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世界一おすすめの ゆる鉄!

三洋化成ニュース No.521号

世界一おすすめの ゆる鉄!

2020.07.31

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文・写真=鉄道写真家 中井精也

青い空に緑の田んぼ。そこを走るツートンカラーの列車は、古き良きローカル線の風景のものだ(上総川間駅)

 

仕事柄、「中井さんが一番好きな鉄道はどこですか?」という質問を受けることが多いのですが、僕はいつも「小湊鐵道!」と迷わず答えます。そして今回は世界中の鉄道を旅した僕が、世界一おすすめの路線だと豪語できる千葉県のローカル線、小湊鐵道をご紹介しましょう。

小湊鐵道はJR内房線の五井駅から、上総中野駅までの39・1 キロメートルをのんびりと結ぶローカル私鉄。その歴史は古く、一部区間の開業は大正14年、昭和3年には全線開業しています。開業に合わせ大正13年に輸入された蒸気機関車2台は、今も五井駅に保存され、見学することも可能です。

この路線の最大の魅力は、古き良き昭和のローカル線の雰囲気が色濃く残されているところでしょう。それは起点の五井駅に行けば、すぐに実感できます。ピカピカで立派なJRの五井駅のすぐ横に、まるで時間が止まってしまったかのようなレトロな車庫があり、そこに懐かしい車両がずらりと並んでいるのです。そんな五井駅から小湊鐵道に乗り込めば、まるでタイムマシンに乗ったかのような、懐かしい昭和の世界へ向かう旅の始まりです。

 

タイムマシンで時間を旅する

五井駅のホームに立つと、クリーム色と赤のツートンカラーの懐かしい気動車が停まっています。カラカラカラという懐かしいエンジン音、車両の側面にかけられた行き先表示板が、旅情を誘います。この車両はキハ200という形式で、なんと昭和36年から52年にかけて14両が製造され、小湊鐵道は観光列車を除き、全てこの車両で運行されています。そしてそれこそが、この鉄道が鉄道ファンに愛される最大の理由でもあるのです。観光のための復刻や保存目的ではなく、約60年前に製造された車両だけで日常的に運行が続けられている鉄道は、日本には小湊鐵道以外に存在しません。いや僕は世界中を必死で探していますが、そんな鉄道を見つけることはできていません。

以前スイスに撮影に行った時、シーニゲプラッテ鉄道という登山鉄道を見つけました。まさに小湊鐵道と同じカラーリングの客車を、100年以上前のレトロな電気機関車が牽引(けんいん)しているのを見て興奮した僕は、妻に電話でこう叫びました。「スイスで小湊鐵道みたいなレトロな鉄道を見つけたよ!」。すると妻は「ずいぶん遠くまで小湊鐵道を撮りに行ったものね……」と呆れ顔。

 

 

タイムスリップ したかのような車庫(五井駅)

小湊鐵道は、どこも 懐かしく温かい雰囲気に

包まれています (養老渓谷駅)

昔ながらの改札口(上総鶴舞駅)

 

考えてみれば、ゆる鉄を求めて世界中を旅する写真家を魅了する鉄道が、日本の大都市のすぐそばにさりげなく走り続けているのって、凄いと思いません? もし世界遺産を決められる権利がこの手にあるならば、僕は迷わずこの小湊鐵道をイチオシするでしょう!

 

 

 

小湊鐵道は、どこも 懐かしく温かい雰囲 気に包まれています (養老渓谷駅)

 

 

いつの間にか消えた旅の景色

さて興奮のあまり話が長くなりましたが、五井駅から列車に乗り込みましょう。そこで皆さんがまず目にするのは、車掌さんです。新幹線や通勤電車には必ず車掌さんが乗務しているので、珍しくないと思いがちですが、実はいま日本のほぼ全てのローカル線はワンマン化されており、一部路線の朝夕の通勤通学時間帯を除いて車掌さんが乗務することはまずありません。昔はどこのローカル線でも見られた大きなガマ口のバッグを持った車掌さんもまた、絶滅危惧種的な存在なのです。

そんな車掌さんとのやりとりを楽しみながら、最初に停車するのは上総村上駅。もうこの駅が既に映画のセットのような古い木造駅舎で、タイムスリップを実感させてくれます。小湊鐵道は多くの駅に開業当時の木造駅舎や待合室が健在で、途中の里見駅では、昔懐かしい「タブレット交換」までも見ることができます。これは列車同士がすれ違うときに使ういわば通行手形のような輪っか状のもので、昔はどこのローカル線でも見られました。花形車両の引退や廃線とは違い、車掌さんや木造駅舎やタブレットは、人知れずローカル線から姿を消していきました。そして気が付けば、この小湊鐵道を含めた数路線だけでしか出会えない貴重な風景になってしまいました。沿線風景もまた格別で、いわゆる絶景こそないものの、これまた懐かしい里山の風景がゆっくりと車窓に流れていきます。春には咲き乱れる菜の花や桜が、秋には真っ赤に色付く紅葉が、開けることができる窓から入る新鮮な空気とともに、心を癒やしてくれるのです。

 

水鏡に桜と列車が映る幻想的な春の夜(飯給〈いたぶ〉駅)
元気いっぱいのヒマワリ。よくみると♡が!(上総村上駅~海士有木駅)

 

また旅ができるようになったら、ぜひ皆さんもこのツートンカラーのタイムマシンに乗って、心のなかにある古き良きローカル線の想い出に会いにいってみませんか?きっとたまったココロの疲れも、一気にふっとんでしまいますよ。

 

 

 

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〈なかいせいや〉1967年東京生まれ。鉄道の車両だけにこだわらず、鉄道に関わる全てのものを被写体として独自の視点で鉄道を撮影する。広告、雑誌写真の撮影のほか、講演やテレビ出演など幅広く活動している。著書・写真集に『1日1鉄!』『デジタル一眼レフカメラと写真の教科書』など多数。株式会社フォート・ナカイ代表。公益社団法人日本写真家協会(JPS)会員、日本鉄道写真作家協会(JRPS)会員。

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