新規事業開発の目指す姿

三洋化成グループは事業に関するマテリアリティとして、「Interface Innovatorとしてカーボンニュートラル(CN)の達成」と「『はたらき』を化学して生活の質(QOL)を向上」を設定しています。新中期経営計画2025の期間は、2030年の新たな成長軌道となる次世代の事業創出に向け、CNとQOLの向上に貢献する新規事業と製品開発に注力していきます。継続的にリソースを投入し、戦略的なアライアンス・M&Aを視野に入れたイノベーション創出のアクションを強化することで、早期事業化を目指します。

カーボンリサイクル(CCU)

当社は、主力製品であるアルミ電解コンデンサ用電解液ビジネスを通じ、イオン液体の設計・製造ノウハウを長年にわたって蓄積してきました。現在、その技術を応用し、CO2回収・利用(CCU:Carbon dioxide Capture and Utilization)の効率的なシステムへのイオン液体の適用検討を進めています。CCUは、気候変動の原因となるCO2の排出を制御しながら、化石燃料の利用や産業プロセスを維持するために重要な役割を果たすと考えられています。また、再生可能エネルギーと組み合わせることで、CO2の負排出(ネガティブエミッション)を達成することも期待されています。
既存事業の枠組みにとらわれず、エンジニアリング会社、自治体、他化学メーカーを含めたコンソーシアム的活動を通じて、煙道ガスからのCO2分離、さらにはネガティブエミッションテクノロジーのひとつとして注目されている空気中からのCO2分離などへの技術適用を目指しています。

エネルギー(有機正極)

ドローンやHAPS(High Altitude Platform Station:成層圏通信プラットフォーム)などの次世代デバイスへの期待が高まる中、これらの性能を飛躍的に向上させるために、重量エネルギー密度が高く、軽量で安全な次世代電池の開発が求められています。またサステナビリティの観点からも、カーボンニュートラルに向けた対策である「電化」の促進や再生可能エネルギーの蓄電などに高性能な電池が必要不可欠です。現在のリチウムイオン電池は、その性能の上限に近いと言われており、次世代電池のひとつとして有機正極二次電池に着目し材料開発を進めています。
有機正極二次電池は、正極活物質を現行のレアメタル(希少金属)を含む無機材料から有機材料に代替することが特長であり、重量あたりのエネルギー密度の大幅な向上が期待されます。また、レアメタルの資源不足や価格高騰、供給安定性のリスクを回避することができます。
当社では、キーとなる有機材料の開発・製造を実施し、パートナー企業と共に早期実績化を目指します。

有機正極二次電池イメージ

(出典)ソフトバンク株式会社

農業(ペプチド資材)

昨今の農業では、労働力不足や異常気象などによる食糧危機や、農薬および化学肥料などによる環境負荷が大きな社会課題とされています。当社が2023年度実用化に挑むペプチド農業は、野菜や果樹にバイオスティミュラントであるペプチドを与えることで植物が生来有する機能を最大限引き出す技術です。病害や気候変動による被害を緩和することで、結果として、品質向上、収量増大、農薬や化学肥料の使用低減などが期待できます。
基盤技術である界面制御技術などを駆使して、未利用資源を含む天然物から抽出するペプチドと、天然物由来の発酵生産ペプチドを製造することが可能であり、複数の機能性ペプチドを利用した世界初の農業向けソリューションとなります。その先駆としてペプチド肥料の販売を行い、今後、作物ごとに適した散布方法や鮮度保持技術の提供など、高付加価値な野菜、果物づくりに寄与するビジネスモデルを構築する計画です。

  • バイオスティミュラント:
    • 植物に対する非生物的ストレス(高温や低温、物理的な被害など)を制御することにより気候や土壌のコンディションに起因する植物のダメージを軽減し、健全な植物を提供する新しい技術。世界市場30億ドル、年平均成長率12%超が見込まれている。

診断・再生医療(細胞外小胞:EV)

近年、疾病発見や再生医療などQOLの向上に直結する医療分野で、「エクソソームを含む細胞外小胞」という体液成分が高い注目を集めており、2030年には研究市場だけでも1,000億円を超える市場が形成されると予想されています。当社はこれまでに、体外診断薬事業で培った体液成分回収技術・ノウハウを応用し、さまざまな体液から細胞外小胞を高効率・高収率・高精製度に回収する方法『EXORPTION®法』 を徳島大学と共同で開発しました。
本技術の普及で細胞外小胞を利用した新たな診断・治療の研究を支援するとともに、本技術を応用した診断薬などを臨床現場に実装することを目指しています。

体外診断用医薬品(アキュラシード)

免疫測定法による体外診断薬は、疾病の診断目的で使用され、2021年に国内約2,500億円の市場を形成しています。当社独自の磁性粒子『マグラピッド』を採用したAccuraseed®(アキュラシード)専用試薬は、測定時間 10 分という迅速な免疫測定を実現した体外診断薬です。Accuraseed®専用試薬は、富士フイルム和光純薬株式会社と共同で、2015年11月の発売以来、甲状腺疾患や感染症など 30 項目以上を品揃えしており、臨床現場における迅速診断のニーズに応えています。当社と富士フイルム株式会社は、「富士フイルム三洋化成ヘルスケア株式会社」を2022年 6 月に設立し、両社のAccuraseed®専用試薬の製造体制を集約しました。生産基盤を強化して高い生産性を実現し、伸長する体外診断薬の需要に対応していきます。

  • Accuraseed®:富士フイルム和光純薬株式会社の自動化学発光酵素免疫分析装置

創傷治癒材・半月板再生材(シルクエラスチン)

日本の高齢社会が進んでいくにつれ、糖尿病性皮膚潰瘍や褥瘡(じょくそう)、変形性膝関節症などを患う国民が増加し続けています。特に高齢化により自然治癒力が低下した患者は、従来の治療では治癒しにくいため重症化するケースが多く、難治化した皮膚欠損の患者は年間15万人、変形性膝関節症患者は800万人いると言われています。
このような患者に当社で開発中の機能性タンパク質『シルクエラスチン』を用い、患者自身の自然治癒力を高めることで、従来の治療では治らなかった傷に対する治癒(組織再生)を試みています。2016年から皮膚欠損再生や半月板再生に関するヒト臨床治験を実施しており、『シルクエラスチン』の有効性および安全性の確認を進めています。2024年には、難治化した皮膚欠損の再生を意図した再生医療機器「創傷治癒材」として、社会実装を計画しています。さらに2026年には、変形性膝関節症患者の半月板再生材用途での社会実装を計画しています。当社は『シルクエラスチン』を通じて、健康寿命を延ばし高齢者のQOLの向上に貢献します。

デジタル嗅覚(匂いセンサー)

昨今のIoT化・次世代コミュニケーションを目的に、人間の五感の再現が盛んに検討されています。中でも「嗅覚」の再現は難しく、匂い・香りを見える化する商品やサービスにおいて、本格的かつ実用的な社会実装にはいまだ至っていません。特定の匂いをデジタルで識別、定量化するデジタル嗅覚技術は、医療分野、食品・飲料などの生活関連分野での応用が期待されており、その市場規模は 2026 年までに 3 兆 1,200 億ドルまでに成長すると予測されています。
当社グループは3,000種類にわたる機能化学品を提供しており、そこで得られた技術・知見を活かすことで、さまざまな匂いに対してカスタマイズが容易で、実用性の高い匂いセンサーを開発しました。
当社のセンサーの特長はカスタマイズが容易なことに加えて、市販のガスセンサーには困難な、複雑に混ざった匂いの識別を短時間かつ連続で測定可能なことです。
匂いセンサーの事業化に向け、匂いセンサーを通じたQOLの向上に貢献するための取り組みを進めています。例えば、衛生環境状態の可視化による環境改善と作業の効率化や、食品・嗜好品の香りの可視化を検討しています。匂いの見える化を通じた新しい価値の創造に向け、早期の事業化を目指します。