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[vol.11] 世界有数の絶景ここにあり -鉄道大国タイの路線を紹介-

三洋化成ニュース No.530

[vol.11] 世界有数の絶景ここにあり -鉄道大国タイの路線を紹介-

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2022.01.14

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文・写真=鉄道写真家 中井精也

世界一エキサイティングな市場の風景(2018.1.16/メークロン駅付近)

 

今回のゆる鉄ファインダーでご紹介するのは、タイの鉄道です。タイには東南アジアでは最大規模を誇る約4000キロメートルの鉄道路線がありますが、今回は海外旅行に行けるようになったら、ぜひ訪ねてもらいたいおすすめポイントを三つご紹介しましょう。

 

市場の中を列車が走るメークロン線

最初にご紹介するのは、タイの首都バンコクの西130キロメートルほどの農村地帯を走るメークロン線。この路線の終着駅、メークロン駅付近では、とれたてのお魚や果物が並ぶ市場のど真ん中を豪快に列車が走る、エキサイティングな鉄道風景を堪能することができます。もともとは線路の両側にあった市場が線路にはみ出してきたもので、何とお客さんは列車が走る線路上を歩きながらショッピングするのです。遠くから列車の警笛が聞こえると、商店のおばちゃんたちは慌てる様子もなく日よけテントをテキパキと畳み、商品をどけていきます。列車にぶつからないように、商品棚がスライド式になっている店まであり、さっきまで市場だったその場所は、あっという間に線路になりました。このドタバタ劇を目当てに世界中からたくさんの観光客が訪れ、今やタイを代表する観光地の一つになりました。

上の写真は列車が通過するシーン。線路上に無造作に置かれた魚は、列車にギリギリ当たらずセーフ! 列車の高さを熟知しているおばちゃんスゲー!と、思わず感心してしまいました。日本の鉄道員なら卒倒しそうな綱渡りの運行ですが、不思議なことにほとんど事故はないそう。「危ないけど、みんな喜んでいるからいいじゃん!」って感じのおおらかな鉄道風景を見て、なぜかちょっとうらやましくなっちゃいました。

 

泰緬鉄道の面影を残すナムトック線

泰緬鉄道の面影を残すアルヒル桟道橋(2018.1.18/タムクラセー橋駅付近)

続いてご紹介するのはバンコクの外れにあるトンブリー駅から出発するナムトック線。この路線は、太平洋戦争時に旧日本陸軍によって建設された「たいめん鉄道」の線路をそのまま使用しており、沿線には当時の歴史を物語る史跡が多く残されています。なかでも一番の見どころは、上の写真「アルヒル桟道橋」でしょう。この橋はクウェー・ノイ川の崖っぷちに敷設された、全長約300メートルの木造橋で、日本軍が爆破した当時のままの岩壁の真下に造られた木橋を、時速5キロメートルまで速度を落とした列車が恐る恐る走ります。あまりにスリリングで背中がゾワゾワするような光景ですが、大興奮しながらシャッターを切りました。下の写真は、映画『戦場にかける橋』として有名なクウェー川鉄橋。この橋を見ているだけで、劇中音楽の「クワイ河マーチ」が聞こえてきそうでしょ? 太平洋戦争当時、ビルマ(現・ミャンマー)への唯一の補給ルートであった泰緬鉄道において、この橋は最重要地点で、最大の難所でもありました。日本軍には「メクロン河永久橋」と呼ばれたこの橋は1943年に完成しましたが、1944年には英米軍によって爆撃され橋桁の一部が崩落。写真右端に写っているトラスの形が違う部分が、爆撃された場所だとか。そんな戦争の傷痕が残るこの鉄橋も、今は世界中から人が訪れる平和な観光地となりました。観光客が自由に鉄橋の線路上を往来し、楽しそうに記念写真を撮る姿を見て、平和っていいな…と、つくづく感じました。

戦場にかける橋に夕陽が沈む(2018.1.18/クウェー川鉄橋駅付近)

 

戦場にかける橋に観光に行く学生さんたち
(2018.1.18/トンブリー駅)

 

偶然見つけた世界有数の鉄道絶景!

最後にご紹介する絶景との出会いは偶然でした。タイ国鉄東北線に乗車していた時のこと。ゲンコーイという駅で、日本製の懐かしい気動車を発見しました。興奮して駅員さんに尋ねると、午後に観光列車として走るとのこと。どこに行く列車かもわかりませんが、懐かしい車両に乗りたい一心で、乗車することにします。発車してしばらくすると、突然車窓に海が広がりました。タイの内陸に何で海が!? と驚きましたが、これがこの観光列車の目的地である「パサックチョンラシッドダム」だったのです。このダムはタイ国王ラーマ9世の発案で、洪水を防ぐために建設されたタイ最大のダム。あまりいい表現ではないですが、入浴剤のような鮮やかな緑色がとても美しく、異国情緒を誘います。でもダムが目的なのに、列車はアクセル全開でぶっとばします。せっかくなら徐行すればいいのに…なんて思っていたら…、何と突然列車が停車、乗客が次々と線路に降りていくではあ〜りませんかっ!? タイ語のアナウンスなのでわからなかったのですが、何とダムのど真ん中で停車し、乗客を降ろしてダムを堪能させてくれる観光列車だったのです。営業列車から線路に降り、写真撮り放題とか、ここは天国ですか?(笑)20分ほどすると車掌さんが笛を吹き、乗客はみんな列車に戻っていきます。でも僕は人がいない風景もどうしても撮りたくて、粘りに粘って撮影したのが1番下の写真。日本製の懐かしい車両が、世界有数の鉄道絶景のなかを走る、夢のようなシーンを撮影できました!

まるで海を横切るような風景(2018.1.18/タイ国鉄東北線)

 

線路上に降りてダムを満喫(2018.1.18/タイ国鉄東北線)

 

パサックチョンラシッドダムをゆく日本製の気動車
(2018.1.18/タイ国鉄東北線)

 

鉄道王国タイには、まだまだすてきな鉄道風景がありそうです。また旅できる日が来たら、ゆっくりと行きタイな(笑)。

 

 

クリックで写真のみご覧いただけます

 

 

 

 

〈過去にゆる鉄ファインダーでご紹介した写真をこちらからご覧いただけます〉

 

〈なかい せいや〉1967年東京生まれ。鉄道の車両だけにこだわらず、鉄道に関わる全てのものを被写体として独自の視点で鉄道を撮影する。広告、雑誌写真の撮影のほか、講演やテレビ出演など幅広く活動している。著書・写真集に『1日1鉄!』『デジタル一眼レフカメラと写真の教科書』など多数。株式会社フォート・ナカイ代表。公益社団法人日本写真家協会(JPS)会員、日本鉄道写真作家協会(JRPS)会員。

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