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[vol.8] 絶景! スイス鉄道

三洋化成ニュース No.527

[vol.8] 絶景! スイス鉄道

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2021.07.28

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文・写真=鉄道写真家 中井精也

ブリエンツ湖とアイガーの山々の大パノラマ(2015.7.7/ブリエンツ・ロートホルン鉄道)

 

今回は、世界一の絶景を走るといわれるスイスの鉄道をご紹介しましょう。スイスは広大なイメージがありますが実は意外に狭く、九州よりも少し狭いくらいの国土面積しかありません。でもそこに5000キロメートルを超える距離の鉄道が敷かれ、魅力的な列車がたくさん走っているのです。そして何よりの特徴は、山岳路線が多いこと。世界に名だたる名山にアクセスするスイスの鉄道は、まさに息をのむような絶景を、車窓から眺めることができるのです。ここでは僕のおすすめの絶景路線をよりすぐってご紹介します!

 

蒸気機関車で急勾配に挑む絶景路線

ブリエンツ・ロートホルン鉄道は、ブリエンツ湖のほとりにあるブリエンツ駅と標高2244メートルのロートホルン・クルム駅を結ぶ7.5キロメートルの登山鉄道。スイスの登山鉄道としては珍しく電化されておらず、なんと今でも蒸気機関車の牽引けんいんで運転されています。レールの間に急坂を上るためのラックレールがある「アプト式」鉄道で、最大勾配は250パーミル。これは1000メートル進むごとに標高が250メートル高くなるというかなりの急勾配になります。参考までに日本で唯一アプト式を採用している大井川鐵道井川線の最大傾斜は90パーミルなので、かなりの急勾配であることがわかります。

もし日程に余裕があれば、まずはロートホルン・クルム駅まで乗車し、途中駅のプランアルプまで撮影しながらトレッキングするのがおすすめ。約10キロメートルの道のりですが、一番上の写真のように眼下にはブリエンツ湖、奥にはアイガーの山々という最高の絶景とともに、可愛い蒸気機関車を撮影することができます。

 

ベルナーオーバーラント三山と絶品チーズトースト

続いてご紹介するのはミューレン山岳鉄道。全長約4.3キロメートルのとても小さな鉄道ですが、ベルナーオーバーラント三山と呼ばれる、アイガー・メンヒ・ユングフラウの絶景を堪能することができるんです。使われている電車もとてもレトロなスタイルで、どこか日本のローカル私鉄で走っていそうな愛らしい車両なのもうれしいところ。

さて、この路線の最大のおすすめポイントは、なんといってもベルナーオーバーラント三山の絶景… ではなく、中間のヴィンターエッグ駅のレストランで食べられるチーズトーストです(笑)。素朴なパンに、チーズがトロ〜リ。スイスの民族音楽を聞きながら、トーストの上にのせた目玉焼きを崩して食べれば、もう気分はアルプスの少女ハイジ♡ お目当てのベルナーオーバーラント三山は、かなり天気が良くないと見えませんが、仮に天気が悪くても、このチーズトーストを食べられれば悔いはないはずですよ(笑)。

アイガー・メンヒ・ユングフラウを望みながら(2018.9.28/ミューレン山岳鉄道)

 

スイスの民族音楽を聞きながら(2018.9.29/ミューレン山岳鉄道)

 

ヴィンターエッグ駅名物チーズトースト(2018.9.29/ミューレン山岳鉄道)

 

スイスの小湊鐵道!?に大興奮

ヴィルダースヴィル駅から分岐するシーニゲ・プラッテ鉄道は、宮崎アニメの「天空の城ラピュタ」に出てきそうな機関車が、本誌でもご紹介した小湊鐵道のような可愛い客車を牽引するという夢のような路線。最初にこの鉄道を見つけた時、あまりにうれしくて妻に「スイスで小湊鐵道のようなゆる鉄を見つけたんだよ!」って電話したら「ずいぶん遠くまで小湊鐵道を撮りに行ったわね」ってあきれられた路線でもあります(笑)。オススメは途中駅のブライトラウエネン駅で途中下車しての、お散歩撮影。駅から20分ほどのんびりと坂を上っていくと、トゥーン湖の絶景をバックに、スイスの小湊鐵道を撮影することができます。またブライトラウエネン駅では、ホーム脇に無造作に置かれたテーブルで、絶景と列車を見ながらカフェを楽しむこともできます。ここは観光客がほとんどいないので、のんびりと絶景を独り占めできますよ。

小湊鐵道カラーの客車(2018.9.28/シーニゲ・プラッテ鉄道)

 

のんびりしたブライトラウエネン駅(2014.7.6/シーニゲ・プラッテ鉄道)

 

歴史ある360度ループ橋

最後にご紹介するのは、スイス最大の私鉄であるレーティッシュ鉄道。世界的に有名な観光列車「氷河急行」や「ベルニナ急行」を運行する鉄道だけに、見どころは数え切れないほどありますが、今回ご紹介するのはレーティッシュ鉄道ベルニナ線のハイライトであるブルージオ橋です。山岳部を走るスイスでは大きくカーブして迂回うかいしながら高低差を克服するループ区間は多いですが、トンネルなどがなくカーブ全体が見える「オープンループ」で、しかも石造りのめがね橋だけで構成されている360度ループ橋は、世界で類を見ない貴重な橋なのです。列車はアーチが連なるループ橋の上をぐるりと回ると、そのアーチの一つをくぐってさっそうと現れます。あくまでも急坂を克服するための工夫ですが、橋そのものが持つアートのような美しさに魅了されました。

スイスの鉄道には、まだまだたくさん絶景がありますが、そちらはまたの機会に。

ベルニナ線のブルージオ360度ループ橋(2012.9.6/レーティッシュ鉄道)

 

 

 

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〈過去にゆる鉄ファインダーでご紹介した写真をこちらからご覧いただけます〉

 

〈なかいせいや〉1967年東京生まれ。鉄道の車両だけにこだわらず、鉄道に関わる全てのものを被写体として独自の視点で鉄道を撮影する。広告、雑誌写真の撮影のほか、講演やテレビ出演など幅広く活動している。著書・写真集に『1日1鉄!』『デジタル一眼レフカメラと写真の教科書』など多数。株式会社フォート・ナカイ代表。公益社団法人日本写真家協会(JPS)会員、日本鉄道写真作家協会(JRPS)会員。

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