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[vol.7] 叱り方がわからない

三洋化成ニュース No.532

[vol.7] 叱り方がわからない

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2023.01.09

安藤 俊介

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どのように叱ったらいいのかわからない人が増えています。企業では2020年のパワハラ防止法施行以来、叱ることで「パワハラになるのではないか」と恐れたり、オンライン業務が進むことで「どのように叱ればいいのかわからない」と悩んだりする人が増えました。

この連載ではアンガーマネジメントは怒らなくなる方法ではなく、怒る必要があることに上手に怒り、怒る必要のないことには怒らなくて済むようになることを目指すものと書きました。

実はアンガーマネジメントでは叱り方も対象にしています。叱り方とは、つまりは上手に怒りを表現できない人がどのように怒りを表現するのかです。

ちなみにここで使う「怒る」と「叱る」は同じ意味で使います。一般的には「怒る」は感情のままに身勝手に怒ることであり「叱る」は相手のことを考えて怒ることのように使われています。

言葉としては「叱る」は目上の人が目下の人に怒ることを意味します。「上司が部下を叱る」とは言いますが「部下が上司を叱る」とは言いません。「部下が上司に怒る」とは言います。また「親が子どもを叱る」とは言いますが「子どもが親を叱る」とも言いません。

 

叱っていいこと、ダメなこと

叱っていいこと、ダメなことがあります。

叱っていいことは、結果・行為・振る舞いといった、誰が見ても同じように評価ができることです。

一方で叱ってはダメなことは、性格・人格・能力といった、人によって評価が変わることです。これらは見ている人の主観や思い込みともいえるものです。例えば、遅刻をした事実をとがめるのは叱っていいことです。この時に、遅刻をするなんて「だらしがない」と言うのはダメです。なぜなら「だらしがない」は主観でしかないからです。あるいは、営業成績が達成できなかった部下に能力がないと叱るのもNGです。叱っていいのは成績を達成できなかった事実のみです。

また、叱る時の基準が明確なものは叱っていいことですが、基準がよくわからないものは叱るのはNGです。例えば「遅刻をしないように」や「目標数値を達成しなさい」は何をしなければいけないかが明確です。

一方で「お母さんの気持ちがわからないの?」は、どうすればお母さんの気持ちがわかったことになるのか誰にもわかりません。あるいは「それを考えるのがあなたの仕事だろ!」では何をどこまで考えたら正解になるのかわかりません。

叱る時に、叱っていい内容になっているのか、叱る基準は明確になっているのか確認をしましょう。

 

叱る時のNGワード

叱る時に使ってはいけないNGワードが4種類あります。

これらのNGワードは叱る内容が相手に伝わらなくなりますので、極力使わないように留意したいところです。

1.過去を持ち出す言葉:「前から言っているけど」「何度も言っているが」
これらの言葉は叱る側がいかに自分が叱っていることに正当性があるかを強めたいがために使います。ところが叱られる側からすれば、「今は関係ないのに」と反発したくなります。

2.責める言葉:「なんで?」「なぜ?」
過去や原因を聞くと相手は責められたと思います。責められた側から出てくるのは言い訳や逆ギレです。過去や原因を聞きたくなる気持ちはわかりますが「どうしたらできる?」「次はどうする?」と未来や解決策を聞くようにしましょう。

3.決め付け言葉:「いつも」「絶対」「必ず」
これらの言葉は大げさな表現です。叱る側が「いつも」と言う時、それは「いつも」ではなく「大体の場合」を大げさに言っています。叱られる側からすれば「いつもじゃないのに」と反発します。

4.程度言葉:「ちゃんと」「しっかり」「きちんと」
「ちゃんとしなさい」と言いがちですが、ちゃんととは一体どれくらいの状態を指すのか叱る側も叱られる側もよくわかりません。「ちゃんとしなさい」と叱れば、叱られた側は「ちゃんとしているのに」と思ってしまいます。

 

叱るための大前提

ここまで上手に叱るためのコツを紹介してきましたが、効果的に叱るためには実はこうしたコツよりも大事なものがあります。

それは普段からの人間関係です。普段の人間関係が良好であれば、叱ることのハードルは下がります。なぜなら、この人から叱られるのであれば、素直に耳を貸そうと思えるからです。

逆にこの人から叱られても言うことを聞きたくないと思われていると、どんなに上手に叱ったとしても、こちらの真意はなかなか伝わりません。叱るための前提条件として、普段の人間関係を良好に保つ努力を忘れないでください。

 

安藤 俊介〈あんどう しゅんすけ〉

一般社団法人日本アンガーマネジメント協会代表理事。日本におけるアンガーマネジメントの第一人者。アメリカのナショナルアンガーマネジメント協会では15人しか選ばれていない最高ランクのトレーニングプロフェッショナルに、アジア人としてただ一人選ばれている。『アンガーマネジメント入門』(朝日新聞出版)、『怒れる老人 あなたにもある老害因子』(産業編集センター)ほか著書多数。

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