケが、車から降りずともその姿を確認できるほどたくさん発生する(とはいえ、きのこ好きであれば、絶対に下車して間近で鑑賞するに違いないが……)。ハナオチバタケや、シロコナカブリといった、落ち葉を分解する小さくてかわいらしいきのこも必見だ。

また、写真を撮影するなら、本州よりもひと足早く始まっている紅葉や、美しい湖面や、正面に見える雌阿寒岳と阿寒富士を背景に配置して、森の中とはちょっと違ったきのこ写真を撮ることができる。

 

見ること、気付くこと

さて、今度は、オンネトーの東側に広がる森へ入ってみよう。駐車場付きの展望スポットが点在する車道とは異なり、こちら側の遊歩道は、すれ違う人が少ない。初夏から初秋にかけては、ゴゼンタチバナやマイヅルソウなどの高山植物が随所で花を咲かせ、湿地では食虫植物のモウセンゴケが群落をつくる。

舗装された道道から狭い遊歩道に足を踏み入れると、森の香りがひときわ濃くなる。いわゆる森林浴効果をもたらすフィトンチッドだ。右手にオンネトーを眺めながらしばらく進むと、微生物がつくり出した鉄分が水に触れて酸化し、浅い沼底に沈殿している錦沼

を源とする小さな川を渡る。辺り一面、土が錆色だ。

遊歩道は湖岸に沿って進むので、足場は多少悪いものの、アップダウンはほとんどない。アカエゾマツやダケカンバの巨木があちこちで見られるほか、倒木も多い。オンネトーを背にして雌阿寒岳方面に広がる原生林は、見るからに鬱蒼としている。そのまま進むと、雌阿寒温泉への分岐があり、野営場へと至る。

阿寒の原生林に入ると、都会の人は「何もない」と思うかもしれない。確かに、人間がつくったものは何もない。しかし、よく見ると、森は、さまざまな命や命だったものを含めて、自然がつくったものであふれている。例えば倒木だ。目を凝らすと、コケや地衣類

が「林立」し、その間を小さな虫が動き回る。もちろん、きのこや粘菌の姿もある。まるで小さな森だ。小さなきのこやコケや地衣類をルーペで観察すると、その精緻さ、美しさに思わず息をのむ。倒木を「鑑賞」しないのはあまりにももったいない。

原生林を歩くと、五感が敏感になる。自分の感性がどんどん豊かになっていくのが実感できる。

水に落ちたマツの葉や枝から発生するカンムリタケ

 

まるでランプシェードのような形をしたハナオチバタケ

 

新井 文彦〈あらい ふみひこ〉

1965年群馬県生まれ。きのこ写真家。北海道の阿寒湖周辺、東北地方の白神山地や八甲田山の周辺などで、きのこや粘菌(変形菌)など、いわゆる隠花植物の撮影をしている。著書に『きのこの話』『きのこのき』『粘菌生活のススメ』『森のきのこ、きのこの森』『もりの ほうせき ねんきん』など。書籍、雑誌、WEBなどにも写真提供多数。

きのこには、食べると中毒事故を引き起こすものもあります。実際に食べられるかどうか判断する場合には、必ず専門家にご相談ください。

 

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