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フォトジェニックな魅力「アトランティック パフィン」

三洋化成ニュース No.496号掲載

フォトジェニックな魅力「アトランティック パフィン」

2016.06.07

春から夏にかけて変化、鮮やかなカラーリング

会話をしているような光景をよく見る

ハクトウワシの営巣シーンを撮影するために、僕は4月中旬から7月下旬まで、北大西洋に浮かぶカナダのニューファンドランド島でキャンプ生活をしていた。この島の総面積は日本の本州の約半分にも及ぶ広大なもので、海沿いには頻繁に氷山が押し寄せ、寒冷な気候ではあるが、さまざまな動植物たちに彩られた自然豊かな土地である。あまりに広大なため、限られた地域しか訪れることができないが、それでもダイナミックな地形が展開する野性の深みのようなものを、ひしひしと感じる。
この島では毎年夏になるとアイスランドなどの北極圏から、繁殖のためにアトランティックパフィンが南下してくる。和名はニシツノメドリ。くちばしや毛の色が季節で変わり、冬は全身グレーっぽくて地味なのだが、春から夏の繁殖期にはピエロのような鮮やかなカラーリングになる。その独特な顔つきはとても印象的で、以前から間近で見たいと思っていた。
さまざまな動物がいるなかで、これはと思う被写体を選ぶのだが、選択の基準は特になく、好みや勘による。鳥の仲間ではワシやフクロウなど、精悍な猛禽に強く惹かれるが、猛禽なら何でも良いとはならない。撮りたいと思わせる何かがないと、やはり面白くないので、自然と胸に浮かんでくる動物に取り組むようにしている。

捕食動物を避けるため沖合の小島で繁殖

コロニーを形成する無数のパフィンたち

年間を通じて海で暮らす海鳥のパフィンは、地面に作られた巣穴でヒナを育てていて、ニューファンドランド島近海にやって来る大量のカラフトシシャモやイカナゴなどを潜水して捕まえ、くちばしにくわえて持ち帰る。50メートル以上も潜れる高い潜水能力を持つ代わりに、潜水に適した短い羽で、バタバタと大きな音を立てて飛ぶ姿はいまひとつパッとしないが、外見同様に愛嬌のある振る舞いは、とても愛らしい魅力に満ちている。
毎年、陸からわずかな沖合に浮かぶ小島で繁殖しており、無数の巣穴が点在するこうした場所をコロニーと呼ぶ。陸地から離れているおかげで、キツネなどの捕食動物から隔離され、比較的安心して子育てすることが可能なのだ。5月の中ごろに卵を一つ産み、7月初旬ごろに孵化する。ヒナが誕生すると、親鳥はせっせと魚を捕まえてきて与える。コロニーにはパフィンよりはるかに大型のカモメもウロウロしているのだが、なぜかというと、パフィンが獲ってきた魚を横取りするためだ。命まで奪われることはないのだが、せっかく海に潜って獲ってきた獲物を取られてしまうのは、見ていて少々気の毒になってしまう。そのため、獲物を獲ってきたパフィンは、着地するやいなや、ドタドタと大急ぎで巣穴へと駆け込んでいく。巣穴の奥にいるためヒナの姿は見えないが、持ち帰る魚の量からして、食欲はとても旺盛なのがわかる。孵化して1カ月半ほどでヒナは巣立ちをする。どういう理由か以前は、ヒナが巣立つ前に親鳥が子育てを放棄して、飢えに駆り立てられたヒナが仕方なくコロニーを離れると考えられていた。だが実際には、ヒナが巣立つまでしっかりと親鳥が給餌していることが確認されている。巣立つ際に親鳥と一緒ではなく、ヒナだけで海へと飛び込むことからそう思われていたのかもしれない。パフィンは生涯同じパートナーと過ごすのだが、冬場などの繁殖期以外は別々に暮らしている。繁殖期になると越冬地からコロニーに戻ってきて、そこでパートナーと再会し、営巣に入る。よくまた会えるものだと感心すると同時に、とてもユニークな習性だと思った。

鳥類の中では長寿、直立姿勢も大きな特徴

パフィンの獲物を横取りするカモメ

1年の大半を海に浮かんで過ごす

寿命は20年ほどとみられているが、なかには30年生きた例も観察されているので、鳥類の中ではとても長寿だ。1年に1個しか卵を産まない、繁殖率の低さと引き換えの長寿なのかもしれない。くちばしと同じく鮮やかなオレンジ色をした脚は、多くの鳥の仲間と比較して体の後ろの方についているので、立ち上がったような直立姿勢をするのもパフィンの大きな特徴だ。営巣シーズンを終えると陸地から離れ、冬の間もずっと海上で過ごす。一切陸地に上がらずに暮らすことを想像すると、とても過酷そうに思える。しかし、海で生きることに特化したパフィンにとって、食料をすぐに調達できて、捕食者から離れられる海上は、たとえ嵐に見舞われても快適な環境なのだろう。

現在は手厚く保護、デリケートな生き物

奥にヒナのいる巣穴から顔を出した親鳥

獲ってきたイカナゴを巣まで運ぶ

その昔は、肉や卵が美味なために乱獲された時代もあった。繁殖率が低いために、一度個体数を減らしてしまうと回復するまでに数年から数十年もかかるという。現在はコロニーを含めて手厚く保護をされているが、かなりデリケートな生き物である。例えば、生息地近辺で船舶の事故があり、重油が流出するなどの惨事が起きると、真っ先に被害を受けるのがパフィンをはじめとする海鳥の仲間である。これまでにもそうした事故によって、大量の海鳥たちが命を落としている。過度の狩猟も事故も人災だ。
僕が取材をした土地のパフィンは、ほかの鳥と比べても警戒心を過不足なく持っていると感じたが、長年保護を続けているアイスランドの島などでは、野生のパフィンが人を怖がらず、触っても平気なほどらしい。その是非はともかく、パフィンは特に人類と仲良く共存できる術を心得ている鳥といえるのかもしれない。カモメに獲物を横取りされるなど可哀想な面もあるが、とてもフォトジェニックであり、じわじわと引き込まれてしまうささやかなオーラを放っている。
 

文・写真=動物写真家 前川 貴行〈まえかわ たかゆき〉

1969年東京都生まれ。和光高等学校卒業。

エンジニアとしてコンピュータ関連会社に勤務した後、独学で写真を始める。1997年から動物写真家・田中光常氏の助手を務め、2000年からフリーでの活動を開始。世界を舞台に、野生動物の生きる姿をテーマに撮影に取り組み、雑誌、写真集、写真展などで作品を発表している。2008年日本写真協会賞新人賞受賞、2013年第1回日経ナショナル ジオグラフィック写真賞グランプリ受賞。公益社団法人日本写真家協会会員。主な著書に『動物写真家という仕事』など。

 

 

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