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[vol.13] 不死鳥のように走り続ける奇跡のローカル線 -銚子電気鉄道-

三洋化成ニュース No.532

[vol.13] 不死鳥のように走り続ける奇跡のローカル線 -銚子電気鉄道-

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2022.05.23

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文・写真=鉄道写真家 中井精也

ジャングルのような線路をレトロな電車が行く(2014.4.23/本銚子駅付近)

今回ご紹介するのは、千葉県を走る銚子電気鉄道です。「銚電」と呼ばれ、みんなに親しまれているこの鉄道は、総武本線の銚子駅とかわ駅を結ぶたった6.4キロメートルのローカル私鉄。銚子半島の穏やかな風景のなかをのんびりと走るこの路線のイメージを一言で表すと、ずばり「ゆるい!」。ローカル線に乗っている時に感じるゆる〜い雰囲気を被写体とする「ゆる鉄」作品をライフワークにしている僕にとっては、なくてはならない存在なのです。

度重なるピンチでまさに絶体絶命!?

「銚電がいよいよ廃止になるらしい…」。そんなうわさを聞いて、僕が初めて銚子電鉄を訪ねたのは中学2年の時。

その頃はまだ旧型電車がたくさん残っていて興奮しながら撮影しましたが、一番驚いたのは観音駅で見た光景でした。当時の観音駅にはたい焼き屋さんがあったのですが、たい焼きに入れるあんこの一斗缶を半分に切って、なんと「お手製のちり取り」として50円で販売していたのです。当時14歳だった僕は、この鉄道は本当に貧しいんだなぁ…と心を痛めたのをよく覚えています。あれから約40年、今日も元気に銚電は走り続けていますが、その陰には壮絶なドラマがありました。

銚子電鉄は沿線の過疎化や観光客の減少により苦しい経営状態が続いていましたが、平成16年に大事件が起こります。なんと当時の社長が約1億円を横領していたことが発覚し、倒産の危機に陥ってしまったのです。そこへ追い打ちをかけるように国土交通省の監査が入り、老朽化した鉄道施設の改善命令が出されます。その費用を見積もると、5000万円。さらに車両の法定検査にかかる1000万円が必要でしたが、当時の会社の預金残高はわずか200万円。誰がどう考えても絶体絶命ですが、そんな状況を救ったのが銚電名物「ぬれ煎餅」でした。

電車修理代を稼がなくちゃ、いけないんです。

その時の銚子電鉄に残された武器は、たまたま数年前から製造・販売を始めたぬれ煎餅だけでした。あちこちで販売を試みるも、売り上げはすずめの涙。そこでいちの望みをかけてインターネットを通じて購入を呼びかけます。「ぬれ煎餅を買ってください! 電車修理代を稼がなくちゃ、いけないんです。」そんな切実な願いが話題を呼び、なんと10日間で1万人以上の人たちが反応し、さらにテレビでも取り上げられ、ぬれ煎餅は爆発的な大ヒット! なんとぬれ煎餅の売り上げで、全ての支払いを賄ってしまったといいます。「電車修理代を稼がなくちゃ、いけないんです。」というフレーズは、毎年発行される現代用語集に掲載されるほどの大フィーバーを巻き起こしたのです。

「地球の丸く見える丘展望館」より太平洋を望む(2022.2.7/君ヶ浜~犬吠)

 

電車を走らせるためにやれることは全てやる

銚子電鉄の経営努力はぬれ煎餅だけではありません。大ヒット商品であるスナック菓子をリスペクトした、(経営が)「まずい棒」や、銚子名物であるサバと経営難からサバイバルすることをかけた駅弁「鯖威張る弁当」などを発売、さらには大ヒット映画をリスペクトした「電車を止めるな! 〜のろいの6.4㎞〜」を自主制作するなど、厳しい経営状況を逆手にとったぎゃく的なコンテンツを次々と展開、常に話題を集めています。下の写真は、毎年夏に運行される「お化け屋敷電車」。ネタバレになるので、詳細は書きませんが、最初は子どもだましだろうと思っていた僕も車内で絶叫するほどの怖さ(笑)。何より、室内灯を真っ暗にして、お化けが浮かび上がったまま銚子の街を走る電車を見て、たまたま通りがかった人が腰を抜かさないかしら?と心配になりました。こんなふざけているような試みも全て、電車を走らせ続けるための必死の経営努力なのです。

夏の銚電名物、お化け屋敷電車(2017.7.22/海鹿島~君ヶ浜)

 

まるで映画のセットのような懐かしい沿線風景

今銚子電鉄を走っているのは、東京の京王線を引退後、愛媛県の伊予鉄道を経て、第三の人生を歩む中古の電車。2枚窓の愛らしいデザインが、旅情をそそります。車内では懐かしい車掌さんも健在。名物車掌さんの爽やかな笑顔や、子どもたちのにぎやかな声に包まれて、ふと外を見ると一面に広がるキャベツ畑。心地よい電車の揺れに体を委ねれば、日常生活で疲れたココロも、癒やされてしまいます。

車内には子どもたちの笑い声が響く(2014.4.24/銚子電鉄車内)

 

車掌さんは銚子電鉄のアイドル的存在
(2014.4.24/銚子電鉄車内)

 

ぜひ訪ねてほしいのが、鹿しかじま駅と君ヶ浜駅の間にある「19号踏切」です。そこにあるのは、冬はキャベツ、夏はトウモロコシが育てられる広大な畑の中にポツンと立つ、ドラマのセットのような素朴な標識だけ。農道にゴロンと寝転んで、19号踏切の奥から吹く海風を感じながらぼ〜っと空を見上げる、そんな時間が、何にも替え難いぜいたくな時間に思えるのです。

19号踏切付近に広がるキャベツ畑(2022.2.7/海鹿島~君ヶ浜)

 

お土産は甘いキャベツと最高の笑顔
(2014.4.23/海鹿島~君ヶ浜)

経営たんの危機にも、東日本大震災にも、コロナ禍にも負けず、たゆまぬ経営努力によって、今日も元気に走る銚子電鉄。オンラインショップで商品を買うことでも応援できますが、ぜひ一度訪ねてみてください。何にも負けず、ひたむきに走り続ける奇跡の鉄道の姿は、きっと皆さんに大きな勇気を与えてくれるはずですよ。

クリックで写真のみご覧いただけます

 

 

 

 

〈過去にゆる鉄ファインダーでご紹介した写真をこちらからご覧いただけます〉

 

〈なかい せいや〉1967年東京生まれ。鉄道の車両だけにこだわらず、鉄道に関わる全てのものを被写体として独自の視点で鉄道を撮影する。広告、雑誌写真の撮影のほか、講演やテレビ出演など幅広く活動している。著書・写真集に『1日1鉄!』『デジタル一眼レフカメラと写真の教科書』など多数。株式会社フォート・ナカイ代表。公益社団法人日本写真家協会(JPS)会員、日本鉄道写真作家協会(JRPS)会員。

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