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[vol.4] 怒りを生み出す正義感について考える

三洋化成ニュース No.529

[vol.4] 怒りを生み出す正義感について考える

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2023.01.09

安藤 俊介

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正義感から怒る人が増えている

最近、正義感から怒る人をよく目にするようになりました。ニュースを見ていると○○が悪いといった論調で強く間違いを正そうとする姿をよく見ます。マスク警察、自粛警察と呼ばれる人たちは正義感から怒る人の典型です。コロナ禍になってから突然こうした人たちが増えました。

一見すると正義感から怒るのは、「正しい」と思って注意をしているのだから良さそうにも見えます。ところが行き過ぎた正義感からの怒りは自分自身を苦しめるばかりか、社会全体を住みにくいものにしてしまう危険性をはらんでいます。お互いに監視をし合っているような雰囲気を感じて息苦しいと思っている人も多いのではないでしょうか。

 

実は人は怒りたい

誰しも怒りたくないと思っているでしょう。ところがアンガーマネジメントの専門家である私に言わせれば、多くの人は怒りたいと思っています。なぜならわざわざ自分からかんに障るようなニュースを見に行くからです。そして、不謹慎だ、不適切だ、けしからんと言っては怒っているのです。

ニュースはこちらから見に行かなければ基本的には目に入りません。最近のネットのニュースは個人の検索履歴に合わせて、その人の好みに合うように検索結果が表示されるようになっています。すると自分が不愉快だと思うニュースを見ている人は、不愉快になるニュースを延々と見せられるという負のループに入り、ずっと怒り続けることになります。

 

正義は中毒になる

正義感から怒っている人はいつの間にか正義中毒と言っても過言ではない状態になっています。正義には中毒性があります。中毒性があるのは、1.気持ちがいいから、2.社会との一体感が持てるから、3.わかりやすいから、という三つの理由が挙げられます。それぞれの理由を見ていきましょう。

1.気持ちがいいから 正義は単純に気持ちがいいのです。正義の味方は子どもの頃は誰しもが憧れるものです。その正義の味方の気分を味わえるのですから気持ちが良くないわけがありません。正義の味方でいれば人から称賛されますし、認めてもらえます。自分が正しいということに溺れることができるのです。

2.社会との一体感が持てるから 正義の味方であれば社会が後ろ盾になってくれます。例えばネット上では正義を言っているうちは多くの「いいね」が付きます。普段の生活のなかでほかの人からここまで多くの「いいね」をもらえる機会はそうそうありません。社会のなかで自分が役立っていることを実感し、高揚感を味わえます。

3.わかりやすいから 正義はとてもわかりやすいのです。ルールを守っていない人にルールを守れと言う正義は誰がどう見ても正しいのです。今はいろいろなものが不透明な時代ともいわれています。そんななか、正義は誰にとっても明快で、答えが簡単なので、多くの人が思考停止のまま飛びつきやすいものになっています。

 

正義感の強い人は怒りっぽい

正義感が強いことは悪いことではありません。正義感を持つことは社会生活を営むうえでとても大切なことです。ただし、過ぎたるはなお及ばざるがごとしというように、行き過ぎた正義感を持つことは大いに問題があります。正義感が強くなると怒りっぽくなるからです。

以前、本稿で説明したように怒りは防衛感情といって、大切なものを守るために存在している感情です。私たちは自分が大切にしている価値観、考え方、立場、家族、財産などが危険な目に遭う時に怒りを使ってそれらを守ろうとします。

正義感は自分にとってとても大切なものです。もし誰かがあなたの正義感を否定したり、意見したりするようなことがあれば、それはあなたへの攻撃と捉えます。すると怒りをもって反撃をしようとするのです。

正義感が強くなると、大切にしているもの、守りたいものが多くなります。守りたいものが多ければ、それだけ怒る機会も増えます。なぜなら世の中には正義ではないことがたくさんあるからです。世の中は公正で平等であってほしいと思いますが、理想には程遠い状態です。

清濁併せのむくらいの気持ちでいることが正義感を暴走させることなく、無用な怒りに振り回されずに済むコツです。あなたの正義感は本当に正義でしょうか、それとも都合良く怒るための理由でしょうか。周りの人も含めてぜひ一緒に考える機会をつくることをおすすめします。

 

安藤 俊介〈あんどう しゅんすけ〉

一般社団法人日本アンガーマネジメント協会代表理事。日本におけるアンガーマネジメントの第一人者。アメリカのナショナルアンガーマネジメント協会では15人しか選ばれていない最高ランクのトレーニングプロフェッショナルに、アジア人としてただ一人選ばれている。『アンガーマネジメント入門』(朝日新聞出版)、『怒れる老人 あなたにもある老害因子』(産業編集センター)ほか著書多数。

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