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[vol.17] ローカル線の希望の星 只見線全線復旧!

三洋化成ニュース No.536

[vol.17] ローカル線の希望の星 只見線全線復旧!

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2023.01.23

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文・写真=鉄道写真家 中井精也

約11年ぶりとなる只見線復旧の日。下りの一番列車が到着すると、只見駅は歓声に包まれた(2022.10.1/只見駅)

 

11年ぶりに全線復旧を果たした只見線

2022年10月1日、災害により実に11年にわたって一部区間の運休が続いていたJR只見線が、全線復旧を果たしました。上の作品は、下りの一番列車が只見駅に到着したシーン。車両故障で約4時間も到着が遅れるという予期せぬトラブルがありましたが、待ちに待った全通列車が現れると、住民や全国から集った只見線ファンから大きな歓声が上がりました。「おかえり」と書かれた横断幕と、みんなの笑顔に、失われた期間の長さを実感しました。

 

誰もが認める日本有数の絶景路線

只見線は福島県の会津若松駅と新潟県の小出駅を結ぶ、全長135.2キロメートルのローカル線。その車窓風景は実に変化に富んでいます。会津若松駅から会津坂本駅にかけての区間は、広大な田園が広がる会津盆地のなかを走ります。なかでも圧巻なのは、蓋沼森林公園付近から見下ろす会津盆地と只見線の風景(下の写真)。見渡す限り続く広大な田園風景を、只見線がのんびりと横切る光景は、ここでしか見られない絶景と言えるでしょう。

会津坂本駅から只見駅までの区間では、只見川の中流部に広がる深い渓谷に沿って列車が走ります。渓谷といってもゴツゴツした岩場ではなく、雄大でありつつ穏やかで優しい只見川の絶景に心が癒やされます。只見駅を過ぎ、県境に位置する六十里越ろくじゅうりごえトンネルを越えて新潟県に入ると、さらに車窓風景は一変。緩やかな只見川とは全く表情が違う末沢すいざわ川、破間あぶるま川の険しい渓谷に沿って列車は進みます。入広瀬駅を越えると再び車窓に田園が見え始め、魚沼盆地に入れば終点の小出駅に到着です。

広大な会津盆地を行く(2021.6.10/会津高田~根岸)

 

ハイライトは第一只見川橋梁

そんなバラエティーに富んだ沿線風景のハイライトは「第一只見川橋梁きょうりょう」です。只見川の渓谷に架かる藤色の鉄橋は、八つある只見川に架かる鉄橋の中で最もフォトジェニック。紅葉の時期(下の写真)はもちろん、新緑から雪景色まで、四季折々にドラマチックな絶景が展開します。道の駅「尾瀬街道みしま宿」から整備された山道を使って、撮影場所まで20分ほどで簡単に登れるのもうれしいところです。

きんしゅうの第一只見川橋梁(2021.11.6/会津桧原~会津西方)

 

下の夜景も、第一只見川橋梁です。こちらは鉄橋を挟んで道の駅と反対側の川岸にある、通称「船着き場ポイント」から撮影したもの。23時過ぎの最終列車が天の川の下を走るような光景は、まるで銀河鉄道そのもの。幻想的な風景にうっとりしながら撮影しましたが、実は熊が出るのではないかと、内心ビクビクしていました(笑)。

満天の夜空の下、第一只見川橋梁を渡る(2021.6.10/会津桧原~会津西方)

 

只見川の絶景に溶け込む集落の風景

下の写真は、会津中川駅に近い大志集落をかん撮影したもの。都会にあっても浮いてしまいそうな派手な色彩の屋根が、会津の風景に見事に溶け込んでいるのに驚かされます。自然と調和する色を見つける日本人の色彩感覚はスゴいなぁと改めて感じました。

まるでスイス? 只見川流域の絶景(2021.11.6/会津中川~会津川口)

 

今回復旧した会津川口駅から只見駅にかけての区間にも、会津らしい集落の風景が広がります。下の写真は、只見駅に近い叶津川橋梁を行く、復旧記念列車。懐かしい客車列車が、かやぶき屋根を持つ関所跡の風景に良く似合います。ここに列車が通るのは、実に11年ぶり。撮りたくて待ち焦がれたこの風景に、胸が熱くなりました。

復旧区間で試運転する復興記念列車(2021.9.6/会津蒲生~只見)

 

壊滅的な被害からの奇跡的な復活劇

只見線は2011年7月に発生した新潟・福島豪雨の被害により、会津川口〜只見間27.6キロメートルが不通になりました。その被害は甚大で、第五、第六、第七只見川橋梁の三つが流失。多くの箇所で路盤や盛土の流出、土砂流入などが発生しました。2年後にJRが発表した復旧・安全対策費用は、たったの総額約85億円。あまりに少ない数字に、僕を含めた多くの鉄道ファンが只見線の将来を絶望視するなか、只見線沿線住民は決して諦めず、只見線の魅力を日本だけでなく世界に向けて発信し続けました。それが功を奏し、只見線は台湾などを中心として世界中から多くの人が訪ねる、有名観光地になったのです。その流れを受けた行政側も只見線は地域振興に必要と判断。JRに只見線の復旧・存続を要請します。さらに福島県と沿線自治体、民間企業や銀行、地元住民や鉄道ファンによる募金を合わせて、なんと約24億円もの「只見線復旧基金」が集められ、復旧に向けた覚悟を表したのです。

そして、巨額の復旧費用は、国、福島県と沿線17自治体、JR東日本の折半で負担、復旧後の鉄道施設の保有・維持管理は福島県が、運行はJR東日本が担う「上下分離方式」の採用が決定。

只見線はまるでドラマのような、奇跡的な復旧を果たしたのです。

とはいえ、今回復旧した区間の運転本数は1日たったの3往復。このことからも、今回の復旧は、単に運賃収入を得るためだけではなく、只見線を存続させることによる莫大な経済効果を認めたからにほかなりません。

「鉄道がある価値」を全国に知らしめた只見線は、日本中で赤字にあえいでいるローカル線の希望の星として、明るい未来へ走り続けているのです。

季節はゆっくりと冬へ
(2020.12.21/会津坂本~会津柳津)

 

 

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〈過去にゆる鉄ファインダーでご紹介した写真をこちらからご覧いただけます〉

 

〈なかい せいや〉1967年東京生まれ。鉄道の車両だけにこだわらず、鉄道に関わる全てのものを被写体として独自の視点で鉄道を撮影する。広告、雑誌写真の撮影のほか、講演やテレビ出演など幅広く活動している。著書・写真集に『1日1鉄!』『デジタル一眼レフカメラと写真の教科書』など多数。株式会社フォート・ナカイ代表。公益社団法人日本写真家協会(JPS)会員、日本鉄道写真作家協会(JRPS)会員。

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