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e-フルード向け耐焼き付き性向上添加剤

三洋化成ニュースNo.550

e-フルード向け耐焼き付き性向上添加剤

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2026.01.16

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パフォーマンスポリマー事業本部 
研究部(執筆当時)副主任 植野 和志
[お問い合わせ先]同営業部

はじめに

カーボンニュートラルの世界的な推進を背景として、自動車の電動化が急速に進展している。これに伴い、モーター、インバーター、減速機を一体化した高効率駆動ユニットであるeAxleの採用が拡大している。eAxle 向け潤滑油(以下、e-フルード)には、耐焼き付き性、冷却性、電気絶縁性、耐銅腐食性など、複合的な性能要求が課されており、これらの性能は電動車全体のエネルギー効率(電費)および信頼性を左右する重要な要素となる。本稿では、e-フルード向けに開発した耐焼き付き性向上添加剤『アクルーブ NS-100』について紹介する。

※ 電費:電気1kWh 当たりで走ることができる距離。電費が良くなると、より少ない電力で長く走ることができるようになる。

自動車の電動化および電動車の駆動技術について

eAxle近年、CO2をはじめとする温室効果ガスによる地球温暖化防止の取り組みが多方面で進展している。全世界のCO2排出量の約22%を占める運輸部門においては、ガソリンエンジン車の販売規制が強化されるとともに、CO2排出量削減に寄与するBEV(Battery Electric Vehicle)、PHEV(Plug-in Hybrid Electric Vehicle)、HEV(Hybrid Electric Vehicle)などの電動車の普及が加速している1)

電動車の需要拡大に伴い、低電費化を実現する技術開発も活発化している。特に、電動車の駆動ユニットとして開発されたeAxle は、従来別々に配置されていたモーター、インバーター、減速機といった駆動に必要な部品を一体化したユニットであり、部品の集約による車両の軽量化や省スペース化が可能になるだけでなく、設計の自由度が高まり、熱マネジメントの効率化、電気ロスの低減などを通じて、電費効率の向上に大きく寄与している(図1)。

eAxle向け潤滑油「e-フルード」の要求性能と課題

eAxle の減速機に適用される潤滑油は「e-フルード」と呼ばれ、ギアなどの摺動部しゅうどうぶ(部品同士が滑り合う部分)で発生する焼き付き・摩耗・摩擦を緩和し、機械の円滑な動作を支えるために必要不可欠なものである。

近年、モーターの温度上昇に由来する電費効率低下を抑制する目的で、e-フルードを冷却液としても兼用する油冷タイプのeAxleの需要が高まっている。油冷タイプのeAxleでは、モーターを構成するコイルやローターに対してe-フルードを滴下、部分的に浸漬、あるいは吹き付けることによって、モーターの効率的な冷却が可能となる。

冷却性を向上させるにはe-フルードの低粘度化が有効であり、加えて、低粘度化によってギアなどの摺動部における撹拌かくはん抵抗も低減されるため、e-フルードの低粘度化は電費効率改善の有効な手段の一つである。

さらに、e-フルードはモーターという電動機械を冷却する性質上、漏電や短絡を防ぐための十分な電気絶縁性が求められる。一方、過度に絶縁性が高いと帯電する恐れがあり、帯電は誤作動や性能低下の原因となるため、帯電が問題とならないよう過度に高い絶縁性も回避する必要がある。すなわち、漏電や短絡、帯電が発生しないよう、電気絶縁性を適切に調整することが重要である。また、e-フルードとモーターが接触することでコイルの銅線が腐食しないよう、高い耐銅腐食性も同時に要求される。

e-フルードの技術的課題

e-フルードの低粘度化は冷却性能向上および撹拌抵抗低減による電費効率改善に有効であるが、単純な低粘度化では油膜が薄くなり、摺動部の焼き付きが発生しやすくなるため、駆動ユニットの故障リスクが高まる。このため、ベースオイルの低粘度化と同時に、焼き付き防止効果を有する潤滑油添加剤の配合が不可欠となる。

しかし、従来用いられてきた硫黄系およびリン系の潤滑油添加剤は極性が高く、電気絶縁性の過度な低下による漏電や短絡のリスク、さらには化学的活性の高さによる銅腐食の懸念がある。そのため、これら添加剤の添加量には制限があり、特に銅腐食性の高い硫黄系添加剤はe-フルードへの適用が忌避されている。

一方、電気絶縁性および銅腐食性の観点から硫黄系およびリン系添加剤を削減すると、焼き付きが発生しやすくなる。すなわち、e-フルードにおいては耐焼き付き性と電気絶縁性、耐銅腐食性の両立が技術課題であり、耐焼き付き性を向上させつつ、電気絶縁性および銅腐食性への悪影響が小さい新規添加剤の開発が求められている。

当社は、低粘度環境下でも高い耐焼き付き性を発揮し、e-フルードに求められる複合的な性能をバランスよく備えた耐焼き付き性向上添加剤『アクルーブ NS-100』を開発した。

e-フルード向け耐焼き付き性向上添加剤『アクルーブ NS-100』

『アクルーブ NS-100』は、従来、粘度特性向上などを目的にエンジン車用潤滑油向けに展開してきた『アクルーブ』シリーズで培った有機ポリマー技術を活用し、耐焼き付き性、電気絶縁性、耐銅腐食性の3 特性を両立した耐焼き付き性向上添加剤である。『アクルーブ NS-100』は、独自技術により設計した特殊な長鎖アルキル基を有するモノマーと、長い側鎖の末端に高極性の吸着性官能基を有する特殊部位を導入したモノマーを共重合したポリマーで構成される(図2)。このポリマーは吸着性官能基で、金属摺動部表面に吸着し、厚い油膜を速やかに形成する。これにより、摩擦面の保護性能が向上し、高い耐焼き付き性を発揮する。また、硫黄やリンを含有しない有機ポリマー骨格であることから、電気絶縁性や耐銅腐食性を損なうことがない。

「アクルーブNS-100」の構造イメージ

[耐焼き付き性]
「アクルーブNS-100」の耐焼き付き性、電気絶縁性e-フルードの低粘度化に伴い要求される耐焼き付き性は、ASTM D2783 に準拠した高速シェル四球試験により評価した。高速シェル四球試験は、頂部の鋼球を回転させ、試験球への荷重を段階的に上昇させて鋼球表面が焼き付かない荷重の上限(最大非焼き付き荷重)を測定するものである。最大非焼き付き荷重が大きいほど、焼き付きにくく潤滑性が良好であることを示す。

図3 に、市販e-フルードに対して『アクルーブ NS-100』および吸着性官能基を含有しないポリマーである『アクルーブ A-1061』(当社駆動系潤滑油向け粘度指数向上剤)をそれぞれ添加した試験油の最大非焼き付き荷重を示す。

その結果、『アクルーブ NS-100』添加油の最大非焼き付き荷重は、市販e-フルードおよび当社従来品『アクルーブA-1061』を添加したe-フルードと比較して約25%向上した。すなわち、吸着性官能基の導入により、従来品には見られない耐焼き付き性の向上が実現した。このため、『アクルーブ NS-100』は摩耗や焼き付きによる駆動ユニットの故障リスクを低減し、ギア摺動部の高効率化や長寿命化に貢献できることが確認された。また、リン化合物など他の添加剤との併用で、耐摩耗性、耐焼き付き性のさらなる向上も可能である。

[電気絶縁性]
電気絶縁性は、単位体積当たりの電気抵抗を示した値である体積抵抗率(Volume Resistivity、単位:Ω・cm)を測定することにより評価できる。表1 に、耐焼き付き性の評価で用いた3種類の試験油の体積抵抗率を室温下で測定した結果を示す。

『アクルーブ NS-100』の添加により体積抵抗率は約3%上昇するにとどまり、電気絶縁性への影響は極めて小さい。耐焼き付き性の付与に必要な吸着性官能基は極性が高く、それ単体では体積抵抗率の低下を招く。しかし、吸着性官能基の導入量を必要最小限に抑えるとともに電気絶縁性の高い長鎖アルキル基を併用することで、ポリマー全体としては電気絶縁性をほぼ変化させず、適度な電気絶縁性を維持できる設計となっている。

[耐銅腐食性]
耐銅腐食性は、ASTM D130に準拠した銅板腐食試験により評価した。銅板腐食試験では、研磨済み銅板を試験油に浸漬し、高温下で腐食反応を行った後、銅板の外観を観察することで試料の銅に対する腐食性を判定する。

表2 に、耐焼き付き性の評価で用いた3 種類の試験油を用いて腐食試験を実施した後の銅板外観を示す。『アクルーブ NS-100』添加油を含むいずれの試験油でも銅板は黄銅色であり、腐食による黒色への変化は認められなかった。この結果から、『アクルーブ NS-100』は高い耐銅腐食性を有することが確認された。

さらにe-フルードとして要求される酸化安定性についても、長期間使用した後でも粘度上昇や酸化による変化が小さく、問題ないことを確認している。

「アクルーブNS-100」の耐銅腐食性

今後の予定

『アクルーブ NS-100』は、国内外の潤滑油メーカーによる実機評価において高い耐焼き付き性と信頼性が認められ、既に一部大手ユーザーを含む複数社で採用が進んでいる。

『アクルーブ NS-100』は、電動車の駆動ユニットに限らず、高効率化が求められる産業機械やモビリティ分野全般への応用も期待される。特に、低粘度油の使用が進む冷却兼用潤滑系においては、摩耗や焼き付きのリスクが高まる傾向にあり、本製品のように多面的な性能をバランスよく備えた添加剤は、今後の技術革新において重要な役割を果たすと考えられる。

今後も多くのユーザーのニーズに応え、高性能化・技術革新に取り組むとともに、電動化が進む各種モビリティや産業機械分野への展開も視野に入れ、持続可能な社会の実現に貢献していく。

 

参考文献
1)IEA Global CO2 emissions from transport by sub-sector in the Net Zero Scenario, 2000-2030

 

当社製品および開発品をお取り扱いいただく際は、当社営業までお問い合わせください。また必ず「安全データシート」(SDS)を事前にお読みください。使用される用途における適性および安全性は、使用者の責任においてご判断ください。

 

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