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ブナの森の魅力 青森県・白神山地のきのこの森

三洋化成ニュース No.510号

ブナの森の魅力 青森県・白神山地のきのこの森

2018.09.10

大好きな広葉樹の森

クリタケ

秋本番のブナの森で食用になるクリタケが生えていた

きのこの写真を本格的に撮影し始めた2007年から、ぼくの主な撮影フィールドは、ずっと変わらず北海道の阿寒湖周辺の森だ。初夏から晩秋にかけて、阿寒の森の中で、相も変わらず、ひたすら、飽きることなく、写真を撮影している。多少変化したことがあるとするなら、きのこ一辺倒だった撮影対象に、粘菌(変形菌)が加わり、ここ数年で、さらに地衣類とコケとシダが加わった。

ぼくの興味は、年を経るごとに、いわゆる「隠花植物」全般へと、どんどん広がっている。実は、阿寒の森のほかに、もう一つ大好きな森がある。秋田県北西部と青森県南西部にまたがる白神山地だ。ご存じの方も多いと思うが、ユネスコの世界自然遺産に登録されている、ほとんど人の手が加わっていない世界最大級のブナの原生林で、動植物、菌類など、多種多様な生きものが生息している。阿寒湖周辺では、針葉樹と広葉樹が入り混じっている針広混交林と、マツを中心にした針葉樹の森が多く見られるが、広葉樹が形成している大規模な森は、ほとんどお目にかかれない。それだけに、広葉樹のブナの森は全くの別世界。訪れるたびにわくわくする。

 

立ち枯れした巨木にサルノコシカケの仲間が多数発生

 

そもそも、温帯を代表する樹種であるブナは、日本では鹿児島県大隅半島が南限で、東日本に多く分布している。北海道では南部の渡島半島のみに分布し、黒松内がブナの森の北限だ。つまり、北海道東部に位置する阿寒湖周辺では、ブナを見ることができない。道東を代表するブナ科の樹木といえば、寒冷な気候をものともしないミズナラだ。

新緑の季節、紅葉の季節ブナの森のきのこたち※世界自然遺産の登録地域は、核心地域と緩衝地域に分けられる。核心地域は、森林生態系保護を目的として管理・保護され入山が制限される地域。緩衝地域は、核心地域に外部から人為的影響を及ぼさないように指定されている地域で、気軽に世界自然遺産に触れることができる。

 

新緑の季節、紅葉の季節

ぼくは、ここのところ何年も、6月から10月まで北海道に滞在しているので、白神山地を訪れるのは、ゴールデンウィーク前後と北海道へ渡る前の5月後半、そして、北海道を後にした10月後半から11月前半くらいの時期に限られる。しかしながら、ぼくは、ブナの森を心ゆくまで堪能できる季節は新緑と紅葉の頃だと思っているので、願ったりかなったりだ。
ブナの森は明るい。どちらかというと鬱蒼としている阿寒湖周辺の森とは好対照だ。ブナは、一本一本がすごく個性的な姿をしていて、絵になるし、眺めていて飽きることがない。

太いブナの根元からどんどん雪が解け、待ちに待った春が訪れ、木々は鮮やかな若葉で彩られる。晴れた日の森は、若葉越しにまばゆい緑の光が降り注ぐ。また、雨の日、ブナの巨木が、霧をまとって、威風堂々と存在感たっぷりに立っている姿もたまらない。森は、ちょっと土臭いような、それでも生のエネルギーを十分に感じることができる新鮮な香りで満たされ、見るもの全てが、まさに生き生きとしている。

 

ナメコ

ブナの倒木から発生するナメコは秋を代表する食菌だ

 

そして、秋。カエデ類やヤマウルシなど、派手な色に紅葉する樹木ももちろん美しいが、緑色〜黄色〜赤褐色〜褐色とさまざまな色を見せてくれる、ブナの葉のグラデーションに魅了される。山全体が装う白神山地の紅葉は圧巻だ。

 

ブナの森のきのこたち

とはいえ、ブナの森は、あくまでも脇役である。そう、ぼくにとって、観察と撮影の主役は、もちろんきのこだ。
春のブナの森は、命の輝きで満ちている。長く厳しい白い季節が去ると、林床に色とりどりの美しい草花が咲き競う。キクザキイチゲなど、イチリンソウの仲間の花が咲いていたら要チェック。地面を丁寧に確認していくと、運が良ければ、小さな茶碗型の茶色いきのこに出会える。アネモネタマチャワンタケだ。
林床の倒木や落枝には、ニセクロチャワンタケや、キクラゲの仲間が。また、きのこファンの間で春の風物詩として人気のアミガサタケの仲間を見たいなら、ヤマザクラの周辺を探すといいだろう。

アミスギタケ

傘の裏が網目のような管孔になっているアミスギタケ

 

新緑の季節になると同時に、森にはたくさんのきのこが顔を出し、シーズン本番だ。
白神山地に限らず、東北地方のブナの森は、きのこ天国。秋のきのこ狩りは、その地で暮らす人たちにとっては、春の山菜採りと同じく、趣味と実益を兼ねたレジャーでもある。地元の人たちは、マツタケやマイタケ以外の、ナメコ、クリタケ、ブナシメジ、ムキタケなどを「雑きのこ」などと呼んでいるが、雑などころか、みんな一級品のおいしいきのこばかりだ。
天然ものを食べるのは、きのこの最大級の楽しみ方ではあるが、初心者が種を同定するのは相当難しいので、生きものとしてのきのこを、ぜひじっくりと観察してほしい。10倍程度のルーペがあるとなお楽しい。

白神山地の核心地域※に立ち入るのは、手続きや沢歩きの技術や装備なども含めて、一般人にはかなりハードルが高いが、日本海側の青森県深浦市にある白神岳や十二湖、そして、未舗装・未整備の林道ではあるが、県道28号いわゆる白神ライン沿い、青森県西目屋村にある暗門の滝周辺、秋田県藤里町にある岳岱自然観察教育林などは、緩衝地域※なので届け出なしでも気軽にブナの森を堪能できる。ぼくが「白神山地」と呼んでいる場所も、ほぼその周辺だ。

新井 文彦〈あらい ふみひこ〉

地方の白神山地や八甲田山の周辺などで、きのこや粘菌(変形菌)など、いわゆる隠花植物の撮影をしている。著書に『きのこの話』、『きのこのき』、『粘菌生活のススメ』、『森のきのこ、きのこの森』など。書籍、雑誌、WEBなどにも写真提供多数。

きのこには、食べると中毒事故を引き起こすものもあります。実際に食べられるかどうか判断する場合には、必ず専門家にご相談ください。

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