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[vol.10] 乗っても良し、撮っても良しの絶景路線 -根室本線-

三洋化成ニュース No.529

[vol.10] 乗っても良し、撮っても良しの絶景路線 -根室本線-

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2021.11.16

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文・写真=鉄道写真家 中井精也

別寒辺牛湿原を行く根室本線。車窓風景にタンチョウやエゾシカが見えることも多い
(2019.10.21/厚岸~糸魚沢)

 

いよいよ秋も深まってきましたね。過ごしやすい気候に旅心が募る今、ぜひご紹介したいのが北海道の根室本線です。路線総距離はなんと443.8キロメートルを誇る「本線」なだけに、都市間を結ぶ幹線というイメージを持ちがちですが、実際に乗ってみると日本有数の絶景を味わえる貴重なローカル線なのです。上の作品は、あっけしいとざわ間にある小高い丘からかんうし湿原を行く列車を撮影したもの。見渡す限りの湿原のなかを、真っすぐに伸びる線路。日本とは思えないスケールの大きな風景は、まさにここでしか見ることのできない日本一の鉄道絶景と言っても過言ではないでしょう。この湿原はラムサール条約にも登録されている自然の楽園。タンチョウやエゾシカなどの野生動物と出合うことも珍しくありません。

今回は見どころいっぱいの根室本線を①滝川〜新得、②新得〜釧路、③釧路〜根室の三つのエリアに分けて解説しています。

 

北の国からのロケ地を行く 滝川〜新得エリア

根室本線といえば、札幌からトマムを経由して帯広・釧路を結ぶ花形特急「スーパーおおぞら」号が走る幹線というイメージが強いと思います。でも、実はトマム経由の路線は「せきしょうせん」という短絡線で、実際には札幌と旭川のほぼ中間に位置する函館本線の滝川駅が根室本線の起点になります。道東への短絡線ができたことで優等列車が走らなくなった滝川〜新得の区間は、まさにローカル線の雰囲気。空知川流域の豊かな農村風景や、広大な富良野盆地、山奥に突如現れる神秘的な湖「かなやま湖」など、車窓風景も変化に富んでいます。ドラマ「北の国から」のロケ地として知られる富良野駅や布部駅周辺は、ドラマそのままの牧歌的な雰囲気が健在で、車窓に流れる風景を見ていると、さだまさしさんのあの曲がリフレインされます(笑)。金山駅からトンネルを抜けると、突如現れる、かなやま湖はまさに絶景。秋には紅葉、夏にはラベンダーとともに撮影できる名撮影地でもあります。そんな素晴らしい区間ですが、今大きな危機を迎えています。実はこのかなやま湖畔のひがし鹿しかごえ駅から、石勝線と合流する上落合信号場までの区間は、2016年8月に発生した台風10号により壊滅的な被害を受け、既に5年ほど運休が続いています。もともと赤字区間だったことに加えて災害による休止が長引いたことで、現在鉄道を廃止してバス転換することが協議されています。先日落合駅を訪ねたら、構内は草に覆われ既に廃線の様相。厳しい状況ではありますが、いち鉄道ファンとして、歴史ある路線の存続を願ってやみません。上落合信号場で石勝線と合流しトンネルを抜けると、広大な絶景が広がります(下の写真)。ここはルート変更されているものの、「日本三大車窓」の一つに数えられる「かりかちとうげ」で、列車は北海道らしい絶景のなか右へ左へ向きを変えながら急坂を下り、新得駅に到着します。

 

紅葉の狩勝峠を駆ける(2012.8.8/トマム~新得)

 

太平洋岸の絶景にため息 新得〜釧路エリア

新得〜釧路の見どころもたくさんありますが、なんと言ってもおすすめなのは、太平洋岸ギリギリの所を走る絶景区間、厚内〜しらぬかです。下の作品は音別〜白糠で撮影したものですが、海霧に包まれた海岸線ギリギリの所を、ライトを輝かせて「スーパーおおぞら」号が通過していきます。あまりにも感動的な光景に、震えながらシャッターを切りました。写真には霧に浮かぶ三つの岬が写っていますが、それぞれの岬の下を回り込むように線路が敷かれています。一番奥の岬に列車が現れてから、シャッターチャンスまで約7分。それほど広大な風景のなかを走るシーンが見られるのは、北海道広しといえど、なかなかありません。撮影ポイントはフンペリムセ(アイヌ伝統舞踊「鯨の踊り」)発祥の地と呼ばれるスポットの上の丘。ここから超望遠レンズで海岸線を行く列車を狙いますが、向きを変えればパシクル沼と湿原とともに列車を撮影することもできます。

 

海霧を抜けて力走するスーパーおおぞら号(2017.10.13/音別~白糠)

 

北海道らしい踏切(2018.6.4/十勝清水~御影)

 

絶景が目白押し 釧路〜根室「花咲線」エリア

「花咲線」という愛称で知られる釧路〜根室の区間は、湿原と広大な牧草地帯のなかをのんびりと走ります。なかでもおすすめの絶景スポットは2カ所。まずご紹介するのは湖と湿原を堪能できる厚岸〜糸魚沢のポイント。駅弁「かきめし」で有名な厚岸駅を出ると、車窓右側に厚岸湖が広がります。そのまま列車は一番上の写真の別寒辺牛湿原へ。そして根室本線最後のハイライトが、べっ〜落石の海岸線の風景(下の写真)。そこにあるのは広大な北海道の大地と、自然な姿のままの海岸線のみ。そこに走る根室本線だけが、唯一の人工物です。狭い狭いといわれる日本ですが、まだまだこんなスケールの大きな絶景があるのです。

 

こんな絶景が日本にまだあるんです(2017.10.16/別当賀~落石)

 

乗っても良し、撮っても良しの絶景路線・根室本線。ゆっくりと時間をかけて、旅をしてみてはいかが?

 

列車でお出かけ、うれしいね(2018.6.10/茶内駅)

 

ハート模様の牛ちゃんがお出迎え(2018.6.6/浜中~姉別)

 

 

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〈過去にゆる鉄ファインダーでご紹介した写真をこちらからご覧いただけます〉

 

〈なかいせいや〉1967年東京生まれ。鉄道の車両だけにこだわらず、鉄道に関わる全てのものを被写体として独自の視点で鉄道を撮影する。広告、雑誌写真の撮影のほか、講演やテレビ出演など幅広く活動している。著書・写真集に『1日1鉄!』『デジタル一眼レフカメラと写真の教科書』など多数。株式会社フォート・ナカイ代表。公益社団法人日本写真家協会(JPS)会員、日本鉄道写真作家協会(JRPS)会員。

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