三洋化成グループは2021年12月に気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD:Task Force on Climate-related Financial Disclosures)の提言に賛同を表明しています。TCFD提言の4つの開示推奨項目であるガバナンス、戦略(移行計画、シナリオ)、リスク管理、指標と目標に沿い適切な情報開示に取り組んでいます。また気候変動のリスクと機会が関連する財務指標に与える影響度を時間軸に基づき評価し、経営戦略に反映させています。
これまで当社グループは政府の方針に基づき、2017年度以降CO2排出量を着実に減少させてきました。「2030年CO2排出量削減50%(2013年度比)、2050年カーボンニュートラル」を目標とし、グループ全体で積極的に取り組んでいます。また、当社グループのCO2排出量削減だけでなく、サプライチェーン全体でCO2排出量削減に貢献する製品開発を化学メーカーの責務として果たすことで、持続可能な社会の実現に貢献するとともに企業価値の向上につなげていきます。
ガバナンス
気候変動に関するガバナンスは、サステナビリティのガバナンスに組み込まれています。2024年度はサステナブル経営委員会を3回実施し、気候変動への取り組みの報告を2回行いました。

戦略
当社グループは気候変動に関する戦略の策定にあたり、TCFD提言に沿ったシナリオ分析を実施しています。シナリオは脱炭素社会への移行が実現する1.5℃シナリオに加え、世界的に経済成長を優先する4℃シナリオを選定しています。
シナリオの考え方
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1.5℃シナリオ |
世界の平均気温が1.5℃上昇で気候変動を抑制する脱炭素移行シナリオ (参考)国際エネルギー機関における長期的な見通し「Net Zero Emissions by 2050」 |
4℃シナリオ |
世界の平均気温が4℃上昇で気候変動が進行する経済成長シナリオ (参考)気候変動に関する政府間パネル 第6次統合報告書(IPCC AR6)「SSP5-8.5」 |
<想定される世界>
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1.5℃シナリオで 想定される世界 |
脱炭素社会の実現が最優先、野心的な気候変動政策を実施
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4℃シナリオで 想定される世界 |
化石燃料依存による経済成長が最優先、追加的な気候変動対策を実施しない
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リスク管理
シナリオを踏まえたリスクと機会に関する気候変動の影響に対して、当社グループの対応策をさまざまな観点から検討しています。2022年度シナリオ分析を実施してから継続的なブラッシュアップをしており、2024年度はリスクと機会の選定および時間軸を考慮した影響度評価を定量的な分析として行いました。各事業共通のリスクと機会、および各事業固有のリスクと機会を一覧にしました。時間軸は影響するリスクと機会に対する時期を短期・中期・長期と分類しています。影響度評価は影響する金額を、大・中・小と分類しています。
想定される気候変動要因(各事業共通)
主として脱炭素化に向けたカーボンプライシングなどの政策による規制が強まるとともに、脱炭素に適した素材への需要シフトを想定しており、バイオマス資源や持続可能な資源の活用による新市場創出の機会を模索しています。さらに、循環型社会や脱炭素社会に向けた革新技術の登場も想定しており、従来の生産技術に依存するリスクを含め、バイオマス原料・リサイクル原料の活用技術開発や低炭素技術・高エネルギー効率のプロセス開発が競争優位性の向上につながると考えています。
また、国内外の環境貢献を評価する支援策や補助金の活用が事業転換を後押しする可能性があり、適切な環境関連情報開示や社外評価への対応が重要と捉えています。
気候変動に伴う異常気象や自然災害は、原料調達や物流に関するサプライチェーンの分断および自社の生産体制に影響を及ぼすリスク要因ですが、事業継続計画の定期的な整備や物流ネットワークの再構築を図ることで企業の信頼性向上につとめるとともに、防災・衛生・復興関連製品の拡充により社会へ貢献していきます。
気候変動に関する各事業共通の「リスク」と「機会」への対応策
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分類 | シナリオ | 気候変動区分 | 気候変動による影響 | 時間軸 | 影響度評価 | 対応策 | |
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リスク | 1.5℃ | 政策規制 | 炭素税引き上げ | エネルギー調達コストの増加 | 中長期 | 大 |
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省エネ、 低炭素規制 |
リサイクル原料の使用義務 | 中長期 | 中 |
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政策 | 輸出地域の規制変更によるシェア喪失 | 中期 | 大 |
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国の政策変更による生産拠点の移転・撤退 | 短期 | 大 |
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技術 | 環境貢献 | リサイクル対応製品の需要増加 | 中長期 | 大 |
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市場 | 市場の変化 | 各国の政策乖離によるエネルギー、原料の分断化 | 中長期 | 大 |
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消費行動の変化 | 低炭素製品需要の動向変化 | 長期 | 小 |
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評判 | 業界批判 | 環境対応軽視による資本撤退・取引消失 | 短中長期 | 大 |
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訴訟 | 化石燃料による環境悪化 | 長期 | 大 |
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4℃ | 急性 | 自然災害 (台風・豪雨等) |
サプライチェーンの分断、自社拠点の被災 | 短中長期 | 大 |
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慢性 | 自然災害 (渇水・気温上昇等) |
渇水等による取水制限 | 長期 | 小 |
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機会 | 1.5℃ | 政策規制 | 省エネ、 低炭素規制 |
省エネ設備の投資コスト増加 | 長期 | 大 |
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技術 | 環境貢献 | 節約志向によるエシカル消費の拡大 | 中期 | 中 |
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市場 | 市場の変化 | ニッチな市場の潜在的発生 | 長期 | 小 |
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評判 | 業界批判 | BtoC市場における環境意識の高まり | 短期 | 小 |
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訴訟 | 透明性のある環境情報の開示要求 | 中長期 | 小 |
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4℃ | 急性 | 自然災害 (台風・豪雨等) |
自然災害・悪天候における製品需要拡大 | 短中長期 | 小 |
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慢性 | 自然災害 (渇水・気温上昇等) |
平均気温上昇における生活様式の変化 | 短中長期 | 小 |
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想定される気候変動要因(各事業固有)
社会全体の環境意識の高まりに伴い、環境負荷の大きい製品への批判が懸念される反面、環境貢献の大きな製品を積極的に開発することが企業価値の向上につながると考えています。製品ライフサイクルの観点から環境性能(高性能化・長寿命化・軽量化など)が優れた環境貢献製品の開発や普及活動などを意識することがカーボンニュートラル社会の実現に不可欠です。
当社がこれまで培ってきた強みと新たに獲得する強みに、外部の知見を組み合わせ、「持続可能な地球環境の実現」と「利便性・快適性の向上」との両立可能な、社会に役立つ製品開発を目指します。
気候変動に関する各事業固有の「リスク」と「機会」への対応策
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分類 | シナリオ | 気候変動区分 | 気候変動による影響 | 時間軸※1 | 影響度評価※2 | 対応策 | |
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リスク | 1.5℃ | 政策規制 | 省エネ、 低炭素規制 |
バイオマス原料の使用義務化 | 長期 | 中 |
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技術 | 環境貢献 | 可食品由来原料の需給不安 | 中期 | 大 |
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市場 | 市場の変化 | 認証要求の高まり | 中期 | 小 |
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消費行動の変化 | ガソリン車、ハイブリッド車の販売減少 | 中長期 | 大 |
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消費者の嗜好変化 | モノからコトへの価値観の変化 | 長期 | 大 |
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評判 | 業界批判 | グローバル調達型企業との取引縮小 | 中長期 | 大 |
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訴訟 | 市街地にある化学品生産拠点に対する訴訟 | 中長期 | 大 |
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4℃ | 急性 | 自然災害 (台風・豪雨等) |
停電時の温調不備による品質劣化 | 短中長期 | 小 |
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慢性 | 自然災害 (渇水・気温上昇等) |
天然資源の供給不良 | 中期 | 中 |
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機会 | 1.5℃ | 政策規制 | 炭素税の導入・ 引き上げ |
CCUSの普及 CO2排出量削減に寄与する製品の需要増加 |
長期 | 大 |
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省エネ、 低炭素規制 |
CO2排出量削減貢献製品の市場拡大 | 中長期 | 中 |
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政策 | 煙道ガスの排出規制 | 長期 | 大 |
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技術 | 環境貢献 | ガソリン車から電気自動車への移行 | 中期 | 大 |
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市場 | 市場の変化 | バイオマス原料使用製品の市場拡大 | 中期 | 中 |
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未病ビジネス拡大、在宅医療ニーズ増大 | 中期 | 中 |
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消費行動の変化 | 電気自動車の需要増加(車載電池の軽量化促進) | 中長期 | 大 |
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消費者の嗜好変化 | 日用品市場の環境志向の高まり | 中長期 | 小 |
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評判 | 業界批判 | 環境関連情報の透明性がある開示要求 | 長期 | 小 |
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訴訟 | 石油化学事業への批判 | 長期 | 大 |
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4℃ | 急性 | 自然災害 (台風、豪雨等) |
断熱塗料の需要拡大 | 長期 | 小 |
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慢性 | 自然災害 (渇水、気温上昇等) |
環境変化に強い農作物市場拡大 | 中期 | 中 |
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水質悪化による水質改良需要の高まり | 短期 | 小 |
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- 時間軸は、当社の事業特性をふまえたリスクおよび機会が顕在するまでの時間として時期を短期・中期・長期と分類
短期:1年未満
中期:1年以上3年未満
長期:3年以上 - 影響度については金額を大・中・小と分類
大:利益への影響が、10億円以上
中:利益への影響が、1億円以上10億円未満
小:利益への影響が、1億円未満
指標と目標
環境課題を解決するための取り組みとしては、新中期経営計画2025の中で、種々の指標や目標を設定しています。1つは温室効果ガス排出量(Scope1, Scope2)を削減する指標です。コージェネレーションや太陽光発電の導入に加え、CCU(Carbon dioxide Capture and Utilization:CO2回収・利用)やグリーン水素導入の取り組みを推進していきます。もう1つはカーボンニュートラルに貢献する製品を拡大するための指標を設定していきます。
当社グループの2030年のありたい姿に向けた経営方針:WakuWaku Explosion 2030で示しているとおり事業ポートフォリオの抜本的な見直しを含め、サステナブル経営を力強く推し進めることでCO2排出量削減に貢献していきます。
Scope1, Scope2:事業所からの排出
当社グループは京都議定書が発効された2005年に「京都議定書に関する活動方針」を定めるとともに、国内各事業所の温室効果ガス削減活動としてエネルギー使用の効率化、生産プロセス改善や燃料転換などに取り組んできました。
当社グループは高付加価値製品の販売に重点を置く経営方針により低付加価値製品の販売をやめたことで、2018年度から生産量が減少しました。プロダクトミックスが変化した結果、国内の生産量当たりのCO2排出原単位は減少に転じました。また、2023年度に高吸水性樹脂事業からの撤退を決断し、事業ポートフォリオが大きく変わった結果、2024年度以降の自社事業所からのCO2排出量を大幅に削減できる見通しとなり、「2030年CO2排出量削減50%(2013年度比)」を前倒しで達成できる見込みです。当社グループは引き続き、「2050年カーボンニュートラル」実現に向けて取り組みを推進していきます。
今後、当社グループでCO2排出量が多い名古屋工場と鹿島工場に注力していきます。CO2排出量削減対策としてCCUの活用や水素などのエネルギー転換および、製品単位の抜本的な製造プロセスの見直しを検討していきます。
<Scope別CO2排出量(Scope1, Scope2):実績と目標>

カーボンニュートラルに向けたロードマップ
CO2排出量削減策としてエネルギー転換・効率化(エネルギーマネジメント導入、太陽光発電・グリーン水素、コージェネレーション)、製造プロセスの見直しを進めています。さらにCCU導入により「2050年カーボンニュートラル」実現を目指します。
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Scope3:サプライチェーンを通じた排出
燃料使用等による直接排出(Scope1)、他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出(Scope2)に加え、サプライチェーンを通じた排出(Scope3)を算定しています。 2023年度は、当社事業所からの排出量(Scope1, Scope2)23.1万トンに対し、サプライチェーンを通じた排出(Scope3 Category1~7, 12)では191.1万トン。購入原材料にかかるCO2排出量および当社製品を使用した最終製品の廃棄にかかるCO2排出量が、それぞれScope3全体※の53%、39%を占めます。
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出典:環境省Webサイト
- Scope3全体:当社製品の販売先での使用・加工・輸送にかかるCO2は、データ収集が困難で算定していない
また、2022年度から、グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパンのCSR調達セルフ・アセスメント質問表を活用し、サプライチェーンを通じたCO2排出量削減に取り組んでいます。
今後に向けて
当社グループは適切な環境関連情報開示を行い、ステークホルダーのみなさまに説明責任を果たしていきます。複数の気候変動シナリオによるリスクと機会が事業活動に与える影響を認識し対応策を準備することで事業のレジリエンス向上を図り、社是に基づいた事業活動を継続していきます。また自社の2050年カーボンニュートラル達成にとどまらず、サプライチェーン全体でのCO2排出量削減に貢献し、持続可能な社会の実現につとめます。