MENU

[vol.14] まるで絵本の挿絵のようなリスボントラムのある風景

三洋化成ニュース No.533

[vol.14] まるで絵本の挿絵のようなリスボントラムのある風景

シェアする

2022.07.19

PDFファイル

文・写真=鉄道写真家 中井精也

信じられないほど狭い路地をトラムが行く(2019.9.6/Cç. S. Vicente停留所付近)

今回は僕が世界で一番好きなポルトガル・リスボントラムをご紹介します。

リスボンで、最もおすすめしたい撮影スポットは、上の写真を撮影した旧市街のアルファマ地区にあるCç. S. Vicente停留所付近です。ここはリスボントラムで最も狭い路地で、住宅すれすれの位置をトラムが無理やり通ります。黄色い家並みの奥からトラムがヒョコッと顔を出す様子は、世界中どこを探しても見つけることができないワンダーな鉄道風景といえるでしょう。

この黄色と白のツートンカラーのかわいい市電の姿は、鉄道に興味がない人でも見覚えがあるのではないでしょうか? ポルトガルのガイドブックの表紙には必ずトラムが登場しますし、空港や市内のお土産物屋さんに行けば、トラム関連の商品がずらりと並んでいます。単なる乗り物を超えて、ポルトガルという国全体のマスコット的存在になっているすごい路面電車なのです。

 

外観を維持したまま車内の機器を更新しポルトガルの観光を支えるトラム

リスボン市電の顔となっている黄色と白のレトロなトラムは、1930年代に造られた車両ですが、1990年代に大規模な改修が行われ、レトロな外観を除くほとんどの機器が更新されています。いわばボディだけを残して中身は新車にするようなものなので、かなりの手間とコストが掛かったと思いますが、そうすることでランドマークでもある旧市街のレトロなトラムの風景は守られ、それがまた多くの観光客を世界中から呼んでいます。

日本では古くなったらすぐに新型車両にしてしまいがちですが、古いモノの価値をきちんと認識し、それを観光資源として活かしていくスタイルを、ぜひ参考にしてほしいと思います。

 

トラムで旧市街のアルファマ地区を散策

リスボントラムの総延長は、現在約48キロメートル。かつては28系統もの路線が網の目のように走っていましたが、世界中のほかの都市と同じくモータリゼーションの波に押されて廃止やバスへの転換が進み、今は6つの系統のみの運行になってしまいました。

夕日に輝くリスボン大聖堂(2014.11.25/Sé停留所付近)

 

そんななか人気なのが旧市街を走る12E系統と28E系統の2路線です。この路線はアルファマ地区を走るため「ヨーロッパ最後の田舎」と称されるリスボンのノスタルジックな街並みを堪能することができます。この地区には上の写真のリスボン大聖堂前のほか、左下のテージョ川をバックに坂道を上ってくるトラムの線路、右下のバイシャ市電通りや、その哀愁あふれる石畳(表紙写真)など、フォトジェニックな撮影地がたくさんあります。オレンジ色の瓦屋根と色とりどりの外壁を持つかわいい家がひしめき合う風景は、まるで絵本のワンシーンのよう。迷路のような狭い路地の隙間から、かわいいトラムが飛び出してくる風景は、実にフォトジェニック! どこにカメラを向けても「映える」街なのです。

まるで海のようなテージョ川を望む(2019.9.6/Graça停留所付近)

 

活気あふれるバイシャ市電通り(2014.11.27/Igreja Sta. Maria Madalena停留所付近)

 

いろいろアツい! トラム撮影

そんなリスボントラムも、撮影しようとすると結構苦労します。まずトラムが走る道が信じられないほど狭く、そこにトラムと車が「我先に」と突っ込んできます。なぜかどんなに狭い道でも一方通行ではなく両方向から車が突進し、さらにどこでも好き勝手に駐車するため、旧市街はいつもしっちゃかめっちゃか(笑)。おじさんが線路上に車を止めて郵便局に行ってしまうなんてこともザラにあるので、15分間隔で運行するはずのトラムが45分待っても全く来ず、来たと思えば3両ダンゴになっているなんてこともよくあります。そんな状況なのでトラムに乗車しての撮影では計画が立たず、かといってレンタカーでは駐車場所がなかなか見つからず、やっと止めて撮影から戻ったら前後5センチくらいの隙間でピッタリ駐車されていて大ピンチになったこともありました。

そこで僕がひらめいたのが、レンタルバイクを使っての撮影。100㏄の日本製バイクを借りることにしたのですが、ここでも思わぬピンチに陥りました。ポルトガルも日本同様ヘルメットの着用が義務付けられているのですが、なんと僕の頭が大きすぎてバイク屋さんにあった20個のヘルメット全部が入らないという事態に…。最後の1個をかぶってダメだった時、初めてポルトガル人の「Oh my god!」を生で聞くことができました(笑)。

結局バイク屋のおじさんが、頭の大きい友達に個人所有のヘルメットを借りてくれて一件落着。置き場所に困らないし、狭い街をスイスイ走れるバイクでの撮影は最高にはかどりましたが、ワールドワイドで自分の頭がデカいことを知り、ちょっと切なくなりました。

暮らしに溶け込むトラムを迎える早朝(2014.11.27/Graça停留所付近)

 

街を彩るブーゲンビリア(2019.9.7/Miradouro Sta. Luzia停留所付近)

 

迷路のような街をトラムが行く

コロナ禍も一段落し、ようやく海外旅行に行ける日も近付いてきました。中世のたたずまいを今に残す迷宮のようなリスボンの街をかわいいトラムが走る姿は、鉄道に興味がない人でも感動すること間違いなし。1日フリー切符を買えば、トラム入り口の機器にピッとするだけで簡単に乗れるので、トラムを足代わりにリスボンの街を散策してみてはいかがでしょう? その際、スリと置き引きと、ヘルメットのサイズにはくれぐれも気を付けましょう(笑)。

リスボン名物のケーブルカーと、整備士
(2014.11.27/Calhariz(Bica)停留所付近)

 

名物のタイル「アズレージョ」
(2014.11.27/R. Escolas Gerais停留所付近)

 

 

クリックで写真のみご覧いただけます

 

 

 

〈過去にゆる鉄ファインダーでご紹介した写真をこちらからご覧いただけます〉

 

〈なかい せいや〉1967年東京生まれ。鉄道の車両だけにこだわらず、鉄道に関わる全てのものを被写体として独自の視点で鉄道を撮影する。広告、雑誌写真の撮影のほか、講演やテレビ出演など幅広く活動している。著書・写真集に『1日1鉄!』『デジタル一眼レフカメラと写真の教科書』など多数。株式会社フォート・ナカイ代表。公益社団法人日本写真家協会(JPS)会員、日本鉄道写真作家協会(JRPS)会員。

関連記事Related Article

PAGE TOP